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小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

相続人

祭祀承継者と相続財産の帰属に関する昭和28年9月4日東京高裁決定紹介

○祭祀承継者についての「祭祀承継者を巡り二人姉妹が争い判断が分かれた裁判例全文紹介」、「祭祀財産承継者判断基準を定めた昭和56年10月16日大阪高裁決定要旨紹介」の2つの記事を読まれた方から、相続人以外の祭祀承継者となった者が相続財産の内から祭祀承継業務としての将来の法要費用等を取得ができないかとの質問を受けました。

○遺産分割協議においては、長男等祭祀承継者となった者に将来の法要費用等を加算した分割で合意することは実務上良くあります。しかしこれを法的権利と主張できるかどうかについては、「相続財産に関する費用についての参考判例紹介3」で紹介した平成24年5月29日東京地裁判決(ウエストロージャパン、平成22年(ワ)20174号)が、一周忌の費用までは民法第885条相続財産に関する費用と認めています。

○相続人が祭祀承継者となった場合、祭祀承継を理由に特別の相続分や祭祀料等の特典は認められないとの昭和28年9月4日東京高裁決定( 家庭裁判月報5巻11号35頁、判例時報14号16頁)がありましたので、全文を以下に紹介します。 「利害関係人両名が本件家屋内において、仏壇その他を整えて被相続人サノの祭祀を行つているからといつても、抗告人らにおいて利害関係人らの行う右祭祀に協力し、将来これを継続するに要する費用を分担すべき法律上の義務あるものではない。」として、祭祀承継者の特典を否認しています。

○しかし、この判例は、60年以上前の判例で、且つ、原審は祭祀承継者の特典を認めていたようであり、また、相続人でなく、遺産を一切取得しない者が祭祀承継者となった場合までは、触れていません。遺産を一切取得しない相続人以外の祭祀承継者であれば、相続財産の一部を祭祀承継費用として認めても良いような気がします。相続人に対し、一部相続財産を祭祀承継費用と認めよと主張するのは構わないと思います。

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主   文
 原審判を左のとおり変更する。
一、別紙目録記載の不動産及び動産を相手方(原審利害関係人)秋本八造、同秋本義江の両名共有とし、これにたいして右相手方両名は、連帯責任をもつて、抗告人(原審申立人)岩野ヨシ、同藤崎セイ、同小知和ツ子にたいしては各金11万6971円68銭の抗告人(原審申立人)藤崎団蔵、同吉田種次郎、同小林トミ、同宮寺ツ子、同茂木リン、同吉田栄吉にたいしては各金2万3394円33銭を支払うべき債務を負うものとする。
二、相手方秋本八造、同秋本義江は前項による債務の履行のため、連帯して、抗告人岩野ヨシ、同藤崎セイ、同小知和ツ子にたいしては、昭和29年6月30日限り各金5万8485円84銭を、昭和30年6月30日限り、各金5万8485円84銭を、抗告人藤崎団蔵、同吉田種次郎、同小林トミ、同宮寺ツ子、同茂木リン、同吉田栄吉にたいしては、昭和29年6月30日限り各金1万1697円16銭を、昭和30年6月30日限り各金1万1697円17銭を支払うべし。
三、本件手続費用は第1、2審ともこれを3分し、その1を相手方等の連帯負担とし、その余を抗告人等の連帯負担とする。

理   由
 本件抗告理由は別紙抗告の理由書と題する書面記載のとおりであるから以下にこれにたいする判断をする。
抗告理由第一点について。
 本件記録を調査すると、原裁判所は昭和27年7月17日以来数回にわたり調停委員会による調停期日をひらき、当事者双方にたいし、申立の趣旨、実情及びこれにたいする答弁の各陳述並びに証拠の提出援用及び認否をさせ、かつ調停を試みたが、当事者双方の意見が一致せず、調停を成立させるにいたらなかつたことをうかがうに十分である。したがつて原裁判所は本件につきなんら調停を試みることをしなかつたという本抗告理由は失当で採用しがたい。

