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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

交通事故傷害と統合失調症発症との因果関係否定判例紹介2

○「交通事故傷害と統合失調症発症との因果関係否定判例紹介1」の続きで、裁判所の結論部分です。
交通事故後のうつ病発症及びうつ病に伴う自殺と交通事故による傷害との因果関係が争いなった事案は、「うつ病発症自殺と交通事故との因果関係を認めた判例1」を含め相当数あります。しかし、交通事故による傷害で統合失調症(旧精神分裂病)を発症したとしてその因果関係が争いなった事案は公刊された判例集では殆ど見当たりません。統合失調症(旧精神分裂病)発症は、遺伝的要素が強く、脳の機能的異常と思われてきたため相談しても弁護士に断られるケースが多かったものと思われます。

○ところが、平成15年10月9日千葉地方裁判所判決(平成12年(ワ)第2631号損害賠償請求事件自動車保険ジャーナル・第1560号)の事案は、事故による傷害を原因として精神分裂病(統合失調症)発症し後遺障害2級3号を残したとして約1億1800円もの請求をした事案です。自賠責保険の後遺障害認定手続で、おそらく統合失調症を理由に後遺障害等級第2級3号に該当する旨の認定を受けたことが、請求の根拠ですが、この自賠責の認定も、因果関係の認否が困難な場合に該当するとして、後遺障害等級第2級3号の保険金額からは50%の減額が行われたとのことですが、大変珍しい認定です。

○自賠責では50%の減額が認められましたが、事故による傷害のせいで統合失調症が発症したとの訴えは、「本件事故によって、統合失調症に罹患したとは認められない。」として棄却されました。ポイントは、原告は、18歳のころから家の中に閉じこもりがちとなり、時々母親に暴力を振るうことがあり、埼玉県越谷市に居住していたときには精神科で治療を受けて「思春期挫折症候群」と診断され、精神安定剤を処方されていたと言う点で、このため、判決は「原告は、本件事故から10年以上前である18歳のころに統合失調症に罹患していたと認めるのが相当」と認定しました。

○事故による傷害と統合失調症の因果関係が100%認められるには、重篤な頭部傷害を受け、医者からその傷害が原因で脳に異常を来し統合失調症が発症したとの診断書等が必要で、相当希有な例と思われます。しかし、統合失調症の発症原因は、遺伝や脳の機能的異常だけでなく、ストレスも発症原因なるとの学説も強くなってきており、交通事故によるストレスとの割合的因果関係は認められる例もあると思われます。但し、そのためには事故以前の精神状態の確認も必要で、本件のようなケースは、事故のせいで統合失調症が発症したとは認めにくいと思われます。

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2 以上の経過によれば、原告は、本件事故から10年以上前である18歳のころに統合失調症に罹患していたと認めるのが相当であり、本件事故によって、統合失調症に罹患したとは認められない。

3 次に、原告は、本件事故によってそれまでなかった統合失調症の症状が発症したとも主張している。ところで、統合失調症は、一般に、青年期に好発する原因不明の精神病であり、発症しやすい遺伝的素質があると考えられており、内因性精神疾患に含まれるとされるが、その発症は遺伝要因と環境要因の相互作用と考えられているところ、原告は、本件事故前に統合失調症に罹患しており、引きこもりや暴力行為がみられていたものの、本件事故後、原告の両親が原告を精神科に受診させたことから、そのころ、原告に種々の問題行動がみられたことが窺われることからすれば、原告の症状と本件事故との間に因果関係がある可能性についても検討する必要がある。

 しかしながら、本件事故によって原告が受けた傷害の部位・程度からすれば、原告は頭部を打撲したり、脳実質に損傷をきたすような外傷があったわけではなく、両膝打撲は1週間の加療見込みとの診断であり、その治療は本件事故の日とその翌日の2日のみであること、原告が千葉県精神科医療センターを受診したのは平成9年8月9日であり、本件事故の日と前記受診の日までの間の原告の症状は必ずしも明らかではないものの、原告の母親が、同センターに事前に電話で相談した際には、原告が18歳ころからの事情を述べているのに対し、本件事故のことについては特に言及されていないことからすれば、原告の母親においても原告の症状と本件事故とを結びつけて考えていなかったと推認できること、本件事故があった日の直前には、原告の祖母が入院し、その後死亡したということがあり、このことが原告にそれ相当の精神的負荷をかけた可能性があり、事故後すぐに引越があって環境の変化があったことも原告の症状に精神的負荷をかけたと考えられることなどの諸事情を考慮すると、仮に本件事故が原告の症状の顕在化に影響を与えたとしても、それは原告を取り巻く他の環境要因の1つとして作用したと考えられ、その作用の程度・割合は限られたものにすぎないと考えるのが相当であって、そもそも、原告の症状は、原告自身に備わっていた要因ないし原告を取り巻く他の環境要因を特別事情として発生したと考えられ、結局のところ、本件事故との間に相当因果関係を認めることは困難である。

4 よって、原告の請求は理由がないので、主文のとおり、判決する。

   千葉地方裁判所民事第2部
       裁判官 見米 正