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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

統合失調症の再発による損害と交通事故との因果関係肯定例1

○「うつ病発症自殺と交通事故との因果関係を認めた判例1」、「交通事故3年半経過後の自殺と事故との因果関係を認めた判例」等でごく一部を紹介しましたが、交通事故による傷害を苦にしてうつ病を発症して最終的に自殺に至った事例で、自殺による死亡と事故との因果関係が争いになり、ある程度の訴外が認められた例は多数あります。

○うつ病は、脳の形態検査、機能検査あるいは血液・尿・髄液検査などの医学的検査で特異的な異常が見つからない、原因不明の精神疾患で、非器質的精神障害とされていますが、同様の非器質的精神障害として、統合失調症があります。統合失調症は、昔は、「精神分裂病」と呼ばれていましたが、人格否定につながるとして平成14年8月から「統合失調症」呼称が変えられました。統合失調症の陰性症状とうつ病の症状は大変似ており、総合失調症の初期にはうつの症状が出ることが多く、専門医でもなかなか見分けられないと説明されています。

○統合失調症とうつ病の違いのポイントは、統合失調症では妄想が現れることですが、うつ病にも妄想が現れる「妄想性うつ病」或いは「精神病性うつ病」もあるとのことで、両者の区別はなかなか難しそうです。「こころのクリニック」と言うサイトに、、「うつ病」と「統合失調症」について、わかりやすい比較の表が掲載されていますが、特に注目してもらいたい部分として思考パターンの違いがあり、うつ病は、「前向き。いわゆるプラス思考。積極的。楽観的。」統合失調症は「後ろ向き。後悔しがちで、いわゆるマイナス思考。消極的。悲観的。心配性で、取り越し苦労(予期不安)が多い。」と説明されています。うつ病の思考パターンが「前向き。いわゆるプラス思考。積極的。楽観的。」とは、全く意外でした。

○交通事故後発症したうつ病、更にうつ病悪化による自殺と交通事故との間の因果関係についての判例は多数ありますが、交通事故と統合失調症発症の因果関係についての判例は、大変少なく、公刊された判例集等にはなかなか見当たりません。大部古いものですが、昭和43年11月28日大阪地裁判決(判例タイムズ232号202頁) を紹介します。
公刊されているデータは,以下の部分だけで、残念ながらこのデータだけでは余り参考になりません。

〔判決理由〕
(2)精神分裂病と本件事故との因果関係
(証拠)によると、原告は昭和36年ごろ約8か月間、昭和40年4月から10月まで約6か月半、いずれも精神分裂病の治療を受けるため入院したことがあるが、本件事故当時は完全寛解の状態にあつたこと、本件事故後右坐骨々折等の外傷治療のため○○外科病院に入院中精神異常を疑わせる行動が現われたので、事故による右外傷がほぼ治ゆした昭和42年9月11日から△△病院に転入院していること、原告の右精神異常は以前の精神分裂病の再発と診断されているが、同病の再発は右外傷自体に起因するものでなく、外傷の治療のため入院し生活が単調になつたという環境の変化がその主因をなしていることが認められる。

 とすると、原告の右精神分裂病の再発と本件事故との間に因果関係を認めるべきであるが、原告がそのため長期間にわたり入院して受けた損害は、本件事故によつて通常生ずべき損害の範囲を越え、特別の事情によつて生じた損害であるといわなければならない。しかるところ、証人Aの証言によると、事故前の原告のように精神分裂病が寛解状態にあつて通常人とほとんど変わらない生活を送つている者は必ずしも少なくないことがうかがわれるので、被告としては一般人のうちに原告のような精神分裂病の寛解状態にある者が、存在することを予見し、または予見することができたものといわなければならない。したがつて、被告は原告が前認定の外傷および精神分裂病の再発により受けた損害の全部を賠償すべき義務がある。