公正証書遺言の方式と問題点−口授に注意
○民法第969条で公正証書遺言について次のように定めています。
公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
1.証人2人以上の立会いがあること。
2.遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
3.公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
4.遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を附記して、署名に代えることができる。
5.公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を附記して、これに署名し、印をおすこと。
○以上の方式だと聴覚障害者では公正証書遺言が出来ないので、平成11年に聴覚障害者用に民第969条の2が追加され、通訳人を介して公証人と遣り取りして公正証書が作成できるようになりました。
○上記公正証書作成方式は、@口授、A公証人の筆記、B読み聞かせと順番が厳格に定められていますが、遺言方式を定めた目的は、遺言者の「真意の確保と正確を期する」ことであり、この目的を達していれば、多少の方式の緩和は認められています。
○公正証書遺言作成実務では、事前に遺言者本人或いは弁護士等関係者が公証人に遺言内容を文書や口頭で伝え、これを元に公証人が事前に公正証書用紙に清書して準備した後に、公証人役場や遺言者入院中の病院などで遺言作成本番が行われます。
○この遺言作成本番では、公証人が事前に作成していた遺言書の内容を遺言者本人と証人に読み聞かせて内容間違いないとの確認を得て、遺言者と証人の署名押印をするとの順で行われ、この時、遺言者本人は、公証人が読み上げた内容を間違いありませんと承諾するだけであり、遺言内容全部をそのまま口授することは先ずありません。
○以上の通り、実務では「遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授する」との要件は、厳格には守られていないのが実情で、問題になることは殆どありません。
○この方式で問題になるのは、遺言者が例えば脳梗塞等で発声能力に問題がある場合です。遺言内容に不満のある相続人は、この点を捉えて「口授」出来るはずがないから、「口授」の要件を欠き、その公正証書遺言は無効であると争うことがあります。
○「口授」は例えば遺言作成を依頼した弁護士に対して行い、弁護士が書面にまとめて公証人に伝えただけでは足りず、遺言者が直接公証人に対し「口授」することが法の要求です。
○遺言者が妹に口述して筆記させ、それを公証人に渡し、公証人がこれに基づき筆記清書して、作成本番で遺言者に読み聞かせ、公証人の「間違いないかどうか」の質問に、遺言者が「はい」と答えた経緯では、遺言者の真意が確保されているから、遺言者の「遺言の趣旨の口授」があったとみてよいとの判例(千葉地判昭和61.11.10判時1227号127頁)もありますが、後で「口授」が争いになるそうな病人が遺言をするときは注意が必要です。