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小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

遺言書

包括遺贈と相続分の指定の違いについての整理

○民法964条で「遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。」と定めていますが、これを遺贈と言い、財産を特定して譲与するのが特定遺贈、財産は特定せず一定の割合を定めて譲与するのが包括遺贈です。具体的には、甲不動産は妻に遺贈すると言うように財産を特定して行うものが特定遺贈で、財産の5分の4を妻に譲与するすると言うのが包括遺贈です。

○後者の包括遺贈と民法902条の相続分の指定はどう違うのか大変紛らわしい問題があり、その違いを私なりに整理します。

○先ず対象者は、包括遺贈は相続人に限られませんが、相続分の指定は相続人に限られます。包括遺贈は相続人に限られず、法人も包括遺贈を受けることができます(東京家審昭和40.5.20家月17.10.121)。

○包括遺贈を受けた人を包括受遺者と言いますが、民法990条により相続人と同一の権利義務を有することになり、義務として包括の割合と同一の相続債務も負担します。例えば5分の4と指定された場合5分の4の債務も負担します。

○問題は相続人の債権者との関係ですが、債権者はどのような包括遺贈があろうと相続人全員に対し法定相続分に応じて各相続人に請求ができ且つ相続人以外の人が包括遺贈を受けた場合はその人にも包括の割合による金額を請求できます。相続人以外の人と相続人の債務の関係はおそらく連帯債務になるものと思われます。但し、この点についての判例・学説は未確認です。

○相続分の指定については債権者に対抗できず例えば相続人が妻と長男だけでの場合に妻の相続分を5分の4と指定しても債権者との関係では妻の債務承継割合は法定相続分の2分の1ですが、妻に5分の4を包括遺贈された場合、妻の債務承継割合は5分の4になります。しかし、かといって債権者との関係では本来2分の1の法定相続分であった長男の債務承継割合が5分の1に減少されることはありません。但し、この点についての判例・学説も未確認です。

○相続人の相続分指定による不動産取得は登記無くして第3者に対抗できますが、包括受遺者の不動産取得割合は登記しない限り第3者に対抗できません(東京高判昭和34.10.27高民集12.9.421)。

○包括受遺者は次の場合の相続人としての権利は取得しません。
・保険金受取人として「相続人」と指定された場合
・共同相続人が第3者に譲渡した相続分の取戻権
・共同相続人または包括受遺者が相続または遺贈を放棄した場合の放棄分追加

○相続分の指定の場合は代襲の可能性がありますが、包括遺贈の場合は遺言者より先に受遺者が死亡した場合遺贈は無効になるので代襲の可能性はありません。

○実務的には相続人に対しては遺産分割実行方法の指定「相続させる」が最も有効で、包括遺贈は相続人以外の人に財産を譲与する場合に限るべきと考えた方が無難でと思われます。