○交通事故による傷害は、大部分が整形外科の治療範囲に属しますが、殆どの場合、整形外科医は、投薬治療、マッサージ師によるマッサージ、電気による温熱治療等が殆どで、整形外科医自らの、直接の手技による施術を行うことはありません。そのため追突事故による鞭打ち症での頚椎捻挫或いは腰椎捻挫等で痛みが継続する場合、施術者自身が、直接手技による治療を行う整骨院・接骨院等治療を受けることが多くなります。
○交通事故による傷害を受けた場合の医師以外の治療費については、「
針灸・マッサージ費用等医師治療費以外の治療費」で裁判例を紹介していましたが、ここで紹介していない重要判例を見つけましたので、更に紹介します。
○平成22年4月27日大阪高裁(自保ジャーナル・第1825号)
柔道整復師の施術は、過剰分除き医師の診断の部位、期間の範囲とし、料金は労災基準上限額とすると判示
以下、柔道整復師を原告として交通事故被害者丙川花子(仮名)の治療費請求部分についての判決文です。
3 丙川花子の損害(必要かつ相当な治療の範囲)
(1) 原告と丙川花子の施術契約の内容
証拠(略)によれば、丙川花子は、原告に対し、施術当初から、自身の傷病が被告との交通事故によるものであることを説明していること、原告の丙川花子に対する初診以降、丙川花子が原告に対し施術料を支払ったことは全くなく、初診後ほどなくして原告が被告付保の保険会社と施術料の支払について連絡を取り合っていることを認めることができる。
丙川らの被告に対する損害賠償請求の問題として捉えたとき、丙川らが本件事故で被った傷害の治療のために必要かつ相当といえる範囲での柔道整復施術料については、本件事故と相当因果関係のある損害に当たるといえる。
丙川らと原告の間で施術契約を締結するに当たっても、本件事故と相当因果関係のある損害の範囲について、同様の認識(本件事故で被った傷害の治療のために必要かつ相当といえる施術料について、本件事故と相当因果関係がある)を前提にしていたものと考えられる。この認識を前提として、前記認定に照らせば、施術料の算定基準について、丙川らと原告の間で、本件事故と相当因果関係があるといえる範囲とすることについての合意、すなわち、丙川らが本件事故で被った傷害の治療のために必要かつ相当といえる範囲の金額を施術料とする合意が存するものと認めることが相当というべきである。
被告は、特段の合意なき限り、丙川花子が健康保険利用の意思を有していたと見るべきと主張する。しかし、このような主張が、交通事故による傷害治療の診療報酬算定の実態に即したものとは言い難い。また、丙川らと原告との間に施術料の具体的な算定基準について合意が締結されたことを認めるに足りる証拠はない。かえって、前記認定のとおり施術がなされた時点で原告と丙川らとの間で施術料の自己負担分について精算がなされていないところ、このことは健康保険を利用したという被告の主張に沿ぐわない。これらに照らせば、被告の主張は採用できない。
(2) 丙川らが本件事故で被った傷害の治療のために必要かつ相当といえる範囲の金額は、証拠(略)にも照らせば、労災保険基準の1.2倍とするのが相当である。原告本人は、これまで任意保険会社への請求額は労災保険基準の2倍としてきた旨を供述するものの、尋問時においても具体的根拠は示されていない。また、過去に労災保険基準の2倍での請求例があったとしても、それによって現時点での同様の請求の妥当性が直ちに裏付けられるものではないから、原告本人の供述によって上記判示は妨げられない。
(3) 外用薬代及び診断書等料金部分を除いて、労災保険基準の1.2倍で計算すると、丙川花子についての必要かつ相当な施術料は67万2300円となり、これに外用薬代8000円及び診断書等料金1万2000円を加えると、合計69万2300円となる。
○平成15年10月27日千葉地裁(交民集36巻5号1431頁)
被害者が交通事故で負傷した症状につき、医師の判断と柔道整復師の判断が異なる場合、医師の判断を優先すべきであるとし、柔道整復師の診断において被害者が提出する各施術証明書・施術費明細書は信用できないとしました。以下、当該部分判決文です。
(2)そして、医師の判断と柔道整復師の判断が異なる場合には、医師の判断を優先すべきであるから、原告作成の各施術証明書・施術費明細書(甲6の2及び3)の上記記載はにわかには信用できず、他に、○○が交通事故により胸椎に傷害を負ったことを認めるに足りる証拠はない。
○平成17年2月23日東京地裁(自動車保険ジャーナル・第1599号)
原告が腰痛を発症、整骨院の施術を受けていた事案につき、医師の指示・同意はなく、「施術の必要性及び有効性があったと認めるに足りない」と施術料の請求を否認しました。以下、当該部分判決文です。
患者の健康状態に関して医学的見地から行う総合的判断は、医師しかできないことや、客観的な治療効果の判定の困難さなどに照らし、交通事故の被害者が、加害者に対し、東洋医学に基づく施術費を請求できるためには、原則として施術を受けるにつき医師の指示を受けるか、あるいは施術の必要性及び有効性があり、施術内容が合理的で、施術期間及び施術費が相当であることを要すると解される。
○平成16年2月27日東京地裁(自動車保険ジャーナル・第1560号)
接骨院の施術費は、医師の指示、有用性・施術内容の合理性、費用と期間の相当性で判断するとしたが、本件では、治療の代替機能を果たしている面があること妥当な料金、被告側が症状固定近くまでの施術費を負担している等、症状固定までの接骨院施術費を他の治療費同様認め、症状固定後の分は否認しました。以下、当該部分判決文です。「
針灸・マッサージ費用等医師治療費以外の治療費」で紹介済みですが、重要判例なので再掲載します。
(2)ところで、原告は、症状固定日までの間、上記病院のほか、三和整骨院に通院して施術を受けており、東洋医学に基づく施術費も請求するので、以下、検討する。
① 交通事故の被害者が、加害者に対し、東洋医学に基づく施術費を交通事故に基づく損害として請求できるためには、原則として、施術を受けるにつき医師の指示を受けることが必要であり、さらに、医師の指示の有無を問わず、施術の必要性・有効性、施術内容の合理性、施術期間の相当性及び施術費用の相当性の各要件を満たすことが必要であると解される。なぜならば、患者の受傷の内容と程度に関し医学的見地から行う総合的判断は医師しかできないこと、施術には整形外科の治療法と比較したときに限界があること、施術の手段・方式や成績判定基準が明確ではないため施術の客観的な治療効果の判定が困難であること、施術者によって技術が異なり、施術の方法、程度も多様であること、施術費算定についても診療報酬算定基準のような明確な基準がないという事情を考慮すると、施術費を、上記要件を満たさない場合においても、医師による治療費と同様に加害者の負担すべき損害とするのは相当ではないからである。