抗告理由第二点及び第一二点について。
 記録中の、相手方松崎ムメ、利害関係人秋本八造の各尋問調書並に乙第9号証の各記載を合せ考えると、相手方松崎アイ、同松崎ムメ、同植森ナツ、同藤崎久三は昭和24年11月30日相手方(原審利害関係人)秋本八造、同秋本義江にたいして被相続人藤崎サノの相続財産にたいし譲渡人らが有する相続財産持分は貴殿両名に譲渡いたしますと記載した書面(乙第9号証)による意思表示をし、右八造及び義江がこれを承諾した事実を認めることができる。前記尋問調書の記載によると、相手方松崎アイ外3名は、右八造及び義江に、本件被相続人サノのあとを相続させる目的をもつて前記書面による意思表示を為し、右八造及び義江もその趣旨をもつて承諾をしたものであることが認められること及び、前記合意の意味は相続財産中の負債は承継させないとか、資産部分のみを譲り渡すのだとみられるような別段の事情が認められないことに徴し、前記合意は前記の相手方松崎アイ外3名がおのおの共同相続人の一人たる法律上の地位すなわち相続分を前記八造及び義江に譲り渡す旨の合意と解するのが相当である。

 かような、相続分の譲渡は、これによつて共同相続人の1人として有する一切の権利義務が包括的に譲受人に移り、同時に、譲受人(本件においては前記秋本八造同義江)は遺産の分割に関与することができるのみならず、必ず関与させられなければならない地位を得るのである。原審が本件遺産分割手続に相手方(原審利害関係人)秋本八造、同秋本義江を参加させて審理をしたのは正当である。

 また、相手方松崎ムメ外3名と相手方秋本両名との間の行為は、前段説明のような意味の相続分の譲渡であつて、相続財産に属する個別的財産(個々の物または権利)に関する権利の移転ではないから、各種個別的権利(物権債権鉱業権その他工業所有権といわれる類)の変動について定められる対抗要件の諸規定の、なんら、かかわるところではない。抗告人の所論はいずれも採用できない。

抗告理由第三点について。
 このような場合に相手方松崎ムメ外三名を手続から脱退させるべきだという明文の規定は、家事審判法、家事審判規則及びこれらによつて準用させるすべての法律規則中に存在せず、また、これらの解釈からもかような結論はでてこない。所論は抗告人独自の見解であつて採用に価しない。

抗告理由第四点ないし第九点について。
 右抗告理由は要するに原裁判所が証拠によつてなした事実の認定を攻撃するものであるが、記録にあらわれた諸証拠を考え合わせると、原審判認定のとおり認めるのが相当であるから、抗告人の所論は採用しない。

抗告理由第一〇点について。
 本抗告理由は要するに原審判における遺産分割の方法が相当でないということを抗告人らの主張事実を根拠として強調するものであるが、原審判の理由説明によれば、右審判における遺産分割方法はなんら不当ではない(ただし、抗告理由第11点について説示する点を除く)からこの点も採用の価値がない。

抗告理由第一一点について。
 成立に争のない甲第9、第23ないし第25号証、原審証人岩野団蔵の証言及び原審における抗告人吉田種次郎、同藤崎セイの各供述を綜合すると、抗告人らのうちには、利害関係人秋本義江または同人夫妻に手切金あるいわ慰藉料名義で相当の金円を贈与する意思のあつたことは十分にうかがわれるところであるが、右証拠によると、抗告人らが本件審判の実情として右秋本義江にたいし手切金6万円を贈与する意思あることを述べたのは、抗告人らの本件申立の趣旨が容れられ、本件遺産たる物件が抗告人藤崎団蔵の所有となり、秋本義江が本件建物から退去するにいたることを前提条件とするものと解するのを相当とする。

 したがつて原審判のように相手方等及び利害関係人らの申立が容れられるような場合においては、抗告人らには秋本義江にたいし手切金あるいわ慰藉料贈与の意思のないことは明らかであるから、原裁判所がその意思あるもののように判断して抗告人らに分割すべき本件遺産から右贈与金6万円を控除したことは失当といわなければならない。

