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休業損害逸失利益

外貌醜状に関する男女差を違憲とした判決理由全文紹介2

○「外貌醜状に関する男女差を違憲とした判決理由全文紹介1」を続けます。

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(3) 被告の主張の検討
 被告は、外ぼうの醜状障害が第三者に対して与える嫌悪感、障害を負った本人が受ける精神的苦痛、これらによる就労機会の制約の程度について、男性に比べ女性の方が大きいという事実的・実質的な差異があり、これが本件差別的取扱いの合理的根拠となる旨主張し、上記差異の根拠として、以下の点を挙げているので、これらについて検討する。

ア 労働力調査についての主張
(ア) 被告の主張の概要
 被告は、労働力調査における産業別女性比率や産業別雇用者数によると(乙6、7)、女性の就労実態として、接客等の応接を要する職種への従事割合が男性に比して高いといえる旨主張している。

(イ) 産業と職業の相違について
 しかし、上記の産業別女性比率や産業別雇用者数における「産業」とは、調査期間中に就業者が実際に仕事をしていた勤め先・業主の主な事業の種類を日本標準産業分類に基づいて分類したものであり(甲13の2)、労働力調査において当該就業者が実際にしていた仕事の種類であるとされる「職業」とは異なるものである。
 したがって、上記のような産業別女性比率や産業別雇用者数から、女性の職種、ひいては女性の就労実態を直ちには導き出せないし、接客等の応接を要する職種に女性が多く従事していることも導き出せないと解される。例えば、被告の挙げる「医療・福祉」について、当該産業に従事する者の中に、接客を要することのない一般事務に従事する者も一定の割合で存在すると考えられること、「教育、学習支援業」について、産業別女性比率は51.7%であるが(乙7)、その中に含まれると考えられる職業としての「教員」及び「個人教師(学習指導)」についての雇用者数の女性比率は48.1%で(乙14)、男女比率がほぼ逆転していることなどからも、産業別の数値が職業の実態に必ずしもつながらないことを示しているといえる。なお、被告は、事業の種類からでも接客等の応接を要することが多い従業員の割合の大小などをおおむね把握できるなどとも主張しているが、何ら具体的な根拠が示されておらず、上記の判断は左右されない。

(ウ) 産業別雇用者数の関係
 被告は、産業別雇用者数に関し、サービス業全体についての女性の雇用者数の増加が男性より大きく、これが接客等の応接を要する職業に女性が多く従事していることの根拠となる旨主張しているが、労働力調査におけるサービス業全体の中には、「サービス業(他に分類されないもの)」として、専門サービス業としての土木建築サービス業、学術・開発研究機関、廃棄物処理業、自動車整備業、機械等修理業などが含まれている(甲13の1)。したがって、上記(イ)のようにそもそも産業別の数値から職業の実態を直ちに導き出せないことをひとまずおき、被告の主張に沿って考えたとしてもなお、サービス業全体についての女性の雇用者数の増加が男性よりも多いことが、接客等の応接を要する職種に女性が男性より多く従事していることの根拠となるとはいえない。

イ 国勢調査についての主張
(ア) 被告の主張の概要等
 被告は、国勢調査における職業小分類別の雇用者数のデータを整理した別紙(被告指定代理人作成の乙14)を分析すると、女性の就労実態として、接客等の応接を要する職種への従事割合が男性に比して高いといえる旨主張している。
 確かに、被告の主張するとおり、「保健医療従事者」及び「社会福祉専門職業従事者」に占める女性の割合は81.5%、「飲食店主」及び「接客・給仕職業従事者」に占める女性の割合は69.5%であり、男性よりも女性の方が多い。他方、被告も認めるとおり、被告が接客等の応接を要する職業として主張する産業である「教育、学習支援業」及び「卸売・小売業」について、被告がこれら産業に該当する職業として別紙で整理した職業(前者について「教員」及び「個人教師(学習指導)」、後者について「小売店主」、「卸売店主」、「販売店員」、「商品訪問・移動販売従事者」、「再生資源卸売・回収従事者」、「商品販売外交員」及び「商品仲立人」)における女性の割合は、それぞれ、48.1%、41.9%であり、男性よりも低くなっている。
 また、被告の主張する接客等の応接を要すると考えられる職業小分類について、女性雇用者数が総雇用者数に占める割合は別紙のとおり56.7%(「自動車運転者」を加えると51.3%)、同職業小分類の雇用者数が男女の各雇用者総数に占める割合は別紙のとおり女性が38.5%、男性が22.6%(「自動車運転者」を加えると女性38.8%、男性28.2%)である。

(イ) 分析
 まず、本件差別的取扱いの合理性を根拠付けるべき男女の職業に関する差異というのは、外ぼうの醜状障害によって生じる第三者の嫌悪感及び障害を受けた本人の精神的苦痛により就労機会が制約され、損失てん補が必要であると一般的にいえるような職業についての差異である必要がある。
 そうすると、被告の主張する「接客等の応接を要する職業」のみならず、本人の精神的苦痛による就労機会の制約の面からは、多くの不特定の他人と接する、あるいはそのような不特定の他人の目に触れる機会の多い職業も含めて考えるのが相当である。
 別紙に記載されているその他の職業でも、少なくとも、「法務従事者」、「経営専門職業従事者」、「音楽家、舞台芸術家」、「販売類似職業従事者」(不動産仲介・売買人、保険代理人・外交員、外交員(商品、保険、不動産を除く)など)、「生活衛生サービス職業従事者」(理容師(助手を含む)、美容師(助手を含む)、浴場従事者、クリーニング職、洗張職)は、上記の職業に含めて考えるべきであるし、「その他のサービス職業従事者」、「保安職業従事者」の中にも、上記の職業に含まれるものがあると考えられる。

 そこで、被告の主張する「接客等の応接を要する職業」に、上記の「法務従事者」、「経営専門職業従事者」、「音楽家、舞台芸術家」、「販売類似職業従事者」、「生活衛生サービス職業従事者」を加えた職業に従事する女性と男性の数(別紙記載のもの)を合計すると、女性は695万1000人、男性は593万5100人で、女性雇用者数が総雇用者数に占める割合は53.9%、同職業小分類の雇用者数が男女の各雇用者総数に占める割合は女性が33.5%、男性が22.0%である。
 さらに、これに「その他のサービス職業従事者」、「保安職業従事者」を加えた職業に従事する女性と男性の数(別紙記載のもの)を合計すると、女性は778万8200人、男性は716万2100人で、女性雇用者数が総雇用者数に占める割合は52.1%、同職業小分類の雇用者数が男女の各雇用者総数に占める割合は女性が37.6%、男性が26.5%である。

(ウ) 検討
 以上のように、国勢調査の結果を分析すると、外ぼうの醜状障害により損失てん補が必要であると一般的にいえるような職業について、女性雇用者数が総雇用者数に占める割合も、同職業小分類の雇用者数が男女の各雇用者総数に占める各割合も、男性に比べ女性の方が大きいということができるが、採用する職業小分類に応じてその差の程度は区々であるということができる。
 そうすると、国勢調査の結果は、事実的・実質的な差異の根拠になり得るとはいえるものの、その根拠としては顕著なものであるともいい難いところである