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交通事故重要判例

内縁夫交通事故死亡で内縁妻に扶養請求権侵害損害と慰謝料を認めた判例紹介2

○「内縁夫交通事故死亡で内縁妻に扶養請求権侵害損害と慰謝料を認めた判例紹介1」の続きで、裁判所の判断部分です。


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第3 争点に対する判断
1 争点(1)(事故態様,過失相殺)について
(1) 認定事実

 前記前提事実のほか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア 本件道路は,船橋市海神6丁目方面と同市本中山1丁目方面とを結ぶ片側1車線の国道14号線(通称千葉街道)であり,人車の通行が頻繁である。本件事故現場付近は各車線とも幅5.5メートルであり,両側には縁石で区切られた歩道が設けられている。本件道路の最高速度は時速40キロメートルに規制されている(甲16)。

イ 被告は,被告車を運転して本件道路を船橋市海神6丁目方面から同市本中山1丁目方面に向かって時速約40キロメートルの速度で進行し,本件事故現場の手前で進路遠方にある電光交通情報板を見ながら約13.6メートル進行した(甲16)。

ウ 亡Aは,A車を運転して被告車走行車線の反対車線を被告車と同方向に進行し,同車線を斜め横断した後,道路中央線に沿って約7.3メートル進行し,その後,左に進路変更して被告車走行車線を斜め横断するように進行した。

エ 被告が電光交通情報掲示板から目を離し前方を見たところ,右方からA車が被告車の前方を横切ろうとするのに気付き,急制動を掛けたが間に合わず,被告車をA車に衝突させた。

(2) 過失相殺
 前記(1)で認定した事故態様によれば,被告は,自車と同方向に進行するA車が反対車線を斜め横断し,さらに道路中央線付近を進行していたのに,前方左右の注視を怠り,事故直前までA車の存在に気付かなかったのであるから,その過失は少なくない。他方,亡Aは,自転車で本件道路を横断するに当たり,本件道路を通行する車両の有無及び動静を確認し,他人に危害を及ぼさないような方法で運転しなければならない注意義務があるのにこれを怠り,反対車線を斜め横断して中央線付近を進行し,さらに,被告車の進路前方を斜め横断しようとしたのであるから過失がある。
 本件事故態様,両者の過失の内容,本件事故現場付近の道路状況,事故発生時間等に照らすと,本件事故の発生につき,亡Aの過失を40パーセントとするのが相当である。

2 争点(2)(原告の損害及び損害額)について
(1) 扶養請求権侵害について

ア 認定事実
 前提事実のほか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
(ア) 亡Aは韓国籍を有し,1949年,E及びFの二男として福岡県で出生した。E及びFの子としては,他に,長男C(以下「C」という。),長女H,二女Iがいる。
 亡Aは,昭和50年頃,Bと婚姻し,その頃,同人と亡Aの子としてDが出生した。なお,Bとの婚姻が戸籍上解消しているとの事実を認めるに足りる証拠はない。(甲11,乙1)。

(イ) 原告は,昭和58年頃,亡Aと知り合った。亡Aは,当時,Bと婚姻関係にあったが別居しており,同人の署名押印のある離婚届を原告に示してBと離婚する旨を告げ,昭和59年頃,千葉県松戸市で原告と同居を始めた。生計は原告のパート収入と亡Aの稼働収入により維持していた。亡Aが韓国籍であったことから,原告の両親が入籍に反対するなどしたため,原告と亡Aは婚姻の届出をしなかった。その後,国籍による障害は特段問題とならなくなったが,亡Aの仕事が不安定であったことなどから,入籍には至らなかった(甲4,原告本人)。

(ウ) 亡Aは,平成3年,千葉県佐倉市に不動産を購入し,原告と居住した。その後,亡Aは,経営していた喫茶店の業績の悪化により不動産を手放し,転職・転居して原告と一時別居したが,亡Aの収入が安定したことから,平成11年4月頃には原告も転居して千葉県船橋市市場で同居した。その後も亡Aはさいたま市に転職・転居して原告と一時別居し,生活が安定した頃に原告も転居して同居を再開するなどした。

 亡Aは,平成15年10月,埼玉県熊谷市でパブを営むため,同市所在のマンション(以下「本件マンション」という。)の賃貸借契約を自己名義で締結し,転居した。原告は,亡Aの仕事が安定した平成16年5月頃,本件マンションに転居した。

 その後,亡Aは,パブをたたんで知人のJ(以下「J」という。)のつてで働くこととなり,平成22年11月中旬頃,Jと業務委託契約を締結し,千葉県船橋市所在のJが所有する雑居ビルにある飲食店及びカラオケ店の業務を行った。亡Aは,当初,本件マンションから通勤し,その後,上記雑居ビルの一室に住むようになったが,平成24年7月,埼玉県熊谷市に住民登録している。亡Aは,1月に少なくとも2回程度は本件マンションに来て洗濯物を持ってくるなどしており,本件事故当日も本件マンションから千葉県船橋市に戻った後であった。(甲4,5,7ないし10,14,16,原告本人)

(エ) 亡A及び原告は,昭和62年,原告の弟の結婚式に出席し,平成元年,原告の妹の結婚式に出席した。
 また,亡A及び原告は,平成3年,原告の祖母の米寿を祝う親族の旅行に参加した。
 Cは,平成7年に転居した際,亡Aに対し,「奥さんと遊びに来て下さい。」と記載した葉書を送付した。(甲6,20)

(オ) 平成25年4月19日,本件事故が発生した。Jは,警察に対し,亡Aには妻がいるのですぐ連絡するように言った。警察から事情を聞かれたCは,原告のことを,「内縁のXさん」と呼んでいた(甲16,原告本人)。

