○「
相続財産に関する費用−特に葬儀・法要費用について」を続けます。今回は、墓石建立費用についての備忘録です。
相続人の中で祭祀承継者となった者が、被相続人死去後に墓石を建立した場合、その費用を当然の如く民法第885条相続財産に関する費用として、相続財産の中から支出すべきと主張しますが、実はこれも一筋縄ではいかない問題です。祭祀承継者が承継した墳墓には、承継後その祭祀承継者の一族の遺骨は入っても、祭祀承継者以外の相続人は入らないのが原則ですから、祭祀承継者以外の相続人は、その墓石はお前が入るために作ったんだからお前が負担して当然だと主張するからです。
○この問題の解決には,次の祭祀承継者の条文も重要となります。
第897条(祭祀に関する権利の承継)
系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
「
祭祀財産に相続についての覚書」にこの規定に関する基本説明をしていますが、祭祀承継の放棄や辞退は認められないが、祭祀をすべき義務はなく、祭祀財産も自由に処分できるなど訳の判らない規定です(^^;)。
○祭祀財産は、「系譜、祭具及び墳墓」ですが、一般家庭で最も重要なものは「墳墓」です。価値も高く、何よりその中に被相続人の遺骨を納めるからです。この遺骨の所有権については,諸説あるところ、「
遺骨の所有権は慣習に従って祭祀を主宰すべき者に帰属1」に記載したとおり、平成元年7月18日最高裁判決(家月41巻10号128頁)は、遺骨の所有者は、慣習に従つて祭祀を主宰すべき者に帰属すると決定しました。但し、「
遺骨の所有権は慣習に従って祭祀を主宰すべき者に帰属3」記載の通り、この判例は、判例集登載が見送られ、この事件限りのものとして捉えているように窺われ、この問題に関する最高裁判所の法律見解は、まだ公式のものとしての位置づけはなされていないとのことです。
○しかし最高裁の判例が出ている以上、遺骨は祭祀承継者に帰属すると覚えておいて良いでしょう。この遺骨を納めるための墓石が、被相続人死亡時まで建立されていなかったり、地震等の災害で滅失して再建立が必要になり、墓石を新たに建立して例えば300万円の費用がかかった場合に、祭祀承継者の相続人はこの300万円は、民法第885条相続財産に関する費用で、相続財産から支出するのが当然と主張し、その他の相続人は、いずれもお前が入るんだからお前が負担しろとなって争いになります。
○そこで判例を種々調べているのですが、この問題を争点としてスッキリ解決している判例は、現時点では見つけられません。僅かに「
相続財産に関する費用−特に葬儀・法要費用について」で紹介した
平成24年5月29日東京地裁判決にありましたので以下に該当部分を紹介します。
「
墓地使用権96万0000円(同サ)及び墓石購入費143万円(同シ)は,亡Aの生前の意向に沿うものであったとしても,前記認定事実1(1)によれば,大阪府豊能郡にすでに建てた墓があり,墓を巡って亡Aと亡Eひいては原告との間に意見の対立があったことを,D及び被告においても当然知り得たものといえるから,亡Aの墓を新たに建てる費用につき,原告が亡Aの遺産の中から相続分に応じてその費用を負担することを受忍すべきとまではいえない。」
この判例では消極ですが、被相続人の意向がハッキリしていれば積極に解する余地もあるようで、実務的には半分負担する程度で調節するべきでしょう。