「相続させる」は遺産分割実行方法指定で最も重要
○遺言で@相続分の指定、A遺産分割の方法の指定、B遺贈の3つが出来ますが、その区別は大変紛らわしくて難しいもので、例えば被相続人父Aと相続人妻B、長男C、長女Dが居る場合にAが「私の財産は全部妻Bにやる」との遺言書を作成した場合、この@、A、Bの何れにも当たる可能性があります。
○先ず相続分として10分の10を指定した@相続分の指定、次に全ての財産を現物で分けるA遺産分割の方法の指定、更に全ての財産を妻に与えるB包括遺贈の3通りの解釈が可能です。
○@相続分の指定、A遺産分割の方法の指定は、これだけでは相続による取得分は確定せず、更に相続人間で遺産分割協議を行う必要がありました。しかし、A遺産分割の方法の指定には、遺産分割の実行の指定を含むと解釈されるようになり、実行の指定があった場合は、遺産分割は不要で遺言者死亡時に直ちに指定された財産が指定者に承継されると解釈されています(最高裁平成3.4.19民集45.4.477)。
○その遺産分割の実行の指定とされるための文言が「相続させる」と言うものです。所有権移転の登録免許税が遺贈だと1000分の25、相続だと1000分の6で相続より遺贈が4倍も高く且つ所有権移転登記手続に遺贈だと原則として相続人全員の同意が必要なところ、相続だと単独で可能なことから、遺言実務では「相続させる」と言う文言を使うことが鉄則になっています。
○「私の財産は全部妻Bにやる」の「やる」との文言では「与える」と言う意味で「相続させる」ではなく遺贈と解釈される可能性が高いのでこのような曖昧な文言は使用しない方が無難です。
○「相続させる」と言う文言はあくまで相続人を対象とした遺産分割実行の指定であり、相続人以外のものに使用することは出来ません。相続人以外の人に財産を分けたい場合は、「遺贈」との文言を使用するしかありません。
○法定相続分或いは指定相続分による不動産の持分権は登記をしなくても第3者に対抗できますが、遺産分割による相続財産の取得を第3者に対抗するためには登記が必要です。同様に遺贈による不動産の権利も第3者に対抗するためには登記が必要です。
○ですから遺言で相続人以外の人に特定の不動産を分け与えたい場合は「遺贈」する旨と遺贈について速やかに登記できるように遺言執行者を決めておく必要があります。遺言執行者が居ないと遺贈による登記は相続人全員の同意がないと出来ないからです。