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「祭祀財産に相続についての覚書」で、系譜、祭具及び墳墓の所有権は、原則として祖先の祭祀を主宰すべき者が承継するとの民法897条の説明をしましたが、被相続人の遺体・遺骨についての所有権等は誰に帰属するかについて検討します。
○この問題についての学説は種々に分かれますが、最高裁平成元年7月18日判決は、遺骨の所有権は、慣習に従って祭祀を主宰すべき者に帰属するとしています。
この事案の概要は、以下の通りです。
X(昭和11年生まれ)は被相続人亡Aとその亡妻B(ともに明治40年代の生まれで、昭和16年婚姻)の養子であり、Y夫婦(被告・控訴人・上告人)はAの主宰していた○○クラブの会員である。
亡A−−−亡B
|(養子縁組)
X夫婦 Y夫婦はA主催○○クラブの会員で亡AB夫婦と長年同居・AB死後遺骨保管
XがY夫婦相手に亡AB遺骨返還請求
Aは若年のころから某上人の教義に帰依、昭和31年ころ都内某所建物を本拠にで布教活動を始めたが、翌年ころ信者達がAを支援し、かつ、信者間の親睦を目的とする○○クラブを結成し、以後同クラブを主宰し本件建物においてその名称で布教活動に従事していた。
A・B夫婦は実子に恵まれず、昭和38年2月信者の一人であったXを養子とする縁組をし、Xは以後A・B夫婦と同居し大学卒業後横浜市に所在する○○女学院に教師として勤務し、昭和47年4月婚姻後も暫くの間は本件建物においてA・B夫婦及びY夫婦と共に生活していたが、X夫婦とY夫婦との折り合いが悪かったことやXが長距離通勤で健康を損ね勝ちであったことを心配したA・B夫婦の勧めで昭和49年始めころ横浜市内に転居するに至った。
他方、Y夫婦はA・B夫婦と血縁関係はないが、その夫はA・B夫婦が本件建物に転居する前からの信者で、転居の二年後位に結婚し、妻も信者となり、A・B夫婦は昭和38年3月ころ本件建物の西側車庫部分を増築し、そこにY夫婦を居住させて同居していた。
Y夫婦はA・B夫婦と同居以来その身辺の世話をし、同夫婦がその晩年病気勝ちになってからは手厚い看護をするなど同夫婦に献身奉公するかたわら、A主宰の○○クラブの活動の本拠である本件建物の維持管理をなし、同クラブの諸行事に携わってきた。
この状況下で、Bが昭和57年7月13日に死亡、Aはその遺骨については埋葬せず、本件建物内の仏壇に安置していたが、自身も昭和59年11月26日死亡し、その後、Y夫婦がA・Bの遺骨を本件建物内の仏壇に安置して保管していた。
X夫婦とA・B夫婦との間には前記別居後も行き来があり、Xは自己の費用で、銚子市内にあるA家の墓(某宗○○寺内)を建て直し、慣習に従って養父母の遺骨を右墓に埋葬すべくその引渡を求めたが、Y夫婦に拒絶され、所有権に基づいて遺骨の引渡を請求する訴えを提起し、第一、二審はそれぞれ理由は異なるも、いずれもX夫婦の請求を認容し、これに対しY夫婦が上告していた。