 また、相続人は、祖先の祭祀をいとなむ法律上の義務を負うものではなく、共同相続人のうちに祖先の祭祀を主宰するものがある場合他の相続人がこれに協力すべき法律上の義務を負うものではない。祖先の祭祀を行うかどうかは、各人の信仰ないし社会の風俗習慣道徳のかかわるところで、法律の出る幕ではないとするのが現行民法の精神であつて、ただ祖先の祭祀をする者がある場合には、その者が遺産中祭祀に関係ある物の所有権を承継する旨を定めているだけである(民法897条第一項)。

 したがつて、利害関係人両名が本件家屋内において、仏壇その他を整えて被相続人サノの祭祀を行つているからといつても、抗告人らにおいて利害関係人らの行う右祭祀に協力し、将来これを継続するに要する費用を分担すべき法律上の義務あるものではない。原審判が抗告人らに分割すべき本件遺産中から将来の祭祀料として金5万円を控除したことは不当といわなくてはならない。

 右のとおりとすれば、原審判において認めた抗告人らの相続分にたいする本件遺産の算定価額は金58万4858円40銭であるから、これを抗告人らの各相続分に応じて算出すると利害関係人両名に抗告人岩野ヨシ、同藤崎セイ、同小知和ツ子にたいしては各金11万6971円68銭、抗告人藤崎団蔵、同吉田種次郎、同小林トミ、同宮寺ツ子、同茂木リン、同吉田栄吉にたいしては各金2万3394円33銭(厘以下切捨)を支払うべき債務を負担させ、利害関係人両名はこの責務について連帯責任を負うものとし、かつ主文掲記のとおりの期限に分割して支払うべきものとして、現物をもつてする分割に代えるを相当とすることは金額の点をのぞき原審判理由に説示するところによつて、おのずから明かであるからここにこれを引用する。

 原審判主文二、には「申立人等は相手方等が利害関係人秋本八造同秋本義江に対し別紙目録記載の不動産及び動産に対する25分の4の相続分を贈与したことを確認する」との宣言があるけれども、相続分譲渡のことは、利害関係人両名を本件遺産分割に関与させ、主文のような分割を定めるについての前提であつて、前提としてのみ決断が必要あるのであつて、すでに分割を定める手続に進んでいる以上、裁判の主文において宣言する利益も、必要もないものである。

 また、原審判主文三、には「申立人等並に相手方等は利害関係人秋本八造、同秋本義江に対し、別紙目録記載の不動産につき申立人岩野ヨシ、同藤崎セイ、同小知和ツ子は各25分の5の、爾余の申立人等及び相手方等は各25分の1の割合を以て共同相続による所有権取得の登記を為した上これを申立人等は売買に因る。相手方等は贈与に因る所有権移転登記を為せ。若し申立人等及び相手方等が右各登記を為さないときは利害関係人秋本八造、同秋本義江は申立人等及び相手方に代つて自ら右各登記手続を為すことができる」とある。

 しかしながら、遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼつてその効力を生ずるのであり(民法第909条)、分割によつて相続人の一人に属するにいたつた財産は、その相続人が直接に被相続人から承継したことになるのである。したがつて遺産に属する不動産について相続登記が、まだしてないかぎりは、協議によつたにせよ、審判によつたにせよ、分割のことがきまつたら、分割によつて不動産を取得した者が、被相続人名義の登記から直接に取得するものとして登記することができる。あえて共同相続による相続登記をして、さらに分割によつて単独の権利者となつた者へ権利移転の登記をするという手数をかける必要はない。このことは相続分の譲受けた第三者についても同様と解さなければならない。記録によると、本件遺産中の別紙目録不動産について相続登記はしてないと認められるから、原審判の前記主文のような宣言は必要がない。
 よつて、原審判は、これを変更するを相当と認め、家事審判規則第19条第2項、家事審判法第7条、非訟事件手続法第28条第29条、民事訴訟法第93条によつて主文のとおり決定する。
(裁判長判事藤江忠二郎 判事原 宸 浅沼武)

    物 件 目 録
神奈川県三浦郡三崎町日ノ出字東ノ町15番地ノ11、宅地16坪4勺
右同所
一、木造亞鉛葺二階家店舗兼居宅 建坪15坪
右同所右家屋内所在
一、三崎局第231番 電話加入権
一、冷蔵庫   1個
一、布団かけ敷 7枚
一、座布団  20枚
一、御 膳  40膳