○「
特別受益制度−特別受益時非相続人への贈与は?」を続けます。なお、非相続人とは文字通り、相続人に非ずで、相続人ではない人という意味で、被相続人の誤植ではありません。
非相続人ではない、相続人の配偶者・子の得た特別の受益について、
日本加除出版株式会社発行「
家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務」では、持ち戻しの可否として,被相続人が相続人の配偶者・子らに対して贈与をしても、これは相続人に対する贈与ではないから、持ち戻しの対象にならないと断言して解説し、その理由として、相続人の配偶者・子らに対する贈与まで受益者にすると、特別受益者か否かの判断が困難となり、かえって紛争を増加することになりかねないことを上げています。但し、例外として真実は相続人に対する贈与であるのに、名義のみ配偶者・子としたというような場合には,特別受益に該当すると解されるとしています。
○「
家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務」は、最近購入した書籍ですが、「
家庭裁判所における調停の考え方と実務の流れがわかり、遺産分割に初めて携わる調停委員や法律実務家への入門書として最適!わかりやすい解説で、遺産分割の基礎から解決手法まで理解できます。」とのキャッチフレーズの通りであり、家裁での遺産分割・遺留分実務を勉強するには最適の書で、相続事件を取り扱っている弁護士には必須の書と思われます。
○同著は、
片岡武東京家庭裁判所判事・管野眞一盛岡家庭裁判所主任書記の共著ですが、平成21年6月から仙台家裁所長の職にある
秋武憲一氏の推薦のことばに「
本書は,東京家庭裁判所において遺産分割事件を担当している片岡武判事が,かつて一緒に仕事し,その迅速,的確な実務処理能力を高く評価している管野眞一主任書記官とともに,遺産分割の基礎知識のほか,最新の実務の運用とその根拠,さらに必要な裁判例等を懇切丁寧にかつ過不足なく解説したものである。」、「
片岡判事は,東京家庭裁判所の遺産分割専門部で3年間にわたり遺産分割事件を担当し,現在,最も遺産分割事件の実務に精通している裁判官である。」とあります。
○法律解説書は、学者が判例等を調べて机上で作成したものより、現実に生の事実にぶつかり、実際事案に悪戦苦闘した実務家の書いたものの方が、実務家にとってズッと役に立ちます。片岡判事は、事件数が圧倒的に多い東京家裁遺産分割専門部での実務経験、更に調停委員に対する講義経験等を基に信頼する菅野書記官と共に著したもので、その内容は「
専門的知識や最近の実務の運用,裁判例等を,設例をもうけるなどして,具体的かつ平易に解説しており,その水準も非常に高いもの」とのことです。私の疑問点等解説部分に当たっただけですが、正にその通りと実感しています。
○この書籍に基づき非相続人の特別受益の考え方を以下に整理します。
・代襲相続人の得た特別受益は、代襲原因発生前に生じた場合は持戻しの対象にならず、代襲原因発生後の特別受益は持戻しの対象となるとするのが通説、但し反対説あり。
・受贈者が贈与後に推定相続人の資格を得た場合、例えば贈与を受けた後に結婚して妻に、或いは、養子縁組して養子になった場合、支配的見解は、共同相続人間の公平維持の観点から受益の時期如何にかかわらず、全て持戻しの対象となる。但し反対説あり。