○血縁関係のない妻Fの連れ子Dを認知したC(被告・被控訴人)の両親であるA・B(原告・控訴人)らがC・Dを相手方として,認知無効の確認を求め,原審平成26年7月22日東京家庭裁判所判決(平成26年(家ホ)第88号、LLI/DB判例秘書)は、現時点において,A・Bは、本件認知の無効を確認すべき利害関係も,具体的利益もなく,民法786条所定の利害関係人に該当しないとした訴えを却下訴えを却下しました。
○この却下判決に対し、A・B(原告・控訴人)は,本件認知の無効により自己の扶養や相続の関係において直接影響を受け,民法786条所定の利害関係人にあたるとし,原判決を取消し,原審に差戻した平成26年12月24日東京高等裁判所判決(平成26年(ネ)第4493号、LLI/DB 判例秘書)と原審判決全文を紹介します。
民法第786条(認知に対する反対の事実の主張)
子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張することができる。
A━┳━B
┃
C━┳━F
┃ ┃(連れ子)
E D
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主 文
1 原判決を取り消す。
2 本件を東京家庭裁判所に差し戻す。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 主文第1項と同旨
2 被控訴人Cの被控訴人Dに対する認知は無効であることを確認する。
第2 事案の概要
1 本件は,被控訴人C(以下「被控訴人C」という。)の父母である控訴人らが,被控訴人Cの被控訴人D(以下「被控訴人D」という。)に対する認知が無効であることの確認を求める事案である。
原判決は,控訴人らが民法786条所定の「利害関係人」に当たらないとして,本件訴えを却下したので,これを不服とする控訴人らが控訴した。
2 前提事実及び争点は,次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」中の第2の1及び2記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
(1) 2頁4行目の「(以下「原告Aという。)」及び4行目から5行目にかけての「(以下「原告Bという。)」をそれぞれ削る。
(2) 2頁10行目の「Dの血縁上の父ではないが,」及び11行目の「,弁論の全趣旨」をそれぞれ削る。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,控訴人らは,本件認知について民法786条所定の「利害関係人」に当たるものと判断する。その理由は,次のとおりである。
2 同条所定の「利害関係人」は,当該認知が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受ける者を指すものと解されるところ,本件認知により,控訴人らと被控訴人Dとの間には2親等の直系血族関係が生じ,控訴人らには被控訴人Dに対する扶養義務が生じている(民法877条1項)。また,控訴人らは,被控訴人Cの父母であるから,被控訴人Cの相続に関して,民法889条1項1号により第2順位の相続権を有するところ,本件認知により,被控訴人Dは,二男Eとともに第1順位の相続権を有することとなるから,これにより控訴人らの相続権が侵害される関係に立つ。したがって,控訴人らは,本件認知の無効によって自己の扶養や相続の関係において直接影響を受けるのであり,民法786条所定の「利害関係人」に当たるというべきである。
たしかに,現時点において控訴人らが直接被控訴人Dを扶養しなければならない事態となる可能性は低く,また,相続についても,控訴人らの相続権に対する影響が現実化するのは,被控訴人CとEが同時に死亡した場合などに限られ,その可能性は低いといえる。しかし,扶養や相続への影響が生じる可能性が低いことをもって,その影響が間接的であるということはできない。
なお,被控訴人らは,認知の当事者でない控訴人らが本件認知の効力を否定することは被控訴人Dの福祉に資さない旨を主張するが,血縁関係のない者が親子関係を形成することを望む場合,本来養子縁組によるべきであり,いわゆる連れ子との間で養子縁組をすることが広く行われていることは顕著な事実であって,被控訴人らにおいて養子縁組をすることも当然可能であるから,本件認知の効力を否定することが被控訴人Dの福祉に反するということはできない。
第4 結論
以上によれば,控訴人らは,本件認知について民法786条所定の「利害関係人」に当たり,他に本件訴えの適法性を否定すべき事由を見出すこともできないから,本件訴えを却下した原判決は取消しを免れず,その余の点について審理を尽くさせるため(なお,被控訴人らの間に血縁関係がないことは当事者間に争いがないが,人事訴訟においては,争いのない事実であっても証拠により認定することを要するものであり(人事訴訟法19条1項),この点について審理が尽くされているとはいえない。),本件を東京家庭裁判所に差し戻すこととして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第11民事部
裁判長裁判官 瀧澤 泉、裁判官 中平 健、裁判官 布施雄士
