14級後遺障害労働能力喪失率8%喪失期間15年を認めた判例紹介
○追突による鞭打ち症事案では、後遺障害等級は、相当の重傷事案でも、頚髄に明確な障害が認められない限り、せいぜい第14級止まりで、労働能力喪失率は5%、喪失期間5年程度しか認められないのが殆どです。しかし、頚椎障害による重篤なシビレ・痛み等の症状が継続して、大変辛い状況にある方が多く居ます。
○当事務所でも、頚椎障害事案で、重篤な症状に悩まされながら、後遺障害等級は14級止まりで保険会社からは、僅かの損害賠償金が提案され、不服として訴えを提起している事案が複数あります。このような事案に少しでも参考になる裁判例を探しています。今回は、32歳男子調理師がPTSDとの確定診断はないが、「精神面の不調」で、精神科受診の後遺障害逸失利益算定につき、15年間8%の労働能力喪失により認めた平成21年12月17日千葉地裁判決(自保ジャーナル・第1818号)の理由中「逸失利益」部分以下を紹介します。
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(4) 後遺障害による逸失利益
ア 原告には、本件事故による後遺障害として、頭痛、右手の握力低下等の症状が生じていることが認められるところ、これらは、自賠責保険の後遺障害別等級表上でいえば、「局部に神経症状を残すもの」として、いずれも14級に相当するものと考えるのが相当である。原告は、「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当するとして、同表でいえば12級に相当するものであると主張するが、本件においてうかがわれる一切の事情を考慮しても、原告の症状が「局部に頑固な神経症状を残すもの」と評価すべきものであると認めるには足りない。
イ また、原告は、PTSD等の症状を発症し、現在も症状固定に至らずに治療中であると主張しており、原告が、現在も抑うつ神経症ないしは身体表現性障害により加療を受けていることは認められるが、他方で、①証拠(略)によれば、原告について、精神科の専門医によって本件事故によるPTSDを発症しているとの確定診断がされた経緯は見あたらないこと、②原告は、本件事故以前にもHクリニックを受診しており、本件事故の前後を通じて、様々な要因の一つとして、職場での対人関係等の問題が原告によって指摘されていること等からすれば、原告の精神面の不調につき、本件事故の発生が一定程度の影響を与えていることは否定できないが、その程度は限定的なものであると解さざるを得ず、このような原告の精神面の不調をも考慮したとしても、原告の本件事故による後遺障害の程度について、原告が主張する12級に相当するようなものであると認めるには足りない。
ウ もっとも、原告に生じている右手の握力低下は、利き腕に関するものであり、その程度も左手の握力の半分程度となっているものであること、原告は調理師として稼働していたところ、包丁を握るなどの面で実際に支障が生じているものと認められること、握力低下の状態は、事故後5年以上が経過した現在も解消されておらず、今後も相当程度の期間にわたって継続することが見込まれることなどの事情を考慮し、原告に生じた後遺障害の実態に即して考えると、労働能力喪失率としては8%、労働能力喪失期間としては15年間(ライプニッツ係数10.3796)と解するのが相当である。
そうすると、後遺障害による逸失利益としては、294万6,651円である(前記実収入354万8,609円×0.08×10.3796)と認められる。
(5) 慰謝料
本件事故から症状固定までの通院期間に照らせば、傷害に伴う通院慰謝料としては、160万円が相当である。
また、前記(4)のとおり原告に生じた後遺障害は自賠責保険の後遺障害別等級表でいえば14級に相当するものであると考えられるが、同(4)ウに掲げた各事情があることをも付加して考慮すれば、後遺障害慰謝料としては、130万円をもって相当であると認められる。
よって、慰謝料としては、これらの合計290万円が相当であると考えられる。
(6) 原告に生じた損害の合計
以上によれば、本件事故によって原告に生じた損害(ただし、弁護士費用については、後記(9)参照)としては、治療費等の202万5,816円、休業損害の183万3,201円、後遺障害による逸失利益の294万6,651円、慰謝料の290万円の合計である970万5,668円であることになる。
(7) 過失相殺
本件においては、①本件タクシーが左ウインカーを出して停車しており、乗客を乗せようとしていることが外形上直接にはうかがわれない状態であったこと、②実際には、被告乙山は、横断歩道上の歩行者を乗車させようとして左後部ドアを開けたものであるが、原告の位置からそのようなことを予測することは困難であったと考えられること、③原告としては暫く待って本件タクシーが発進しないことを見定めてから本件タクシーの左脇を通過しようとしたことは認められるものの、他方で、④当時、本件タクシーの室内灯は消えており、被告乙山の動静が十分には分からない状態であったこと、⑤実際にも、原告は被告乙山が運転席でどのような状態にあり、どのような行動をとっているかを確認してはいないこと等の事情があることに照らせば、原告は、本件タクシーが発進したり、乗客を乗せようとしているかどうかを十分に確認することなく、漫然と本件タクシーの左脇を通過しようとしたものであるといわざるを得ず、原告にも過失があること自体は否定できない。そして、上記各事情を総合すれば、本件事故の発生に関しては、原告の過失割合は1割と考えるのが相当である。
そうすると、上記損害額から1割相当額を控除した873万5,101円が、被告らが原告に対して賠償すべき損害額であると考えられる。
(8) 既払額
前記認定のとおり、原告の損害に関しては、任意保険から258万9,783円及び自賠責保険から75万円がそれぞれ既に補てんされていると認められるので、これらを上記17)の損害額から控除すると、残額は、539万5,318円であることになる。
(9) 弁護士費用
原告について生じた損害その他の一切の事情を総合すると、本件については、弁護士費用として54万円の範囲で、本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当であると考えられる。
3 結論
以上によれば、原告の被告らに対する本件請求は、上記2(8)の残額及び同(9)の損害額の合計593万5318円並びに弁護士費用を除く損害額の残額539万5,318円に対する本件事故の日後である平成15年11月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、認容することとし、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法61条、64条を適用し、仮執行宣言については同法259条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成21年10月22日)
千葉地方裁判所民事第3部
裁判官 花村 良一