○「
相続財産管理人の実務基礎の基礎」の続きです。
一人暮らしのAさんが、ある程度の財産を残して死亡し、相続人がいない場合に、利害関係人として相続財産管理人選任を家庭裁判所に請求する例は多くの場合、Aさんが残した財産の全部又は一部を特別縁故者として分与を求める目的があります。その条文は次の通りです。
第958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与)
前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者 その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第958条の期間の満了後3箇月以内にしなければならない。
○特別縁故者の要件は、
@被相続人と生計を同じくしていた者
A被相続人の療養看護に努めた者
Bその他被相続人と特別の縁故があった者
の3つですが、@、Aは読んで字の如くで、比較的簡単に判定ができますが、Bその他被相続人と特別の縁故があった者の判定は、抽象的基準であるため大変難しく、相当数の申立があるも相当数が該当せずとして却下されています。
○@被相続人と生計を同じくしていた者の典型例は内縁の妻と事実上の養親子ですが、伯叔父母・継親子など家族的な共同生活を送りながら相続権が認められない者が該当します。必ずしも親族である必要はありません。
A被相続人の療養看護に努めた者とは、被相続人に対し献身的に療養看護に努めた者で、付添婦は看護婦のように対価を得ている者は原則として特別縁故者に当たりません。但し、その看護ぶりが報酬額以上の場合、該当するとされた例もあります(昭和51年4月24日神戸家裁、判時822号17頁)
○実務で最も問題になるのは、Bその他被相続人と特別の縁故があった者です。定義としては、@、Aに準ずる程度に密接な縁故関係がある者とされており、具体的審判例は多岐に渡っています。以下に審判例を紹介します。
平成21年3月24日さいたま家裁川越支部(家月62巻3号53頁)
申立人が,被相続人の入院中その療養看護にかかわり,被相続人の死後その葬儀を主宰したとしても,被相続人の預金を管理中に多額の預金を不当に利得しているという事情に照らすと,申立人を被相続人と特別の縁故があった者と認めるのは相当でない。
平成20年10月20日鳥取家裁(家月61巻6号112頁)
申立人(被相続人の又従兄弟の配偶者)からの相続財産分与申立事件について,申立人の夫が被相続人の老人ホーム入所の際の身元引受人となっている間は申立人も相応の協力をしたものと推定され,夫が死亡した後は自ら身元引受人となり身辺の世話をしたほか,被相続人の依頼により任意後見契約を締結するなど被相続人の精神的支えとなっていたことが窺われること,被相続人の死亡後は葬儀や被相続人家の墓守をしていること,被相続人は有効な遺言の方式を備えていないものの,申立人に相続財産を包括遺贈する旨のメモ書きを残していることなどを考慮すると,申立人は民法958条の3の特別縁故者に該当するものと認められるところ,分与額については被相続人の申立人に対する包括遺贈の意思が確定的なものとなっていたとはいえないこと,申立人は被相続人の相続財産の形成,維持に寄与したものではないことを考慮して,預金約2500万円の相続財産のうち,600万円を分与するのが相当である。
平成20年9月9日京都家裁(家月61巻6号103頁)
法定相続人のいない被相続人が死亡したことから、被相続人の父の妹の孫及びその配偶者である申立人らが、特別の縁故関係があったとして相続財産の分与を申し立てた事案において、申立人らと被相続人の関係は、被相続人が高齢による認知症状を原因として特別養護老人ホームに入所するまでは通常の親戚関係の域を出るものではなかったと見るべきであるが、入所後、申立人らは被相続人の療養看護や財産管理及び死後の法要等に尽力したといえるから、特別縁故者に当たるとして、申立人らに対し、それぞれ300万円及び動産の財産分与を認めた。
平成18年7月20日広島高裁岡山支部(家月59巻2号132頁)
被相続人の唯一の子である抗告人が、相続債権者からの際限のない請求を危惧して相続放棄の申述をしたが、相続財産についての清算が終了したので、相続財産分与の申立てをした事案において、抗告人は被相続人と長年同居し、別居した後も被相続人宅を頻繁に訪れて被相続人の生活を気遣い、入院費を支払うなどの事情が認められることから、抗告人を特別縁故者と認め、申立てを却下した原審判を取り消して相続財産を分与した。
平成6年9月1日名古屋家裁(家月48巻11号77頁)
2名の申立人らが、それぞれ被相続人の特別縁故者であると主張して、自己に対し、相続財産の分与をするよう求めた事案において、被相続人の亡母の兄の配偶者である申立人については、被相続人がその亡父から相続して住んでいた土地建物の購入に際し、代金の相当部分を融資してその取得を容易にし、被相続人が病気で入院していた際に、医療費等の立替払をするなどして生活の面倒を見ていたと認められ、また、被相続人の近隣住民であるもう一方の申立人は、知的障害者でだらしがなく、近所でも苦情の絶えなかった被相続人に対し、他の者らは関わらないようにしていた中、それとなく面倒を見てきたため、被相続人に対する生活保護給付金も同申立人に預けられたりしていたことが認められるから、本件各申立人らは特別縁故者に当たるとして、それぞれに相続財産を分与した。
平成5年3月15日大阪高裁(家月46巻7号53頁)
相続財産分与申立事件の即時抗告審において、抗告人が被相続人(抗告人の父の従兄弟)の生前はその身の回りの世話をしたこと、今後も被相続人及びその親族の祭祀を怠りなく続けていく意向であることが認められ、また相続財産を抗告人に分与することが被相続人の意思にも合致することが推測できるという本件事案においては、抗告人は「被相続人と特別の縁故のあつた者」に該当すると解するのが相当であるとして、申立てを却下した原審判を取り消し、清算後残存すべき相続財産の全部を抗告人に分与した。
平成2年6月15日浦和家裁秩父支部(判時1372号122頁)
生前、被相続人に対し生活保護を実施し、死後に葬祭を行なつた市が、被相続人のいわゆる特別縁故者に該当するとした
平成2年5月30日那覇家裁石垣支部(家月42巻11号101頁)
相続人なくして死亡した老人が残した相続財産を、生前同人の療養看護に当たつた法人格を有しない老人ホームを特別縁故者と認めて、これに分与した