○「
遺産分割未了の間の再転相続と特別受益の考え方」で紹介した平成17年10月11日最高裁判例は、同相続人が取得する未分割遺産の共有持分権の法的性質に関する極めて重要な判例であり、判決全文を備忘録として残します。
ポイントは、遺産分割未分割の遺産共有も、基本的には民法249条以下に規定する共有と性質を異にするものではなく、但し、その共有状態の解消は、遺産分割手続を経る必要があり、共同相続人の中にBから特別受益に当たる贈与を受けた者があるときは、その持戻しをしなければならないということです。
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抗告人 Y1
同代理人弁護士 ○○○○外5名
相手方 X
相手方 Y2
同代理人弁護士 △△△△
主 文
原決定を破棄する。
本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
理 由
抗告代理人○○○○ほかの抗告理由について
1 本件は、先に死亡したAの遺産の分割申立て事件とその後に死亡した同人の妻Bの遺産の分割申立て事件とが併合された事件である。
2 記録によれば、本件の経緯は次のとおりである。
(1)抗告人と相手方らは、いずれもAとBの間の子である。Aは平成7年12月7日に、Bは平成10年4月10日に、それぞれ死亡した。Aの法定相続人は、B、抗告人及び相手方らであり、Bの法定相続人は、抗告人及び相手方らである。
(2)被相続人Aに係る遺産分割の対象となる遺産は、原決定別表1の番号1?5記載の不動産並びに同別表の番号6及び7記載の現金である。抗告人及び相手方Y2には、Aとの関係で民法903条1項の特別受益がある。
(3)被相続人Bは、原決定別表2の番号12及び13記載の不動産を所有していたが、遺言公正証書により、これを相手方Xに相続させる旨の遺言をした。同相手方は、Bの死亡により、同遺言に基づき、上記不動産を単独で取得した。Bは、上記不動産以外に遺産分割の対象となる固有の財産を有していなかった。
(4)抗告人及び相手方Xは、相手方Y2はBから特別受益に当たる贈与を受けた旨の主張をしている。
3 原審は、次のとおり判示して、Bに係る遺産の分割申立ては不適法であるとしてこれを却下し、上記2(2)記載のAの遺産について、Aとの関係における特別受益のみを持ち戻して抗告人及び相手方らの各具体的相続分を算定して、これを分割した。
(1)Bには、その相続開始時において、遺産分割の対象となる固有の財産はなく、Aの遺産に対するBの相続分は、Aの遺産を取得することができるという抽象的な法的地位であって、遺産分割の対象となり得る具体的な財産権ではない。そうすると、審判によって分割すべきBの遺産は存在しないから、Bに係る遺産の分割申立ては不適法である。
(2)上記Bの相続分は、上記(1)に記載した内容のものであるから、遺産分割手続を要せずして、Bの相続人である抗告人及び相手方らに民法900条所定の割合に応じて当然に承継される。そして、遺産分割手続によらない承継には民法903条は適用されず、また、Bにはその相続開始時に遺産分割の対象となる固有の財産もないから、相手方Y2について主張されているBからの特別受益を考慮する場面はない。したがって、Aの遺産については、Aとの関係における抗告人及び相手方Y2の各特別受益を持ち戻して算定される抗告人及び相手方らの各具体的相続分に基づいて分割することとなる。
4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
遺産は、相続人が数人ある場合において、それが当然に分割されるものでないときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属し、この共有の性質は、基本的には民法249条以下に規定する共有と性質を異にするものではない(最高裁昭和28年(オ)第163号同30年5月31日第三小法廷判決・民集9巻6号793頁、最高裁昭和47年(オ)第121号同50年11月7日第二小法廷判決・民集29巻10号1525頁、最高裁昭和57年(オ)第184号同61年3月13日第一小法廷判決・民集40巻2号389頁参照)。そうすると、共同相続人が取得する遺産の共有持分権は、実体上の権利であって遺産分割の対象となるというべきである。
本件におけるA及びBの各相続の経緯は、Aが死亡してその相続が開始し、次いで、Aの遺産の分割が未了の間にAの相続人でもあるBが死亡してその相続が開始したというものである。そうすると、Bは、Aの相続の開始と同時に、Aの遺産について相続分に応じた共有持分権を取得しており、これはBの遺産を構成するものであるから、これをBの共同相続人である抗告人及び相手方らに分属させるには、遺産分割手続を経る必要があり、共同相続人の中にBから特別受益に当たる贈与を受けた者があるときは、その持戻しをして各共同相続人の具体的相続分を算定しなければならない。
以上と異なり、審判によって分割すべきBの遺産はなく、Bとの関係における特別受益を考慮する場面はないとした原審の判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。論旨は理由があり、原決定は破棄を免れない。そして、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官・堀籠幸男、裁判官・濱田邦夫、裁判官・上田豊三、裁判官・藤田宙靖)