本文へスキップ

小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

交通事故傷害と統合失調症発症との因果関係否定判例紹介1

○「統合失調症の再発による損害と交通事故との因果関係肯定例1」と「交通事故傷害での統合失調症発症に起因力3分の1認めた例」で交通事故による傷害と統合失調症と因果関係を一部肯定した例を紹介しましたが、今回は、否定例を紹介します。平成15年10月9日千葉地方裁判所判決(平成12年(ワ)第2631号損害賠償請求事件自動車保険ジャーナル・第1560号)です。

○事案概要は次の通りです。
・29歳男子の原告は、平成9年3月17日午後8時05分ころ、東京都板橋区内で自動二輪車運転中、B運転、被告所有の普通貨物車に追突され、両膝打撲等から約5か月後自賠責保険の後遺障害認定手続において後遺障害等級第2級3号に該当する旨の認定を受けた。
・但し、自賠責保険金支払額の認定にあたっては、原告の統合失調症による症状と本件事故との間の因果関係の認否が困難な場合に該当するとして、後遺障害等級第2級3号の保険金額からは50%の減額が行われた。
・原告は、18歳のころから家の中に閉じこもりがちとなり、時々母親に暴力を振るうことがあり、埼玉県越谷市に居住していたときには精神科で治療を受けて「思春期挫折症候群」と診断され、精神安定剤を処方されていた。その後、原告は、バイトを転々としては、閉じこもり、母親に対して暴力をくり返すなどしていた
・原告は、平成9年8月9日、精神科の診察を受け、摂食障害や睡眠障害などがあり、医師から問われたことに的確に答えられず、要領を得ない状態であり、同月15日から平成9年11月10日まで入院検査・治療を受け、退院後も通院治療を受け、平成11年2月8日、「精神分裂病」の傷病名による後遺障害診断書が作成された(症状固定日は平成11年2月1日)。
・事故により精神分裂病(統合失調症)発症し後遺障害2級3号を残したとして約1億1800円を求めて訴えを提起

○これに対し、千葉地裁は、18歳のころ、閉じこもり、家庭内暴力等で精神科の診察を受け、統合失調症と診断されており、本件追突事故では両膝打撲傷で脳損傷は認められず、2回受診した約5か月後、精神科受診で統合失調症と診断された等、「本件事故との間に相当因果関係を認めることは困難である」「原告の請求は理由がない」と請求棄却しました。
 以下、その判決のうち裁判所の事実認定の部分までです。

***********************************************

主   文
 1 原告の請求を棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、金1億1784万1449円及びこれに対する平成9年3月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、原告が被告に対し、交通事故に基づく損害賠償を請求した事案であり、原告は交通事故と原告の精神分裂病(統合失調症。以下「統合失調症」ともいう。)の発症ないし症状の悪化との間に因果関係があると主張しているのに対し、被告はこれを否定している。
1 争いのない事実
(1)本件事故の発生

 平成9年3月17日午後8時5分ころ、東京都板橋区西台一丁目41番先路上において、訴外B(以下「訴外B」という。)が、普通貨物自動車を運転し走行していた際、前方を時速10q程度で徐行していた原告運転の普通自動二輪車に追突し、その結果、原告は、両膝打撲の傷害を負った。

(2)被告の責任原因
 訴外Bは、被告の従業員であり、本件事故は、その業務執行中、前方不注意の過失によって生じたものであるから、被告は、民法715条1項に基づき、原告が本件事故によって被った損害を賠償する責任がある。

2 主たる争点
(1)原告の統合失調症が本件事故によって発症したものであるか。
(2)仮に、原告が本件事故前に統合失調症であったとしても、その症状が本件事故によって悪化したものであるか。

第3 当裁判所の判断
1 証拠(略)によれば、次の事実が認められる。
(1)原告(昭和42年3月26日生、当時満29歳)は、平成9年3月17日午後8時5分ころ、本件事故に遭い、同日午後8時40分ころ、救急車で高島平中央総合病院に搬送され、「両膝打撲」の傷病名で治療を受けた。その際、原告は、歩行可能であり、両膝の痛みがあったが、可動性は良好で、レントゲン検査でも骨折等の異常はなかった。原告は、翌18日にも、同病院に来院し、治療を受けたが、左膝の圧痛があったものの、膝蓋跳動や膝の不安定性はなく、同病院の島峰医師は、両膝打撲との傷病名で、加療1週間を要する見込みとの診断をした。

(2)原告は、平成9年8月9日、両親とともに、千葉県精神科医療センターを訪れ、両親から医師に対し、原告が身体がだるいと訴えているということのほか、摂食障害や睡眠障害などがあることなどが述べられたが、原告は、医師から問われたことに的確に答えられず、要領を得ない状態であり、同月15日から平成9年11月10日まで入院することとなった。原告は退院後も同センターで通院治療を受け、平成11年2月8日、織田宇一郎医師によって、「精神分裂病」の傷病名による後遺障害診断書が作成された(症状固定日は平成11年2月1日)。

(3)原告は、平成12年2月16日、自賠責保険の後遺障害認定手続において後遺障害等級第2級3号に該当する旨の認定を受けたが、支払額の認定にあたっては、原告の統合失調症による症状と本件事故との間の因果関係の認否が困難な場合に該当するとして、後遺障害等級第2級3号の保険金額からは50%の減額が行われた。

(4)他方、原告は、18歳のころから家の中に閉じこもりがちとなり、時々母親に暴力を振るうことがあり、埼玉県越谷市に居住していたときには精神科で治療を受けて「思春期挫折症候群」と診断され、精神安定剤を処方されていた。その後、原告は、バイトを転々としては、閉じこもり、母親に対して暴力をくり返すなどしていたが、東京に転居後、成増厚生病院の医師から精神病ではないといわれ、精神科医による治療は受けていなかった。

(5)また、原告は、16歳のころ、高速道路で自動二輪車を時速約80qで運転中、渋滞で停止していた車両に追突する交通事故を起こしている。

(6)なお、原告の身の回りのできごととして、平成9年3月16日、原告の祖母が入院し、本件事故後の同年3月末には原告の家族は引越をし、同年6月8日には、祖母が他界している。

(7)原告は、平成12年7月11日、千葉家庭裁判所における手続において、千葉県精神科医療センターの林医師の鑑定を受けたところ、同医師は、原告の思考障害が顕在化したのは、平成9年3月以降であるが、18歳ころから引きこもりや家庭内暴力をみせており、以後の社会適応も十分ではないことから、このころから、「精神分裂病」を発症していたと考えられるとの鑑定を受け、平成12年9月ころ、保佐開始の裁判を受け、そのころ同裁判は確定した。