○「
特別受益制度−相続分譲渡の場合の特別受益の考え方」に関連する平成17年10月11日最高裁判例(判時1914号80頁、判タ1197号100頁)を紹介します。
事案は以下の通りです。
AB夫婦の夫Aが死去し、遺産として固有の不動産があるところ、その相続人は妻BとC、D、Eの3人の子
Aの遺産分割未了の間に妻Bが死去したが、Bには固有の遺産は存在しない
C及びEはAから、EはBから、それぞれ特別受益を受けている旨の主張あり
第1審は、Aに係る遺産分割については、C及びEがAから受けた特別受益を考慮してAの上記遺産を分割すべきであり、Bに係る遺産分割については、Bが取得したAの遺産に対する相続分はBの遺産であり、EがBから受けた特別受益を考慮して同遺産を分割すべきものとしました。
第2審は、Bに係る遺産分割については、Aの遺産に対するBの相続分は、Aの遺産を取得することができるという抽象的な法的地位であって遺産分割の対象となる具体的な財産権ではなく、Bが死亡したことにより遺産分割によらないで当然にBの相続人に承継されるものであり、かつ、この承継には民法903条の適用がないと解されるとして、Bには審判によって分割すべき遺産は存在しないから、Bに係る遺産分割審判の申立ては不適法であるとし、Aに係る遺産分割事件については、Aからの特別受益のみを考慮して具体的相続分を算出し、これに従ってAの上記遺産を分割すべきものとしました。
○本件論点は、再転相続における第1次被相続人の遺産に対する第2次被相続人の相続関係ですが、これは再転相続のみに生ずる特殊な問題ではなく、被相続人に複数の相続人がいる場合において、遺産分割手続が未了の間の被相続人の遺産に対する各共同相続人の権利関係がどのようなものであるかという問題でもあります。
○遺産説は、共同相続人が取得する未分割遺産の共有持分権は、物権法上の共有持分権と同様のものであり、実体法上の権利性の認められるもので、当該共有持分権を取得した相続人が死亡した場合には、その遺産を構成するとされ、この説では、遺産の共有の性質について物権法上の共有と同じものであり、相続人は、未分割遺産につき相続分に応じた共有持分を有することの確認を求める訴えを提起することができると解されています(昭61年3月13日最高裁判決、判タ602号51頁等)。
この見解によれば、再転相続の実質は、第2次被相続人が第1次被相続人の未分割遺産について相続分に従って取得した共有持分権を更に再転相続人が相続するものであり、第2次被相続人が取得した当該共有持分権は、第2次被相続人の遺産を構成すると解します。
○これに対し、第2次被相続人は第1次被相続人の相続において具体的な財産権を取得しないという見解に立つ非遺産説も存在(橋詰均「共同相続人死亡と相続分の承継」判タ1179号42頁等)しますが、この説では相続開始後遺産分割までの間の遺産共有状態の発生を定めている民法の規定及び未分割遺産の共有持分権について実体法上の権利性を肯定している上記最高裁判決とは整合しないと批判されていました。
○平成17年10月11日最高裁は、AとBの各相続の経緯は、Aの遺産の分割が未了の間にAの相続人でもあるBが死亡してその相続が開始したものであり、Bは、Aの相続の開始と同時に、Aの遺産について相続分に応じた共有持分権を取得しており、これはBの遺産を構成するものであるから、これをBの共同相続人に分属させるには、遺産分割手続を経る必要があり、共同相続人の中にBから特別受益に当たる贈与を受けた者があるときは、その持戻しをして各共同相続人の具体的相続分を算定しなければならないと判示して遺産説を採ることを明確にしました。