○「
DNA鑑定99.999998%父子でなくても法律上は父子とした最高裁判決紹介3」に「
本件ではB(上告人、戸籍上の父)が、親子関係不存在確認同意を頑として拒み続けたようです。その理由は定かではありませんが、意地になって拒んでいるとしか思えません。最高裁判決書だけでは、Bの戸籍上の父としての利益を守る必要性がどこにあるのか全く見えません。一審・二審判決文を読んで勉強してみます。」と記載していました。
○そこで第一審平成23年12月12日旭川家裁判決(家庭の法と裁判1号44頁)、第二審札幌高裁判決(家庭の法と裁判1号44頁)全文を紹介します。
「家庭の法と裁判」は、実務家や研究者の研究報告・情報、海外の動向などの有益な情報、家庭支援の実践者に向けた有益な情報を提供する場としての役割を意識しながら、家庭に関する法制度・家裁実務・社会制度に資する雑誌を目指すとのことで、平成27年4月に日本加除出版株式会社が創刊したものです。私も、早速購入を申し込みます。
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第一審平成23年12月12日旭川家裁判決(家庭の法と裁判 1号44頁)
主 文
1 原告と被告との間に親子関係が存在しないことを確認する。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 主文と同旨
第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は、原告が、被告に対し、原告の母であるA(以下「原告の母」という。)は、被告との婚姻中に原告を懐胎し、原告を出産したが、懐胎当時、原告の母と被告は性交渉をもっておらず、原告は被告の子ではないとして、原告と被告との親子関係が存在しないことの確認を求めた事案である。
2 前提となる事実(証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 被告と原告の母は、平成11年○月○日に婚姻し、a市内において同居していた。
(2) 原告の母は、平成21年○月○日、原告を出産した。
(3) 原告の母と被告は、平成22年○月○日、原告の親権者を原告の母と定めて離婚した。
(4) 原告は、平成23年、被告を相手方として親子関係不存在確認の調停を申し立てた。同調停は、同年2月23日、不成立で終了した。
3 本件の争点及び争点に対する当事者の主張
本件訴えは適法か(原告は、被告との関係において、民法772条による嫡出の推定が排除されるか。)。嫡出推定が排除されるとして、原告と被告との間の親子関係は存在するか否か。
(原告の主張)
原告の母と被告は、平成17年ころから一切性交渉をしていない。他方、DNA鑑定の結果からは、訴外B(以下「B」という。)が、原告の生物学上の父であることが強く推定される。また、原告は、現在、原告の母及びBと共に暮らし、新たな家庭を築いており、早期にBとの親子関係を確定させる必要がある。よって、原告は、被告との関係において嫡出推定が排除され、本件訴えは適法である。
そして、原告と被告との間には親子関係が存在しない。
(被告の主張)
原告は、被告と原告の母の婚姻中に懐胎した子であり、被告の嫡出子として推定される。そして、原告の母が、原告を懐胎したと推認される時期、被告と原告の母の夫婦関係は良好であり、原告の母が、被告の子を懐胎する可能性がないことが外形上明白な事情もないことに照らすと、嫡出推定は排除されず、本件訴えは不適法である。
第3 争点に対する判断
1 前記前提となる事実及び証拠(主要な証拠は各項末尾に掲記)によれば、以下の事実が認められる。
(1) 原告の母は、平成18年ころ、アルバイト先の店長であったBと知り合い、平成20年ころから交際を始め、肉体関係をもつようになった(甲6、8)。
(2) 被告と原告の母は、原告の母が原告を懐胎したと考えられる平成20年○月から○月の間、少なくとも妊娠に至るような性交渉はなかった。
なお、原告の母は、平成17年ころから、原告の母と被告とは一切性交渉をしていないと主張し、同旨の被告の陳述書(甲3)及び原告の母の陳述書(甲6、8)が提出されている。しかし、被告は、その本人尋問において、上記陳述書は間違いであり、避妊をした上での性交渉はあったと訂正するに至っていること、その他、上記期間に被告と原告の母との間に一切性交渉がなかったことを裏付ける客観的な証拠はないことなどに照らすと、上記期間に被告と原告の母が、一切性交渉を行っていなかったとまで認めることはできない。
(3) 原告の母は、平成20年○月ころから、生理が来なくなったことから妊娠を疑うようになった。そして、原告の母は、生理が来ないことが長く続くとともに腹部が膨らんできたため、平成21年○月、妊娠検査薬を使って検査をしたところ陽性の反応が出た。その後、原告の母は、病院で診察を受け、原告を妊娠していることが判明した(甲8)。
(4) 原告の母は、原告がBの子であると思っていたことから、妊娠の事実を被告に言えず、同年○月○日、被告に黙って病院へ行き、同月○日に原告を出産した(甲8)。
(5) 被告は、黙って居なくなった原告の母の居場所を探し、同月○日、ようやく原告の母が入院している病院を見つけた。被告は、一週間前に原告の母と一緒に釣りに行くなどしており、原告の母が妊娠していたことに全く気づいていなかったため、原告の母が原告を出産したことに驚くとともに、原告が誰の子であるか尋ねた。これに対し、原告の母は、「2、3回しか会ったことのない男の人。」などと答えた(甲3、被告本人)。