平成26年7月22日東京家庭裁判所判決(平成26年(家ホ)第88号、LLI/DB判例秘書)
被告Cが被告D(Cの妻の子)を認知したところ,Cの両親である原告らが,認知無効の確認を求めたところ、裁判所は,原告らには,現時点において,本件認知の無効を確認すべき利害関係も,具体的利益もなく,民法786条所定の利害関係人に該当しないとし,訴えを却下。
主 文
1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告Cの被告Dに対する認知は無効であることを確認する。
第2 事案の概要
本件は,被告C(以下「被告Cという。)の両親である原告らが,被告Cの被告D(以下「被告D」という。)に対する認知が無効であることの確認を求めた事案である。
1 前提事実
ア 原告A(以下「原告A」という。)と原告B(以下「原告B」という。)は,被告Cの両親である(甲1)。
イ F(以下「F」という。)は,平成19年□月□□日,被告Dを出産した(甲2)。
ウ 被告CとFは,平成24年□□月□□日に婚姻し,同年□□月□□日,Eをもうけた(甲3)。
エ 被告Cは,Dの血縁上の父ではないが,同年□月□□日,被告Dを認知した(甲3,弁論の全趣旨。以下「本件認知」という。)。
2 争点
原告らは民法786条所定の「利害関係人」に当たるか
(原告らの主張)
(1) 被告Cは原告らの長男であり,原告らの法定相続人である(民法887条1項)。
(2) 被告Dは,戸籍上原告らの直系卑属(孫)に当たるので,仮に被告Cが原告らよりも先に死亡したときは,被告Dが代襲相続人の地位を取得してしまう(同条2項)。
(3) 被告Dは,戸籍上原告らの直系卑属となっているので,原告らと被告Dは,互いに扶養する義務がある(民法877条)。
(4) 以上によれば,原告らは,本件認知について,法律上重大な利害関係を持つ者であり,民法786条所定の利害関係人に該当する。
(被告らの主張)
(1) 被告Cは,Fとの間でEをもうけている。
(2) 原告らは代襲相続を問題にしているが,原告らが死亡して相続の問題が生じた場合,当該原告は既に死亡している以上,相続財産について利害関係を有しない。
(3) 直系血族の扶養義務は,法文上抽象的には認められるものの,被告Dは被告C及びFの親権に服しており,被告Dが原告らに扶養を求めるような状況にない。万が一,被告C及びFが被告Dを十分に扶養できない事態になったとしても,被告C及びFは,Fの父母であるG及びHのサポートを受けるつもりであり,原告らに扶養を求める意思はない。
(4) 被告Cは,被告Dを自らの子として受け入れ,実子として育てていく意思を有している。それにもかかわらず,祖父母である原告らが被告らの親子関係に口を挟むのは相当でないし,被告Dの福祉にも資さない。
(5) 以上によれば,原告らには本件認知について確認の利益がないというべきであり,民法786条所定の利害関係人に該当しない。
第3 当裁判所の判断
1 原告らは,
①被告Cが原告らの法定相続人であること,
②被告Dは戸籍上原告らの直系卑属に当たるので,仮に原告らより先に被告Cが死亡したときは,被告Dが代襲相続人の地位を取得すること,
③原告らと被告Dは戸籍上直系血族となっており,互いに扶養する義務があること
を理由に,本件認知について利害関係がある旨主張している。
A━┳━B
┃
C━┳━F
┃ ┃(連れ子)
E D
2 そこで,以下検討するに,
①については,原告らの主張の趣旨は必ずしも明らかではないが,被告Cは,Fと婚姻し,Eをもうけているから,仮に被告Cが原告らより先に死亡したとしても,原告らは被告Cの法定相続人の地位に立たない。以上によれば,原告らは,被告Cの相続に関して法的な利害関係を有しない。
②についても,原告らの主張の趣旨は必ずしも明らかではないが,仮に被告Cが原告らよりも先に死亡し,その後,原告らのうちの一方が死亡して代襲相続の問題が生じたとしても,被告CにはFとの間でもうけたEがいるので,認知の有効無効にかかわらず,原告らのうちの生存している者の法定相続分に変化はない。
以上によれば,将来的に代襲相続の問題が生じたとしても,原告らは法的な利害関係を有しないというべきである。
また,そもそも被告Cは現在も健在であり,現時点において代襲相続の問題は生じていない。さらに,被告Cは,原告らよりも30歳以上も若い上(甲1),健康状態に問題があるとも認められないので,将来的にも代襲相続の問題が生じない可能性も十二分にある。
以上によれば,原告らには,現時点において,本件認知の無効を確認すべき利害関係はないというべきである。
③については,確かに,民法上,直系血族は互いに扶養する義務を負うが,被告Dの第一次的扶養義務者は被告Dの両親である被告C及びFである上,被告C及びFは,婚姻後,現在まで被告Dを扶養し続けており,今後も原告らに対して被告Dの扶養を求める意思もない旨表明している。
以上によれば,原告らが被告Dを現実に扶養しなければならない具体的状況になく,原告らが現時点において本件認知の無効を確認すべき具体的利益はない。
3 以上によれば,原告らは,民法786条所定の利害関係人には当たらないというべきなので,本件訴えは却下するのが相当である。
東京家庭裁判所家事第6部