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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

送迎車両降車着地の際の負傷は運行に起因しないとした最高裁判決紹介

○老人デイサービスセンターの利用者が当該センターの送迎車から降車し着地する際に負傷したという事故が、当該送迎車に係る自動車保険契約の搭乗者傷害特約における当該送迎車の運行に起因するものとはいえないとされた平成24年3月4日最高裁判決(裁判所ウェブサイト)全文を紹介します。

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主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。 

理 由
 上告代理人金弘正則の上告受理申立て理由について
1 本件本訴は,亡Aの子である上告人が,Aが老人デイサービスセンター(以下「本件センター」という。)の送迎車(以下「本件車両」という。)から降車した際に負った傷害により後遺障害が残ったと主張して,被上告人に対し,本件車両に係る自動車保険契約の搭乗者傷害特約(以下「本件特約」という。)に基づき,後遺障害保険金の支払を求めるものであり,本件反訴は,上記特約に基づきAに入通院保険金を支払った被上告人が,その金員の支払について法律上の原因がなかったと主張して,上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,上記金員の返還を求めるものである。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 本件センターを運営する会社の取締役であるBは,平成22年5月,被上告人との間で本件車両を被保険車両とする保険期間1年間の自動車保険契約を締結した。本件特約においては,本件車両の運行に起因する事故により,その搭乗者が身体に傷害を被り,入通院した場合に入通院保険金を支払い,また,上記傷害の結果,当該搭乗者に本件特約の定める後遺障害が生じた場合に後遺障害保険金を支払う旨が定められている。

(2) Aは,平成22年11月当時83歳で骨粗しょう症であり,身長が約115㎝で,円背があった。

(3) Aが本件センターでデイサービスを受ける際の送迎は,本件車両で行われていた。本件車両は,地面からその床ステップ及び後部座席の座席面までの高さがそれぞれ約37㎝,約72㎝であったところ,上記(2)のようなAの年齢及び身体の状況に鑑み,通常,Aが降車する際には,本件センターの職員がAを介助し,本件車両の床ステップと地面との間に高さ約17㎝の踏み台を置いてこれを使用させていた。

(4) Aは,平成22年11月13日,本件センターから自宅まで本件車両で送られ,本件車両は上記自宅前の平坦な場所に停車した。その日の送迎を担当した本件センターの職員がAの降車時に踏み台を使用せず,Aの手を引いて本件車両の床ステップからアスファルトの地面に降ろしたところ,Aは,着地の際に右大腿骨頚部骨折の傷害を負った(以下「本件事故」という。)。

(5) Aは,上記傷害により,平成22年11月から平成24年3月まで入通院して治療を受け,同月,症状固定の診断を受けた。

(6) Aは,平成23年4月,本件特約に基づき入通院保険金の支払を請求し,被上告人は,同年5月,Aに対し,同保険金50万円を支払った。

(7) Aは,平成24年7月,本件特約に基づき後遺障害保険金の支払を請求したが,平成25年7月に死亡した。Aの法定相続人は,いずれも同人の子である上告人ほか2名であった。

3 原審は,次のとおり判断し,上告人の本訴請求を棄却し,被上告人の反訴請求を認容すべきものとした。
 本件特約にいう運行に起因する事故があったというためには,運行と事故との間に相当因果関係がなければならないところ,これまでAが本件車両の後部座席から高低差のある地面に直接降車することとはされておらず,本件事故は,本件センターの職員において,Aが本件車両から降車する際に踏み台を置かず,安全に着地できるようにすべき注意義務を怠ったことにより発生したものであって,本件車両の危険が顕在化して発生したものとはいえない。したがって,本件車両の運行と本件事故との間に相当因果関係は認められない。

4 所論は,本件車両の座席面及び床ステップと地面との高低差はAのような高齢者にとっては本件車両の固有の危険であり,本件事故が上記高低差に起因して発生している以上,本件センターの職員の注意義務違反が介在したとしても,直ちに本件車両の運行と本件事故との間の相当因果関係は否定されないというものである。

5 上記の事実関係によれば,本件事故は,Aが本件センターの職員の介助により本件車両から降車した際に生じたものであるところ,本件において,上記職員が降車場所として危険な場所に本件車両を停車したといった事情はない。また,Aが本件車両から降車する際は,上記のとおり,通常踏み台を置いて安全に着地するように本件センターの職員がAを介助し,その踏み台を使用させる方法をとっていたが,今回も本件センターの職員による介助を受けて降車しており,本件車両の危険が現実化しないような一般的な措置がされており,その結果,Aが着地の際につまずいて転倒したり,足をくじいたり,足腰に想定外の強い衝撃を受けるなどの出来事はなかった。そうすると,本件事故は,本件車両の運行が本来的に有する危険が顕在化したものであるということはできないので,本件事故が本件車両の運行に起因するものとはいえない。

 なお,本件においては,上記2(2)のようなAの年齢及び身体の状況に鑑みて本件車両から降車する際に使用されることを常としていた踏み台が使用されていないといった事情が認められるが,Aの降車の際には本件センターの職員の介助のみでなく,踏み台を使用することが安全な着地のために必要であり,上記職員がその点を予見すべき状況にあったといえる場合には,本件センターに対する安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求等の可否が問題となる余地が生ずるが,このことは,本件における運行起因性の有無とは別途検討されるべき事柄である。

6 以上によれば,Aは本件特約に基づく入通院保険金及び後遺障害保険金の各請求権を有しているとはいえないから,上告人の本訴請求を棄却し,被上告人の反訴請求を認容すべきものである。原審は,本件事故が本件センターの職員が安全配慮義務を怠ったことから発生したものであるとして直ちに本件における運行起因性を否定しており,この点の説示に問題はあるが,結論自体は是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 山本庸幸 裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信 裁判官 鬼丸かおる)