○「
交通事故被害者受領保険金を不法行為として返還を認めた判決紹介1」の続きで、平成29年2月28日広島地裁判決の判断部分です。
原告は、平成26年11月2日発生事故の傷害について同年同月4日から平成27年5月7日までほぼ6ヶ月間にA病院3回、B接骨院125回通院し、A病院分約3万円、B接骨院分約80万円の治療費を被告側保険会社に支払って貰いました。
○ところが、原告は、本件事故により,腰椎捻挫,左膝打撲,左足関節捻挫,左殿部打撲の傷害を負ったにも拘わらず、以下の事実が判明しました。
・事故翌日11月3日には軟式野球試合に出場し、「投手,4番打者(上衣が紺色のユニフォームの背番号11番の選手。以下同じ。)としてフル出場し,打者としては3回打席に立ち,うち1回はセーフティバントでダッシュして出塁し,左足で1塁ベースを踏んで駆け抜け,他の1回では会心のヒットを放ち,守備では右投げ投手(投球の際に左足や左殿部に強い負荷がかかると推認される。)として6回を投げ抜き(被安打2,四球3,自責点1),ピッチャーゴロの処理も問題なくこなす活躍をし」、
・11月16日の試合では「三塁手,3番打者としてフル出場し,4安打(うち1本は本塁打)の活躍をし」、平成27年2月15日の軟式野球の試合では,「投手,5番打者としてフル出場し,投手としては5回を完投し,2安打した。同年2月22日の軟式野球の試合では,投手,5番打者としてフル出場し,7イニングを完投し」たことが判明しました。
○これらの事実がどうして判明したかは、「
乙6ないし12(枝番を含む。)」と証拠を挙げていますが、目撃者の陳述書でも提出されたのかも知れません。また、「
原告はフェイスブック(乙8の2・3)に投稿していたところ,平成27年2月5日にランニングをしていることを載せている。」なんて記載もあり、原告自身が、得意げに自分のフェイスブックに掲載したのかも知れません。
○いずれにしても、腰椎捻挫,左膝打撲,左足関節捻挫,左殿部打撲の傷害があったとしても、翌日に野球の試合で「
セーフティバントでダッシュして出塁し,左足で1塁ベースを踏んで駆け抜け,他の1回では会心のヒットを放ち,守備では右投げ投手(投球の際に左足や左殿部に強い負荷がかかると推認される。)として6回を投げ抜」く大活躍をするようでは、傷害の程度は大したことはないと認定されて当然でしょう。この判決は、被害者側として大変厳しい判決ですが、事実関係を見る限り、やむを得ないと評価できます。
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第3 当裁判所の判断
1 本件事故の過失割合
(1)甲1,11の1・2,乙2,原告本人並びに弁論の全趣旨によれば,本件事故現場は被告車の進行車線の突き当たりの丁字路交差点であるところ,被告車進行車線の交差点手前には一時停止線があり,交差道路が優先道路となっていること,原告車は自転車横断帯を通行していたこと,被告車から見て,原告車が来る方向(右方)の見通しが良好であったことが認められる。
以上の事実によれば,本件事故の過失割合は,原告が5%,被告が95%であると認められる。
(2)この点,被告は,本件事故現場が信号機による交通整理の行われていない横断歩道であること,原告車が被告車の直前を横断したことを挙げ,原告の過失割合は30%であると主張する。しかし,上記で掲出した証拠によれば,本件事故現場では信号機による交通整理が行われていないことは認められるものの,被告車進行車線よりも交差道路(原告車が進行していた方向の車線)の方が優先道路になっているのであるから,被告車はより慎重に横断歩道を通過すべき注意義務を負っていたといえるのであり,信号機による交通整理が行われていないことをもって原告の過失割合が5%を超えるとは認められない。また,原告車が被告車の直前で横断を開始したとの事実を認めるに足る証拠はない。よって,被告の上記主張はいずれも当裁判所の判断を左右しない。
他方,原告は,被告に右方の安全確認義務違反が著しい過失にあたると主張するが,上記認定事実をもって直ちに被告に著しい過失があるとまでは認められないから,原告の上記主張は採用できない。
2 本件事故と相当因果関係のある原告の損害
(1)治療費等 13万1186円
ア 原告は,本件事故により,被告側から填補済みの治療費・施術費部分に加え,平成26年11月4日から平成27年5月7日までの間,A病院での治療等で4万4134円,B整骨院での施術で10万1560円を要したと主張する。これらの費用が本件事故と相当因果関係を有することの根拠として,原告は,〔1〕原告が平成27年4月14日にA病院を受診した際,同病院医師P1(以下「P1医師」という。)は,もう1か月程度の加療が望ましいとの治療計画を立てており,同年5月中旬まで原告が治療を続けるのを了解していたこと,〔2〕P1医師が,B整骨院への通院を容認するとともに,B整骨院での施術により,相当程度以上の症状が軽減,回復しており,その施術は医学的に有効かつ相当であったこと,以上の点を挙げて,平成26年11月16日以降の治療・施術費も,本件事故と相当困果関係を有する損害に当たると主張する。また,〔3〕被告の付保する東京海上日動及び被告代理人は,平成27年3月末まで原告が施術を続けることを認めていながら,後になって態度を翻すのは信義則に反するとも主張する。
上記〔1〕の主張については,甲3,4,7の6・7,17,乙1中に,上記〔2〕の主張については,甲12,13,17,証人P2,証人P3及び原告本人中に,上記〔3〕の主張については,甲14ないし16中に,それぞれ沿う部分がある。
