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「遺骨の所有権は慣習に従って祭祀を主宰すべき者に帰属2」の話を続けます。
遺骨等は有体物として所有権の目的となるが、その性質上目的的制限を受け、埋葬管理・祭祀供養の範囲においてのみ認められるとする学説・判例に対しては、被相続人自身の身体について、所有権を考えることができず、相続ということも起こるべき筈がなく、相続人複数の場合、殊に、相続人が配偶者と甥や姪の場合などを考えると、その後の法律関係が複雑となり、その処理も困難となって不穏当、不当との批判が強くありました。
○戦後の民法改正により、祭祀財産の承継に関する規定が設けられた後は、遺骨等こそ祭祀の主たる対象であり、民法897条の類推ないし準用して、被相続人の祭祀を主宰すべき者にその帰属を認めるべきであるとする学説・裁判例が多数説をとなり、本件の第二審判決もこれに分類されるようです。
○遺骨等の帰属について、身体に対する被相続人の所有権ないし支配権を肯定(薬師寺・日本民法総論新講第一冊296頁等)し、被相続人からの承継取得と解する学説もありますが(小脇前掲書)が、帰属原因を慣習に求める説や、祭祀主宰者帰属説の立場でも、民法897条の祭祀条項は遺産とするには馴染まない財産処理について祭祀主宰者という存在を認め、その家に旧来より伝わる祭祀財産を中心に帰属・管理につき規定したものであるとして原始取得を結論付ける考えもあります(星野前掲書)。
○本判決は、原審の事実認定を消極的な態度で支持したのに止まるものですが、大審院判例が採っていた相続人説、帰属原因相続説を排し、近時の傾向に従って民法897条の類推ないし準用説によったものと思われます。しかし、遺骨の帰属原因やBの遺骨についての帰属態様(原始取得か承継取得か)が判然としません。また埋葬前の遺骨等について、慣行上の喪主から遺骨の侵奪者に対し直接引渡しを求めた場合、慣行上の喪主と祭祀主宰者との間で争いが生じた場合等について、なお理論的詰めが残されているとのことです。
○この判例が、判例集登載が見送られた点をも併せ考えると、本件をこの事件限りのものとして捉えているように窺われ、この問題に関する最高裁判所の法律見解は、まだ公式のものとしての位置づけはなされていないとのことですが、いずれにしても、従来から学説並びに下級審の裁判例の上で争いのあった遺骨の帰属について、最高裁判所が示した初めての判断で実務上の参考になる判例です。