○「
相続財産に関する費用についての参考判例紹介2」を続けます。参考になる判断部分を太下線としています。
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キ 一周忌法要 12万0420円
(ア) 法礼5万円(乙4の3,12)
(イ) 供花・供物2万円(乙4の1〜3,12)
(ウ) 会葬御礼品5万0420円(乙4の4〜6)
ク 納骨費用(乙27) 2万0000円
ケ 門徒講金(乙5,12) 6万0000円
平成15年から平成20年まで毎年1万2000円の5年分
コ 三回忌法要,開眼法要 33万5407円
(ア) 法礼等10万円(乙7の11,乙12)
(イ) 供花・会葬御礼品12万7992円(乙7の2〜6・8〜10)
(ウ) 会食代10万7415円(乙7の1)
(墓地建立)
サ 墓地使用権(乙8の1・2) 96万0000円
シ 墓石購入費(乙9の1・2) 143万0000円
(固定資産税・火災保険料等)
ス 固定資産税(乙10の1〜7) 29万2310円
ただし,亡Aが所有していた大阪府川西市所在の自宅に係る不動産の平成16年から平成19年第2期分までの固定資産税である。
セ 火災保険料(乙6,弁論の全趣旨) 2万9170円
ただし,亡Aが所有していた大阪府川西市所在の自宅建物の平成16年分の火災保険料である。
ソ 荷物搬出費用 15万0000円
証拠(被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告からの要請に従い,平成16年9月までに亡Aの自宅の同人の荷物を友人3人に搬出を依頼し,それぞれ軽トラック等の費用として,5万円ずつを支出したものと認められる。
タ 近隣挨拶 3万0000円
証拠(被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,亡Aの自宅の両隣や自治会長,民生委員などにお世話になったとして支出したものと認められる。
2 当事者の主張に対する判断
(1) 被告は,亡Aの死亡後,平成15年7月23日までに亡Aの預貯金合計733万5032円を解約等により引き出し,同年9月19日に亡Aが受給すべき恩給5万2333円を受領し,もって合計738万7365円の被告受領金を取得した(争いのない事実)。原告は,亡Aが死亡した時点で,その法定相続分4分の1に応じて各預貯金及び恩給につき合計184万6841円相当の債権を分割単独債権として確定的に取得したというべきであり,被告は,被告受領金のうち同額については原告の債権の弁済を受けたことになる。
(2) これに対し,被告は,「被告は,亡Aが死亡したために,亡Aの葬儀費用等に使用するために被告受領金を取得し,現にその支出に充てた。したがって,被告は,原告に対して不当利得をしていない。」旨を主張する。
ア 前記認定事実のとおり,
@亡Aは,生前,D及び被告に対し,自分の死後に相続人を含め皆に迷惑をかけたくないとして,自分の葬儀やその後の法要を亡Eと同様の方法で行い,その費用はすべて亡Aの預貯金や自宅の売却代金で充てるよう再三依頼し,また,家族の墓がバラバラにならないよう墓を建立して家族の遺骨を一緒に入れて欲しいと話していたこと(前記1(2)ア),
AD及び被告は,亡Aが死亡した日,原告の住所や連絡先を知らなかったため,原告の義兄を通じて原告に亡Aが死亡したことを伝えてもらったが,原告は,Dや被告らに一切連絡することもせず,亡Aの葬儀にも出席しなかったこと(同ウ),
B原告を除くD及び被告を含む法定相続人らは,Dを喪主とし,亡Aの生前の意向を踏まえ,香典は受け取らずに亡Eと同様の方法で葬儀や法要を行い,墓を建立して,被告受領金をこれらの費用に充てたが,誰が祭祀承継者であるかは明らかでないこと(同エ),
C亡Eの葬儀費用(ただし,香典返しについては,香典を持ち帰った原告が香典の中から負担した。)及び法要費用は,亡Eの子らが負担したことはなく,亡Eの遺産から支出されたこと(同ウ,エ)が
