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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

交通事故被害者受領保険金を不法行為として返還を認めた判決紹介1

○原告が、被告に対し、被告運転の自動車による交通事故にについて不法行為による損害賠償金等の支払を求め(本訴請求)たところ、被告が、原告に対し、同事故から2週間程度後以降に原告が負ったとする治療費、施術費は、不要な支出であり、原告が損害拡大防止義務に違反して被告に損害賠償させたものであって、不法行為による損害賠償請求権又は不当利得返還請求権に基づき(選択的請求)既払額の一部金の支払等を求めました(反訴請求)。

○この事案について、過失割合は、原告が5%、被告が95%であるとし、原告の本訴請求は、被告に対し、請求額を減額したうえで一部認容しましたが、原告が被告側保険会社から損害賠償として受領した保険金の一部は、原告が信義則上の義務に違反し、被告に賠償させたので不法行為責任を負うとして、被告の反訴請求全額を認容した平成29年2月28日広島地裁判決全文を3回に分けて紹介します。

○この争いは、加害者と保険会社の争いの形式を取っていますが、実質、保険金を支払った保険会社と交通事故被害者の争いです。加害者の代理人は保険会社の顧問弁護士のはずで、保険会社は特に支払済み整骨院施術費について損害拡大防止義務違反を理由に返還を求め、裁判所も認めました。特に整骨院にとっては厳しい判決であり、被害者側としては注意すべき判例です。

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主   文

(1)被告は,原告に対し,8万6691円及びこれに対する平成26年11月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)原告のその余の本訴請求を棄却する。
2 原告は,被告に対し,70万5320円及びこれに対する平成28年4月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,本訴反訴ともこれを20分し,その19を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項(1),第2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 本訴

 被告は,原告に対し,143万5694円及びこれに対する平成26年11月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 反訴
 主文2項と同旨

第2 事案の概要
 本件の本訴は,原告が,被告に対し,被告運転の自動車によって交通事故に遭ったとの理由で,不法行為による損害賠償請求権に基づき,143万5694円及びこれに対する事故日である平成26年11月2日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

 本件の反訴は,被告が,原告に対し,同事故から2週間程度後(平成26年11月15日ごろ)以降に原告が負ったとする治療費,施術費は,不要な支出であり,原告が損害拡大防止義務に違反して被告に損害賠償させたものであって,不法行為又は不当利得に当たるとの理由で,不法行為による損害賠償請求権又は不当利得返還請求権に基づき(選択的請求),既払額の一部である70万5320円及びこれに対する反訴状送達日の翌日である平成28年4月29日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

1 前提事実
(1)交通事故の発生

 原告と被告の間では,次のような交通事故が発生した(以下「本件事故」という。争いがない)。
日時 平成26年11月2日午後5時15分頃
場所 広島市○○区β△番△△号○○先路上
車両 被告運転 普通乗用自動車(広島○○○あ○○○○。以下「被告車」という。)
   原告運転 自転車(以下「原告車」という。)
態様 被告車が直進して,信号機による交通整理の行われていない交差点にさしかかったとき,被告車の前方の交差点手前の自転車横断帯を被告から見て右方から左方に向けて横断中の原告車に衝突。衝突部位は,原告車の左後部及び被告車の前部(争いがない)

(2)被告の不法行為責任
 本件事故は,被告が,本件事故現場の道路を走行するに際し,前方左右を注視して,横断歩道及び自転車横断帯上を通行する歩行者等の有無に留意し,安全を確認して進行すべき注意義務があるのに,これを怠り,見通しがよいにもかかわらず,左方しか確認せず,原告車への注意を怠るという前方不注視をしたことが原因で生じた。よって,被告は不法行為責任を負う(争いがない)。

(3)傷害
 原告は,本件事故により,腰椎捻挫,左膝打撲,左足関節捻挫,左殿部打撲の傷害を負った(争いがない)。

(4)本件事故後の原告の治療経過
 原告は,本件事故による傷害の治療との理由で,次のとおり通院した(通院した事実は争いがない)。
ア A病院
〔1〕平成26年11月5日(甲4),〔2〕平成27年4月8日(甲5)及び〔3〕同月14日(甲6)の3日。
イ B整骨院
 平成26年11月4日から平成27年5月7日まで(実通院日数125日。甲7の1ないし7)。
 なお,B整骨院は,原告の勤務先である。

(5)被告側から原告への既払額
 被告側から原告へ,本件事故後の原告の平松病院における平成26年11月5日受診分の治療費として3万0175円,B整骨院における施術費(平成26年11月分から平成27年3月分まで)として80万4480円の,各支払がされている(甲5,7の1ないし5,弁論の全趣旨)。

2 争点及び争点に対する当事者の主張
(1)本件事故の過失割合(本訴関係)