(カ) 本件事故当時,原告は,埼玉県熊谷市でパート勤務をしており,月額概ね7万円ないし8万円程度の収入を得ていた。亡Aは,月額18万円の報酬を受領していた。
 亡Aは,本件マンションの家賃7万5000円,水道光熱費約1万5000円を支払い,その他,原告に生活費を渡しており,原告の銀行口座に平成25年2月15日には4万円を,同年3月22日には2万円を,同年4月15日には2万円をそれぞれ振り込んだ。(甲2,4,15,17ないし19,原告本人,弁論の全趣旨)

イ そこで検討すると,内縁の配偶者が他方の配偶者の扶養を受けている場合において,その他方の配偶者が不法行為によって死亡したときは,内縁の配偶者は,自己が他方の配偶者から受けることができた将来の扶養利益の喪失を損害として,加害者に対してその賠償を請求することができると解されるところ,前記アで認定した事実関係によれば,亡Aと原告は,約29年にわたり,亡Aの転職に伴って一時別居することがあったものの,ほぼ住居を同一として生活し,原告は主に亡Aの稼働収入によって生計を維持してきたこと,当初は国籍の問題から婚姻の届出がなされず,その後入籍に障害がなくなった後も届出はされていないが,生活の実態に大きな変化はないこと,亡A及び原告の親族は,いずれも,原告らを夫婦と同様の関係として接しており,亡Aの勤務先でも原告は妻として認識されていたことを考慮すると,本件事故当時,原告と亡Aは内縁関係にあり,亡Aの扶養を受けていたものと認めるのが相当である。

 したがって,原告は,被告に対し,扶養請求権侵害による損害賠償を請求することができる。

ウ これに対し,被告は,過去に亡Aと原告との間に共同生活の実態があったとしても,亡Aが千葉県船橋市に転居した後は質的に変化していたものであり,原告と亡Aに夫婦としての実態があったとは言い難いと主張する。
 しかし,証拠(甲9,12,25ないし28,原告本人)によれば,亡Aは,船橋市で稼働するようになってからも,住民登録や外国人登録証の住所は本件マンションとしており,本件マンションの家賃,水道光熱費を自己の名義で負担していたこと,亡Aが船橋市内で居住していた場所は,稼働する雑居ビルの一室に過ぎず,少なくとも月に2回程度は本件マンションに行き,洗濯物を持っていくなどしていたこと,印鑑や外国人登録証明書は本件マンションに置いていたことが認められ,これらの事実に照らすと,亡Aの生活の本拠は本件マンションにあったというべきであり,亡Aが船橋市内で稼働し,同地に居を構えたことをもって,原告との内縁が解消したということはできず,被告主張の事実は上記判断を左右するものではない。

 また,被告は,亡Aは,昭和50年にBと婚姻しており,正式な離婚がなされていないのであれば,重婚関係にあったことになり,法的保護に値しないと主張する。
 しかし,前記認定事実及び原告本人によれば,遅くとも原告と亡Aが同居を始めた昭和59年頃には,亡AとBとの間に夫婦としての関係が継続していたことは窺われず,亡AとBとの婚姻関係は実質上破綻していたというべきであるから,被告の主張は採用できない。

ウ そして,前記認定事実によれば,亡Aは,本件事故当時,月18万円程度の収入があり,本件マンションの家賃7万5000円,水道光熱費約1万5000円を負担し,生活費として平均約3万円程度を原告に渡していたところ,本件マンションは亡Aの生活の本拠でもあること,亡Aは少なくとも月2回程度は本件マンションに来ており原告に渡された生活費は亡Aの生活のためにも費消されていることに照らすと,原告の生計の維持に充てるべき部分としては月6万円と見るのが相当である。また,期間は前記認定事実の下では亡Aの平均余命の2分の1である10年間(ライプニッツ係数7.7217)と認めるのが相当である。

 そうすると,原告の扶養請求権侵害の損害額は,以下のとおり,555万9624円となる。
 6万円×12か月×7.7217=555万9624円

(2) 固有の慰謝料について
 民法711条は,生命侵害の場合の被害者の父母,配偶者及び子の慰謝料請求権について定めているところ,婚姻届出をしなくても事実上婚姻と同様の関係にある内縁の配偶者には同条の類推適用により慰謝料請求権が認められる。
 そして,上記のとおり,原告は,亡Aと事実上婚姻と同様の関係にある内縁の配偶者に当たるから,同条の類推適用により,慰謝料請求権が認められる。
 その金額は,前記認定の亡Aと原告との関係及び生活状況等,本件における一切の事情を考慮し,500万円を相当と認める。

(3) 合計 1055万9624円

(4) 過失相殺
 前記1のとおり,本件事故による損害については亡Aに40%の過失相殺をするのが相当であるところ,前記2のとおり,原告は亡Aの内縁の配偶者であり,亡Aと身分上ないし生活関係上一体であると認められるから,原告の固有損害についても40%の過失相殺を行うのが相当である。過失相殺後の損害額は633万5774円となる。

(5) 既払金控除
 前記前提事実(4)のとおり,原告は,被告が加入する保険会社から損害の填補の趣旨で合計60万円の支払を受けているから,これを上記金額に充当すると,充当後の残額は573万5774円となる。

(6) 弁護士費用 57万円
 本件事案の内容,審理の経過,認容額,その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用として57万円を認めるのが相当である。

第4 結論
 以上によれば,原告の請求は,630万5774円及びこれに対する平成25年4月19日(本件事故発生の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。なお,被告の仮執行免脱宣言の申立ては相当でないから却下する。
 (裁判官 家入美香)