イ しかし,以下の理由で,A病院での治療費及びB整骨院での施術費のうち,平成26年11月15日までの治療・施術分に関する費用,すなわち,A病院の治療費等のうち,同年11月5日分の3万0175円(甲5),及び,コピー代等(甲10)の中で同年11月15日までの治療に関する部分(情報開示手数料540円,診療録コピー代(甲4の16枚のうち11枚分)×21円,画像CD-R作成1枚1080円)の1851円,並びに,B整骨院の施術費のうち9万9160円の,合計13万1186円は,本件事故との相当因果関係が認められるものの,同年11月16日以降については,本件事故との相当因果関係が認められない。
(ア)上記〔1〕の点について
a 原告がA病院に通院したのは,本件事故の3日後である平成26年11月5日,平成27年4月8日及び同月14日の3回であるが,甲4ないし6,8ないし10によれば,これらの通院のうち,治療を受けたのは平成26年11月5日の1回だけで,同日の治療内容も,湿布及びロキソニン(7日分)を処方されるにとどまっており,その後,原告は,A病院では,問診,検査を受けるのみであったことが認められる。原告は,2回目及び3回目の受診で左膝の不安定感や痛み等を訴えていたが,それらの自覚症状を裏付ける他覚的・神経学的所見は見当たらない。
b かえって,乙6ないし12(枝番を含む。)によれば,本件事故の翌日である平成26年11月3日以降,原告が軟式野球に積極的に打ち込んでいることが認められる。すなわち,同日の軟式野球の試合では,原告は,投手,4番打者(上衣が紺色のユニフォームの背番号11番の選手。以下同じ。)としてフル出場し,打者としては3回打席に立ち,うち1回はセーフティバントでダッシュして出塁し,左足で1塁ベースを踏んで駆け抜け,他の1回では会心のヒットを放ち,守備では右投げ投手(投球の際に左足や左殿部に強い負荷がかかると推認される。)として6回を投げ抜き(被安打2,四球3,自責点1),ピッチャーゴロの処理も問題なくこなす活躍をした。同年11月16日の軟式野球の試合では,三塁手,3番打者としてフル出場し,4安打(うち1本は本塁打)の活躍をした。平成27年2月15日の軟式野球の試合では,投手,5番打者としてフル出場し,投手としては5回を完投し,2安打した。同年2月22日の軟式野球の試合では,投手,5番打者としてフル出場し,7イニングを完投した。また,原告はフェイスブック(乙8の2・3)に投稿していたところ,平成27年2月5日にランニングをしていることを載せている。
c 以上のような病院外での原告の活動状況に照らせば,原告には,被告が認める平成26年11月15日までの期間を超えて,本件事故での傷害による痛み等の症状が持続していたとは認められない。
この点,原告は,これらの試合が草野球で本格的なものではないし,チームの人数が9名しかおらず,人数がそろわなければ棄権することになり,参加費1万7000円が無駄になるし,チーム関係者には勤務先であるB整骨院の顧客らがおり,負けてもいいから来てほしいとの依頼を断るのが困難であったため,痛みを我慢して出場したなどと主張し,甲17,原告本人中にはその主張に沿う部分があるが,乙6,7(枝番を含む。)からは,原告が痛みを我慢して出場していたとは認められず,その主張は採用できない。
(イ)上記〔2〕の点について
a 甲3,4,乙1(14,15頁)によれば,A病院のP1医師は,診療録の平成27年4月14日の欄に「B接骨院に通院している。電気とマッサージ,超音波を当てる」と記載したのに加え(正確には「B接骨院」は「B整骨院」である。),「左足関節痛が強く,もう1か月程度の加療が望ましい」と記載し,診断書(甲3)にも同趣旨の記載をしたことが認められる。
しかし,上記診療録の平成27年4月14日の欄は,平成26年11月5日の受診経過の記載があるのに続けて,「その後,B接骨院に通院している。電気とマッサージ,超音波を当てる。ジョギングをすると痛みが出る。」との記載があるにとどまることからすれば,B整骨院への通院を事実経過として記録したものにすぎず,P1医師がB整骨院への通院の必要性,相当性を認めた記述とは認められない。
また,「左足関節痛が強く,もう1か月程度の加療が望ましい」との記述は,原告がP1医師に対して,左足関節痛の痛みが強い旨申述したことを受けて記載したものと認められるところ,そもそも,上記のとおり原告が本件事故の翌日から野球に興じていることからすれば,左足関節痛の痛みが強い旨の原告からP1医師への訴え自体が信用できないのであり,ひいては,この訴えに依拠するP1医師の上記診療見込みも信用できない。この点,原告本人中には,P1医師が示した診療見込みは,P1医師が行ったレントゲン検査等も踏まえた所見である旨の部分があるが,レントゲン検査で捻挫の有無・程度が判別できるとは認められないから,上記供述部分は当裁判所の判断を左右しない。
b P1医師が作成した平成28年5月17日付意見書(甲13)には,「平成27年4月14日の診察時に左足関節捻挫及び左殿部打撲傷と診断し,その際まだ加療を続けるのが望ましい旨記載したが,原告の症状からすると,この程度の期間延長はやむを得ないし,平成26年11月4日から平成27年5月7日までの間B整骨院への通院をしているようであるが,医学的には,有効かつ相当であったと判断できる」旨の記述がある。しかし,この所見は,原告の左足関節痛が強いことを前提としているところ,その痛みの存在が認められない以上,この所見の裏付けはない。また,この所見には,「(原告の受傷に関する)施術を受けることを目的とし,かつ,効果があったということであれば」との留保が付されているのであり,B整骨院における施術に効果があったことを医学的に認めたものではなく,効果があったと仮定した場合の一般論を示したに過ぎない。
よって,甲13によっても,原告に対する平成26年11月16日以降の治療及び施術が原告の傷害に必要であったとは認められない。