(6) 被告は、平成21年○月○日、原告を被告と原告の母の長女とする出生届を提出し、その後、原告を自分の子として監護養育していた(甲1、3)。
(7) 原告の母は、被告に対し、平成21年○月ころから、口論の際などに離婚を求めるようになった。そして、被告と原告の母は、平成22年○月○日、原告の親権者を原告の母と定めて協議離婚した。原告の母と原告は、現在、Bと一緒に生活している(甲3、8)。
(8) 原告側の行った私的鑑定では、Bが原告の父親である確率が99.999998パーセントとの鑑定結果が得られている(甲4)。
2 以上の認定事実等によれば、原告は、被告と原告の母が婚姻中に懐胎した子であり、しかも、その当時被告と原告の母は同居しており、夫婦としての実体が失われていたというような事情はうかがわれない。
もっとも、原告の母が、原告を懐胎した当時、被告と原告の母との間には妊娠に至るような性交渉がなく、原告が被告の子である可能性が低いこと、そのため、原告の母は原告が被告の子でないと確信し、被告も原告が自分の子であるか疑っていたこと、他方で原告の母が交際していたBが原告の父である可能性が極めて高いこと(被告は、上記鑑定について疑義がある旨主張しているが、同鑑定の信用性を否定するような事情はうかがわれない。)などに照らすと、原告と被告との間には、生物学的観点からの親子関係は存在しないことは明らかであり、民法772条の嫡出推定は及ばないものと認められる。
なお、嫡出推定制度は、家庭の平穏を維持し、子供の養育環境を安定させることを目的としているものと解されるところ、本件においては、被告と原告の母は既に離婚しており、現在、原告、原告の母及びBが一緒に生活しているのであるから、民法772条の嫡出推定を排除しても同制度の趣旨に反するとまではいえない。
3 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 岡本利彦)
第二審平成24年 3月29日札幌高裁判決(家庭の法と裁判 1号44頁)
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の訴えを却下する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要等」に記載のとおりであるから、これを引用する。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、被控訴人の請求は理由があるものと判断する。その理由は、次のとおり補正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決4頁7行目の「協議離婚した。」の次に「被控訴人の母は、平成23年○月ころ、控訴人を相手方として、旭川家庭裁判所に対し、親子関係不存在確認の調停を申し立てたが、控訴人がDNA鑑定を拒み、同月○日、調停は不成立で終了した(甲6、弁論の全趣旨)。」を加える。
(2) 同判決4頁9行目の「私的鑑定」の次に「(DNA鑑定)」を加える。
2 控訴人は、最高裁昭和43年(オ)第1184号同44年5月29日第一小法廷判決・民集23巻6号1064頁を引用し、民法772条の嫡出推定が排除される要件について、妻が子を懐胎すべき時期に、夫婦が事実上の離婚をして別居状態にあり、夫の子を懐胎する可能性がないことが外観上明白な場合でない限り、嫡出推定は排除されないものであると解すべきであるとして、本件において、被控訴人の母が被控訴人を懐胎すべき時期に控訴人の子を懐胎する可能性がないことが外観上明白ではなく、しかも、被控訴人側が行った私的鑑定については、鑑定が日本国で行われていないことから、DNA鑑定報告書(甲4)の成立の真正、鑑定人の存在及び鑑定内容に疑義があり、同条の嫡出推定は排除されないのであるから、本件訴えは不適法であると主張する。
検討するに、上記最高裁判例が、嫡出推定の排除される場合を妻が夫の子を懐胎する可能性がないことが外観上明白な場合にのみ限定する趣旨のものであると解するのは相当ではない。すなわち、民法が婚姻関係にある両親から生まれた子についてその親子関係を争うことについて厳格に制限しようとしたのは、家庭内の秘密や平穏を保護するとともに、平穏な家庭で養育を受けるべき子の利益が不当に害されることを防止することにあると解されるから、このような趣旨が損なわれないような特段の事情が認められ、かつ、親子関係の不存在が客観的に明らかな事案においては、嫡出推定の排除される場合を妻が夫の子を懐胎する可能性がないことが外観上明白な場合に限定する必要はないと考えるべきである。
これを本件についてみると、前示のとおり、DNA鑑定によりBが被控訴人の父親である確率が99.999998パーセントとの鑑定結果が得られており、控訴人と被控訴人との間の親子関係の不存在は、科学的証拠により客観的かつ明白に証明できており、また、被控訴人の母と控訴人は既に離婚して別居しており、被控訴人は親権者である母の下で監護されているなどの事情が認められるのであるから、本件においては嫡出推定は排除されると解するのが相当であり、本件訴えは適法であるというべきである。
また、控訴人は、DNA鑑定報告書(甲4)の成立の真正、鑑定人の存在及び鑑定内容に疑義がある旨主張するが、甲6及び弁論の全趣旨によれば、DNA鑑定報告書(甲4)が真正に成立したことは認められ、また、同報告書の内容に照らせば、鑑定人の不存在や鑑定内容の信用性について疑義が生ずるということはない。
第4 以上によれば、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井上哲男 裁判官 中島栄 佐藤重憲)