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小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

相続財産

相続財産に関する費用についての参考判例紹介1

○「相続財産に関する費用-特に葬儀・法要費用について」、「相続財産に関する費用-特に墓石建立費用について」で、参考判例として平成24年5月29日東京地裁判決(ウエストロージャパン、平成22年(ワ)20174号)を紹介しましたが、当HPを有用として毎日愛読されているという有り難い弁護士さんから同様の問題を抱えているので判決全文を紹介して欲しいとの要請を受けました。当事務所でも現在数件の相続事件を抱えており、その参考にするための備忘録でしたが、この判例の事案は世間には山のようにある典型的事案であり、その解決指針として参考になりますので、全文を紹介します。

○先ず事案ですが以下の当事者で亡Aに関する遺産たる預貯金の帰属問題です。おそらく遺産分割調停が成立しないため裁判となったと思われますが、家裁での審判ではなく、地裁に対する不当利得返還請求訴訟の判決であることに注意を要します。

当事者は、亡A(大正7年○月○日生)は,最初の夫亡B,同人らの間の長男亡C(平成5年10月30日死亡),二男D,長女被告、亡Aの2番目の夫亡E、同人らの間の長女原告,その養子亡C,Dです。以下、相続関係図です。


   亡A━┳━亡B(h20.8.8 死去)        亡A━┳━亡E(h7.7.24 死去)
      ┃                     ┃
  ┏━━━┻┳━━━━┓           ┏━━━╋━━━┳━━━┓
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  長    二    長           養   養   養   長
  男    男    女           子   子   子   女
  亡    D    被           亡   D   被   原
  C         告           C       告   告


○紛争は,世間で良くある事案で、亡Aの相続人原告が、被告に対し,被告が原告に無断で亡Aの預貯金及び恩給の合計約739万円を取得してこれを清算せず,原告の法定相続分に相当する184万6841円を不当利得として返還を請求したところ、被告は、亡Aが死亡後に亡Aの葬儀費用等約350万円、法要等約74万円、墓地・墓石約240万円、固定資産税・保険料等約50万円等合計約712万円を使用しており、全て相続に関する費用であり、被告には利得はないと主張したところ、判決は被告主張金額を細かく分析して相続に関する費用に含まれないものがあることを認定し、最終的に約90万円の不当利得を認めました。
以下、全文を3回に分けて紹介します。

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主文 
1 被告は,原告に対し,90万9112円及びうち90万2672円に対する平成15年7月24日から,うち6440円に対する同年9月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 
2 原告のその余の請求を棄却する。 
3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 
4 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。
 
 
事実及び理由
第1 請求
 
1 被告は,原告に対し,184万6841円及びうち183万3758円に対する平成15年7月24日から,うち1万3083円に対する同年9月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 
2 訴訟費用は被告の負担とする。 
3 仮執行宣言 

第2 事案の概要 
1 本件は,被相続人亡Aの相続人である原告(子,法定相続分4分の1)が,相続人である被告(子)に対し,被告が原告に無断で亡Aの預貯金及び恩給の合計738万7365円を取得してこれを清算せず,原告の法定相続分に相当する184万6841円を不当利得しており,うち預貯金183万3758円を引き出した日の翌日である平成15年7月24日から,うち恩給1万3083円を受領した日の翌日である平成15年9月20日から,それぞれ悪意の受益者として民法所定の年5分の割合による法定利息が発生していると主張して,上記請求のとおりの支払を求める事案である。 

2 前提となる事実
(1) 当事者等
 
 亡A(大正7年○月○日生。以下「亡A」という。)は,亡B(以下「亡B」という。)と婚姻し,同人らの間には,子として長男亡C(昭和15年○月○日生,平成5年10月30日死亡),二男D(昭和18年○月○日生),長女被告(昭和21年○月○日生)がいる。亡Bは,昭和20年8月8日に死亡した。 
 亡Aは,昭和21年9月20日,亡Bの弟である亡E(以下「亡E」という。)と婚姻し,同人らの間には,子として長女原告(昭和25年○月○日生)がおり,亡Eは,亡C,D及び被告を養子とした。亡Eは,平成7年7月24日に死亡した。(争いのない事実) 

(2) 亡Aの死亡とその法定相続人 
 亡Aは,平成15年7月20日に死亡した。亡Aの法定相続人は,子である亡Cの代襲相続人であるF及びG(法定相続分各8分の1ずつ),いずれも子であるD,被告及び原告(同各4分の1ずつ)である。(争いのない事実) 

(3) 被告は,亡Aの死亡後,平成15年7月23日までに亡Aの預貯金合計733万5032円を解約等により引き出し,同年9月19日に亡Aが受給すべき恩給5万2333円を受領し,もって合計738万7365円(以下「被告受領金」という。)を取得した(争いのない事実)。 

3 原告の主張 
(1) 被告は,原告に無断で,被告受領金を取得し,現在においても,原告との間で清算していない。 
 したがって,被告は,原告の法定相続分4分の1に相当する184万6841円を不当利得しており,また,前記1のとおり,悪意の受益者に対する法定利息の請求権を有する。 

(2) 被告は,亡Aの葬儀費用等に支出して被告受領金は残っていないと主張するが,当該支出は法的根拠に欠けるものであり,仮に法的根拠があったとしても,当該支出の金額を裏付ける根拠がなく,当該支出をする合理性も欠けるから,原告の不当利得返還請求の額を減殺することはできない。 
 亡Aの遺産(消極財産)には,亡Aの葬儀・法要費用及び墓建立費用が含まれる余地はないし,その負担を拒否して亡Aの遺産のうち法定相続分の4分の1を渡すよう請求しても,権利濫用となることはない。 
 原告は,亡Aが死亡した当時,所在不明であったことはなく,被告が原告に連絡を取れなかったことはない。 

4 被告の主張 
(1) 被告は,亡Aが死亡したために,亡Aの葬儀費用等に使用するために被告受領金を取得し,後記(2)のとおり,現にその支出に充てた。したがって,被告は,原告に対して不当利得をしていない。 
 亡Aの遺産(消極財産)には,亡Aの葬儀・法要費用及び墓建立費用が含まれるし,仮に含まれないとしても,亡Aが生前から亡Aの遺産から上記費用を支出することを強く望み,祭祀承継者が定まっていないときに相続人の一人が上記費用を負担しなければならないことは相続人間に不平等な結果を生ずるから,原告が上記費用を負担せずに積極財産だけの法定相続分を主張することは権利の濫用に当たり許されない。 
 原告は,亡Aが死亡した当時,所在不明であり,被告から連絡をとることができなかった。 

(2) 亡Aが死亡したことにより支出した費用は,次のとおり,合計712万6066円である。 
(葬儀費用等) 
ア 葬儀費用 329万6033円 
イ 葬儀の際の寺でのお手伝いへの志,食事代 11万1170円 
ウ 死亡時の検死等費用 8万4026円 

(法要等) 
エ 二七日,三七日,四七日,五七日,六七日法要 2万5000円 
オ 四九日法要 15万2530円 
カ 門徒菓子代 3万0000円 
キ 一周忌法要 12万0420円 
ク 納骨費用 2万0000円 
ケ 門徒講金(5年分) 6万0000円 
コ 三回忌法要,開眼法要 33万5407円 

(墓建立) 
サ 墓地 96万0000円 
シ 墓石 143万0000円 

(固定資産税・火災保険料等) 
ス 固定資産税 29万2310円 
セ 火災保険料 2万9170円 
ソ 荷物搬出費用 15万0000円 
タ 近隣挨拶 3万0000円