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「遺骨の所有権は慣習に従って祭祀を主宰すべき者に帰属1」の話しを続けます。最高裁平成元年7月18日判決の事案は、宗教団体主催者である被相続人夫婦の遺骨の所有権を巡って最期まで同居して世話をした信者と養子との間で争ったもので、最終的には祭祀承継者である養子にあるとしたものです。以下、金野俊男氏の判タ臨増762号170頁解説を要約して紹介します。
○遺体或いは遺骨については、昭和22年の民法改正の前後を通じ明文の規定がありません。そのため遺体或いは遺骨について如何なる内容の権利が成立し、その権利がどのような原因によって誰に帰属するのか、議論が分かれています。
○遺体については、埋葬、礼拝、供養等のための一種特別の存在であって所有権の客体とはならないとする裁判例(東京地八王子支判昭48年9月27日、判時726号74頁)やこれを支持する学説(廣橋・法時48巻8号102頁)、或いは、遺骨等は民法上の物であるが、埋葬管理及び祭祀供養を目的とする慣習・条理上或いは親族法上の権利が成立するに過ぎないと無体権的に構成する有力な学説(柚木・判総上385・387頁、我妻=唄・判例コン[58・77頁、穂積・昭2判民50事件等)も存在します。
○遺骨等は有体物として所有権の目的となるが、その性質上目的的制限を受け、埋葬管理・祭祀供養の範囲においてのみ認められるとするのが通説(我妻・新訂民法総則203頁、川島・民法総則144頁等)で、大審院判例(大判大正10年7月25日民録27輯1408頁、大判昭和2年5月27日民集6巻307頁)も同旨です。
○既に墳墓に納められている古い祖先の遺骨は民法897条の祭祀財産たる墳墓に含まれ、これと一体的に扱われるものとして理解されている(新版注釈民法27巻134頁〔小脇〕等)が、ここで問題とされている被相続人自身の遺骨等の帰属については見解が対立し、
(1)相続人に帰属するという立場、
(2)慣習、条理により当然喪主となるべき者に帰属するという立場(中川編・注釈相続法(上)127頁、東京地判昭和62年4月22日判タ654号187頁等)、
(3)被相続人の祭祀を主宰すべき者に帰属するという立場
とがあます。
○その帰属原因を何に求めるかで、
(1)については
@相続を原因とする説(東京地判大正3年7月23日新聞991号29頁、本件の第一審判決等
A慣習を原因とする説(鳩山・増訂改版日本民法総論142頁等)に、
(3)についても
@慣習又は条理を原因とする説(東京高判昭和62年10月8日家月40巻3号45頁、判タ664号117頁等)
A民法897条の類推ないし準用に求める説(遠藤他・注釈財産法T三一三頁、東京高判昭和59年12月21日東高民事報35巻208頁、星野茂「遺骨の所有権」法時60巻10号119頁等)
があります。