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小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

遺言書

遺産分割協議をした後に遺言書が発見された場合の分割協議の効力2

○「遺産分割協議をした後に遺言書が発見された場合の分割協議の効力1」の続きです。
遺言とは、遺言者所有であった相続財産に関する死後の権利関係の帰属を定める遺言者自身の最終の意思表示であり、遺言があると、民法第985条(遺言の効力の発生時期)「遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。」との規定により、原則として、死亡と同時に、遺言者の意思表示に依る権利関係が定まります。
例えば、被相続人Aの「甲土地は、長男Bに相続させる」との遺言があれば、甲土地はAの死亡と同時に長男の所有となります。

○従って、Aの相続人が長男Bと二男Cの2人の場合に「甲土地は、長男Bに相続させる」との遺言の存在を知らず、長男Bと二男Cが、2分の1ずつの共有とするとの遺産分割協議をしても、その遺産分割協議は、Aの遺言によってA死亡と同時にBの単独所有となっていた法律効果を知らずに協議をしたことになり、重要部分についての錯誤がありますから、原則として、民法第95条(錯誤)「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。」の規定にによって無効になります。

○しかし、長男Bと二男Cが遺言書の存在を知り、且つ、「甲土地は、長男Bに相続させる」との内容も知っていながら、長男Aと次男Bが、2分に1ずつの共有とするとの遺産分割協議をした場合は、錯誤はなく、且つ、いったん長男Bに所有が帰属した甲土地について長男Aは自由に処分する権利がありますので、相続人A死亡時に遡って長男B・二男Cの2分の1ずつ共有とする遺産分割協議をすることは可能です。相続人全員の合意があれば、遺言内容と異なる遺産分割協議も自由に出来ます。

○ですから、「遺産分割協議をした後に遺言書が発見された場合の分割協議の効力1」の設例「父は退職後に海外ボランティアに行くことになり、遺言書を書いて知人に預けた。」ので、父が死亡したとき、いったん、その遺言に従った父の財産関係の帰属が父死亡時に決まっています。従って、そのことを知らず、相続人全員で遺産分割協議をしても、錯誤がありますので、原則としてその遺産分割協議は無効になるはずです。と、私は、当初、考えましたが、NHK番組出演弁護士は、原則として、遺産分割協議の方が有効だと回答し、おやっと首をかしげました。この弁護士さん、NHK出演しながら間違った答えをしているのではと、一瞬、思いました。

○しかし、NHK番組に出て天下に意見を公表するのに、安易に回答を考えるはずが無く、入念に判例・学説を調査した上で回答しているはずです。そう考えると、ポイントは、「息子が知人に遺言書を見せてほしいと頼んだのだが見つからない。」ために遺産分割協議をして、法定相続分に分けたと言う点にあることに気付きました。

○この前提条件は、遺言書があることが相続人全員良く判った上で、見つからないので、話し合いをして法定相続分で分けたのですから、原則として、遺言書の内容がどのようなものでも、遺産分割協議を優先させるとの合意も成立しているはずとの解釈でした。そこで、遺産分割協議の方が、原則として優先するとの回答になったと思われます。ただし、後日、遺言書が発見され、想定外に法定相続分とは相当異なる内容が判明した場合、先の遺産分割協議は重要部分に錯誤があったと認められ、無効になる場合もあるとNHK出演弁護士は回答していますが、これも妥当です。

○遺言書が残されたことは認識しているが、見つからないからと言って、遺産の帰属をいつまでも中途半端なままにはしておけません。一定時期まで相続税の申告もしなければならず、また、賃貸不動産等があれば賃料の回収もしなければなりません。そこで見つからない以上、いったん、分割しよう、しかし分割しても後で遺言書が出て来て、分割を白紙にすると権利関係が面倒なことになるので、後で遺言書が見つかっても分割協議を優先させようとの合意があったと見るのが、常識と思われます。そこで特に後で遺言書が見つかったら、それに従うとの合意がない限りは原則として遺産分割協議を優先させるとの解釈に合理性があると思われます。

○但し、この事例で弁護士が遺産分割協議の作成を依頼された場合、後日、遺言書が発見された場合にも備えた条項も入れておかないと専門家として不十分と評価されますので、注意が必要です。