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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

交通事故被害者受領保険金を不法行為として返還を認めた判決紹介3

○「交通事故被害者受領保険金を不法行為として返還を認めた判決紹介2」の続きです。

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c 甲12(B整骨院の診療録)には,B整骨院の施術により,症状が軽減,回復する経過が記述されている。しかし,そもそもB整骨院は原告の勤務先であり,原告の自覚症状の訴えに基づいて施術が続けられたものであるところ,証人P2,証人P3によれば,原告が本件事故の翌日から軟式野球に興じていたことをB整骨院に申告していなかったことが認められるから,この診療録をもって原告の症状の経過を認めるには足りない。
 なお,証人P2,証人P3中には,本件事故後しばらくの間,原告がB整骨院で仕事を終えたときなどに痛みが出ているような様子を見せていた旨の部分があるが,仮にそのような事実が認められるとしても,少なくとも平成26年11月16日以降については,本件事故に起因するものとは認められない。

(ウ)上記〔3〕の点について
 弁論の全趣旨によれば,被告において,原告が本件事故の翌日に軟式野球をするなどできる身体状態であることを知ったのは,被告が付保する東京海上日動が保険金を支払った後と認められるから,東京海上日動ないし被告訴訟代理人が,原告の施術を容認する姿勢からこれを拒否する姿勢に転じたとしても,信義則に反するとは認められない。

ウ 以上によれば,本件事故と相当因果関係を有する治療費は,A病院における平成26年11月5日の受診分3万0175円,及び,コピー代等(甲10)の中で同年11月15日までの治療に関する部分(情報開示手数料540円,診療録コピー代(甲4の16枚のうち11枚分)×21円,画像CD-R作成1枚1080円)の1851円,並びに,B整骨院における平成26年11月15日までの施術分9万9160円(甲7の1記載の18万9900円から,反訴に係る上記第2の2(4)ア(ア)の9万0740円,すなわち同月16日以降の施術費を控除した額)の合計13万1186円と認められ,それを超えては認められない。

(2)傷害慰謝料 8万8000円
 原告は,6か月の治療期間を要したことを前提に,116万円の慰謝料が生じた旨主張する。しかし,本件事故による傷害が,腰椎捻挫,左膝打撲,左足関節捻挫,左殿部打撲という,他覚的所見を伴わない軽傷であること,原告の本件事故翌日からの野球等の活動状況に照らせば,被告が認める平成26年11月15日までの治療期間を超えて,傷害による痛みが継続したと認めるに足りない。
 被告が認める相当な治療期間である平成26年11月2日から同月15日までの14日間を前提とすれば,傷害慰謝料は8万8000円が相当である。

(3)過失相殺の処理
 本件事故の原告の過失割合は5%と認められるから,過失相殺の処理をすると,上記(1)(2)で認められる損害合計21万9186円のうち原告が被告に請求できるのは,20万8226円と認められる。
(計算式)219,186×0.95=208,226(1円未満切捨て)

(4)損害の填補
 被告は,原告に支払ったうち,上記第2の1(5)のA病院への既払分3万0175円及びB整骨院への既払分9万9160円(被告が平成26年11月15日までの施術費に充てるものとして支払ったもの)の合計12万9335円を本訴請求に係る損害に充当したから,残額は7万8891円になる。

(5)弁護士費用
 原告は,弁護士を訴訟代理人に選任した上で本件訴訟を追行しているところ,本件事故と相当因果関係を有する弁護士費用は,上記7万8891円の約1割である7800円と認められる。
 以上の合計は8万6691円になる。

3 原告の損害拡大防止義務違反の存否(反訴関係)
 上記2(1)で認定・判断したところによれば,原告は,平成26年11月16日以降,本件事故による受傷につき治療を受ける必要がなく,そのことを認識しながら,B整骨院で施術を受け,B整骨院をして,被告を被保険者とする加入保険会社に施術費を請求させ,被告をして,支払義務のない自動車保険金による賠償をさせたものであると認められる。

 交通事故被害者は,当該交通事故による傷害の治療費を,加害者に対して損害賠償請求によって受けようとする場合,当該加害者に対し,当該傷害の症状の存否,内容及び程度並びに日常生活への支障の程度等をありのままに申告すべき信義則上の義務を負っており,殊更に不実の申告をすることにより当該加害者から当該交通事故と相当因果関係のない損害の賠償を受ける行為は,不法行為を構成するというべきところ,上記2(1)で認定・判断したとおり,原告は,明らかに加療の必要がなくなった平成26年11月16日以降も,B整骨院で施術を受け続け,B整骨院をして,被告の付保する東京海上日動に施術費を請求させ,被告に対し,賠償義務を負わない施術費を,自動車保険金をもって支払わせたのであるから,原告は,上記の信義則上の義務に違反し,被告に賠償させたことについて不法行為責任を負うというべきである。

 この点,原告は,東京海上日動が支払ったのであれば,被告に損害はない旨主張する。しかし,原告の信義則上の義務違反による不法行為は,究極的には被告に向けられたものであるし,原告は,本件事故の被害者として被告に対する損害賠償請求権を有することを前提に,施術費もその損害賠償義務の範囲に含まれるものとして,その支払を被告ないし被告の付保する東京海上日動に支払わせようとしたものであること,東京海上日動は、被告が原告に対して損害賠償義務を負うことを前提に,被告を被保険者とする保険者の地位に基づき,保険金(施術費)を支払ったに過ぎないこと,以上を考慮すれば,被告は,原告による信義則上の義務違反の不法行為の相手方として,原告に対し,原告が施術を受けることで生じた施術費を,被告の被った損害として賠償請求することができるというべきである(被告が原告から損害賠償を受けた後で,東京海上日動が被告に対しどのように求償するかは,被告と東京海上日動の間で処理すれば足りる。)。よって,原告の上記主張は採用できない。

4 被告が受けた損害又は損失(原告の利得)の額(反訴関係)
 甲7ないし9によれば,原告の損害拡大防止義務違反により,B整骨院に対して支払われた平成26年11月16日分から平成27年3月31日までの既払いの施術費が70万5320円と認められる(初検料,再検料及び施術証明書・施術費明細書料については,平成26年11月15日までに生じたものとし,その他の施術費及び指導管理料については,同月の22日分のうち同月16日以降の11日分を積算したものとする。)。 

5 結論
 以上によれば,原告の本訴請求は,被告に対し8万6691円及びこれに対する本件事故日である平成26年11月2日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の本訴請求は理由がないからこれを棄却し,被告の反訴請求は理由があるからこれを認容し,訴訟費用の負担につき民訴法61条,64条本文,仮執行宣言につき同法259条1項を適用して,主文のとおり判決する。
広島地方裁判所民事第1部 裁判官 梅本幸作