ア 被告の主張
 本件事故は,被告車が,薄暮の中を直進中,信号機による交通整理の行われていない交差点の横断歩道上において,被告車の直前で横断してきた原告車に衝突したものであるから,過失割合は,原告30%,被告70%が相当である。

イ 原告の主張
 原告は,本件事故現場の自転車横断帯を走行する前,一時停止した上,時速わずか1kmで横断していた。他方,被告は,右方の見通しがよいにもかかわらず,左方しか確認せず原告車を見落としたのであり,著しい前方不注視がある。以上によれば,過失割合は,原告0%,被告100%が相当である。

(2)本件事故と相当因果関係のある原告の損害(本訴関係)
ア 原告の主張
 本件事故により,原告は次のとおり損害を被った。
(ア)治療費・施術費等(原告が自己負担したもののみ。)
a A病院 4万4134円(甲8ないし10)
平成27年4月8日分    3521円
平成27年4月14日分 3万8657円
平成27年7月6日分    1956円
b B整骨院 10万1560円(甲7の6・7)
 平成27年4月,同年5月分の施術料である。
(イ)通院慰謝料 116万円(通院期間6か月)
(ウ)弁護士費用 13万円
(エ)請求額合計 143万5694円

イ 被告の主張
(ア)治療費等
 平成26年11月5日に原告がA病院に受診したところ,本件事故による原告の受傷の程度は,鎮痛剤・湿布での安静加療の処置をすれば足りるものであったから,加療期間は長くとも本件事故から2週間程度(同月15日頃まで)にとどまるというべきである。よって,同月16日以降に支払がされた治療費・施術費は,本件事故と相当因果関係を有する損害には当たらない。
(イ)傷害慰謝料,弁護士費用は,争う。
(ウ)損害の填補に関し,被告は,原告に対し,B整骨院の施術費として支払ったもののうち,平成26年11月15日までの施術分9万9160円(甲7の1記載の18万9900円から,反訴に係る次の(4)ア(ア)の9万0740円,すなわち同月16日以降の施術費を控除した額)は,本件事故と相当因果関係を有する損害のうち過失相殺をした後の損害額(傷害慰謝料を含む。)に充当する。


(3)原告の損害拡大防止義務違反の存否(反訴関係)
ア 被告の主張
(ア)原告は,平成26年11月16日以降,本件事故による受傷につき治療を受ける必要がなく,そのことを認識しながら,施術を受け,B整骨院をして,被告を被保険者とする加入保険会社である東京海上日動火災保険株式会社(以下「東京海上日動」という。)に施術費を請求させ,被告に対し,賠償義務のない自動車保険金による賠償をさせた。
 このような原告の行為は,交通事故当事者として原告が負うべき損害拡大防止義務に違反し,被告をして,義務のない自動車保険金による賠償金の支払をさせたものであり,不法行為に当たる。

(イ)上記のように原告が損害拡大防止義務に違反して,B整骨院をして,被告に対して施術費を請求させ続け,被告にその支払をさせるのは,法律上の原因のないものである。被告は,これらの支払金額相当の損失を被り,原告は,B整骨院に対して自らの負担で支払うべき費用を免れる利得を得た。

(ウ)なお,上記の支払は,本件事故における被告の原告に対する賠償義務の範囲を外れているから,本来的には被告が損害保険会社である東京海上日動から受ける賠償保険金の支払対象でないものへの支払である。被告は,東京海上日動からの賠償保険金を保持する理由がなく,自動車保険契約に基づき賠償保険金として支払われる必要のなかった金員については,東京海上日動に対して当然に返還する義務を負っている。
 そのため、不法行為による損害賠償請求でも,不当利得返還請求でも,債権者は原告である。 

イ 原告の主張
(ア)被告の主張は争う。平成26年11月16日以降の治療費・施術費も,本件事故と相当因果関係を有するから,これを被告に支払わせても不法行為に当たらないし,法律上の原因のない利得にも当たらない。
(イ)被告と東京海上日動との間の保険契約に基づいて東京海上日動が支払をしたのであれば,被告には何ら損害又は損失はないのであり,反訴の当事者適格を有するのは東京海上日動であって,被告ではない。

(4)被告が受けた損害又は損失(原告の利得)の額(反訴関係)
ア 被告の主張
 平成26年11月16日以降,被告が保険金により原告に支払ったB整骨院の施術費は,次のとおり,合計70万5320円である。同額が被告の損害又は損失額であり,原告の利得額である。
(ア)平成26年11月分 9万0740円(甲7の1)
 初検料,再検料及び施術証明書・施術費明細書料については,平成26年11月15日までに生じたものと考え,その他の施術費及び指導管理料については,22日分のうち平成26年11月16日以降の11日分を積算したもの。
(イ)平成26年12月分から平成27年3月分まで 合計61万4580円(甲7の2ないし5)

イ 原告の主張
 平成26年11月16日以降の治療,施術は原告の本件事故における受傷に対して有効かつ相当なものであった。