○「
追突事故での統合失調症発症との因果関係を否認した高裁判例全文紹介3」の続きです。
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(13) 既払金 184万7429円
ア 1審原告に対して、訴外E保険会社から人身傷害補償保険金として平成21年2月13日に109万7429円、1審被告W保険会社から同年4月3日に75万円がそれぞれ支払われたことは、いずれも当事者間に争いがない。
なお、1審被告Y保険会社は、上記のほかにも238万8687円を支払ったと主張するが、同支払が本訴請求において請求されていない費目に対するものであることは記録上明らかであるから、同支払は本訴請求にかかる損害に充当されるものではない。
イ 訴外E保険会社による既払金の充当関係
本件交通事故日である平成18年2月15日から上記109万7429円の支払日である平成21年2月13日までの日数は2年と321日(閏年)及び44日(通常年)であるから、その間の遅延損害金は、次のとおり62万1480円となる(414万6530円×0.05×(2年+321日/366日+44日/365日)=62万1480円)。
前記既払金は上記確定損害金、元本の順に充当されるから、同既払金充当後の元本 額は367万581円となる(414万6530円+62万1480円−109万7429円)。
ウ 1審被告W保険会社による既払金の充当関係
前記認定によれば1審被告W保険会社は、平成21年4月3日に75万円の支払を しているところ、同支払は、まず、同年2月14日から同年4月3日までに発生した確定遅延損害金(367万581円×0.05×49日/365日=2万4,638 円)に充当され、その残額が元本に充当されることとなるから、平成21年4月3日 時点での残元本は294万5219円(367万581円+2万4638円−75万円)となる。
なお、1審被告W保険会社の自賠法16条に基づく保険金支払債務は期限の定めのない債務であり、請求の翌日から遅滞に陥るというべきところ、1審原告が1審被告 W保険会社に対し平成21年4月3日以前に損害賠償請求をしたことについて主張立証はないから、1審被告W保険会社は自賠責保険の保険金額に対する遅延損害金の支払義務を負わない。
4 結論
(1) 以上によれば、1審被告Y保険会社は、1審原告に対し、任意保険の直接請求権に基づく損害賠償請求として294万5,219円及びこれに対する前記既払金の最終支払日の翌日である平成21年4月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。
(2) これに対し、1審被告W保険会社は、自賠法13条1項及び自賠法施行令2条により、後遺症逸失利益14級に対応する保険金額75万円の支払義務を負うところ、これを全額支払済みであることは前記認定のとおりであるから、1審原告の1審被告W保険会社に対する請求は理由がない。
2
(1) 当審において、1審被告Y保険会社は、実況見分調書における丁山の指示説明の内容は捜査官の思い込みにより作られたものである可能性が高いと主張するが、同実況見分調書に記載された丁山の指示説明は、同人の陳述書と矛盾するものではなく、他に同人の意に反する内容で同調書が作成されたと認めるに足りる証拠はない。この点に関する1審被告Y保険会社の主張は採用できない。
また、1審被告Y保険会社は、本件交通事故により、1審原告に身体的影響が生じることはないと主張するが、その主張が採用し難いことは既に説示のとおりである。
(2) 1審原告は、1審原告が発症した統合失調症の症状は重いなどとして、原判決の認定した損害額に対する不服を述べるが、同統合失調症につき、本件交通事故との相当因果関係を認め難いことは既に説示のとおりである。
3 以上によれば、1審原告の請求は、1審被告Y保険会社に対する請求を主文第2項の限度で認容し、その余はいずれも棄却すべきところ、これと異なる原判決は失当であるから、1審被告らの本件各控訴に基づき原判決を変更し、1審原告の本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成24年11月1日)
仙台高等裁判所第1民事部裁判長裁判官 宮岡 章、裁判官 本多幸嗣、裁判官 松晴子