認められる。
イ 上記アの具体的な事実関係の下では,D及び被告を含む法定相続人らが,亡Aの遺産から,亡Aの相続財産に関する費用(民法885条)を支出した場合だけでなく,これに準じて,亡Aの葬儀やこれに近接する法要の費用等,亡Aの死亡に伴って社会通念上必要とされる費用を支出した場合(その範囲については後記ウのとおり)にも,これらの支出に明示的に同意していなかった法定相続人である原告においても,公平上,自らが受ける亡Aの遺産の中から相続分に応じてその費用を負担することを受忍すべきものと解するのが相当である。この理は,各法定相続人が分割単独債権として確定的に取得した債権の弁済金である被告受領金から支出した場合にも,当てはまると解するのが相当であり,被告はその範囲では不当利得がないというべきである。仮に,形式的に不当利得となると解したとしても,原告が被告に対して不当利得返還請求をすることは,上記の費用の支出の限度では,著しく正義に反し,権利濫用に当たり許されないと解すべきである。なお,亡Aの葬儀費用等は,亡Aの死亡後に発生したものであり,亡Aの相続債務(消極財産)に当たるとする被告主張は採用することはできない。
ウ そこで,被告において不当利得がないと解され,又は,原告が不当利得返還請求をするのが権利濫用として許されないと解される範囲について検討する。
(ア) 固定資産税29万2310円(前記1(3)ス)及び火災保険料2万9170円(同セ)は,相続財産に関する費用であり,相続財産から支弁されるべきものである(民法885条)。
(イ) 葬儀費用323万1904円(同ア),葬儀に近接する法要の費用(二七日,三七日,四七日,五七日,六七日法要2万5000円(同エ),四九日法要15万2530円(同オ))及び納骨費用2万円は,亡Aの死亡に伴って社会通念上必要とされる費用であって,原告も亡Aの遺産の中から相続分に応じてその費用を負担することを受忍すべきものといえる。
(ウ) 一周忌法要12万0420円(同キ),三周忌法要・開眼法要33万2167円(同コ)は,亡Aの死亡からかなり時間も経過してからの一般的な追悼・供養のための費用といえるものであるから,原告が亡Aの遺産の中から相続分に応じてその費用を負担することを受忍すべきとまではいえない(上記アの事実関係の下でも,D及び被告において原告の意向を再確認すべきであった。)。
(エ) 墓地使用権96万0000円(同サ)及び墓石購入費143万円(同シ)は,亡Aの生前の意向に沿うものであったとしても,前記認定事実1(1)によれば,大阪府○○○にすでに建てた墓があり,墓を巡って亡Aと亡Eひいては原告との間に意見の対立があったことを,D及び被告においても当然知り得たものといえるから,亡Aの墓を新たに建てる費用につき,原告が亡Aの遺産の中から相続分に応じてその費用を負担することを受忍すべきとまではいえない。
(オ) 門徒菓子代2万円(同カ)及び門徒講金6万円(同ケ)は,門徒として必要な費用であり,また,荷物搬出費用(同ソ)及び近隣挨拶(同タ)は,亡Aの死亡に伴って社会通念上必要とされる費用であるかが明らかではなく,いずれも,原告も亡Aの遺産の中から相続分に応じてその費用を負担することを受忍すべきとまではいえない。
(3) 以上のとおり,被告受領金合計738万7365円から,前記(2)ウ(ア)の固定資産税等及び同(イ)の葬儀費用等の合計375万0914円を差し引いた363万6451円のうち,原告の法定相続分4分の1に当たる90万9112円については,被告において原告との間で清算せずに不当利得しているといえる。これに対しては,悪意の受益者として,うち90万2672円に対する平成15年7月24日から,うち6440円に対する同年9月20日から支払済みまで年5分の割合による法定利息を支払うべきである。
4 よって,原告の請求は,主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 渡部勇次)