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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

休業損害逸失利益

外貌醜状に関する男女差を違憲とした判決理由全文紹介3

○「外貌醜状に関する男女差を違憲とした判決理由全文紹介2」を続けます。

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ウ 精神的苦痛自体の差異についての主張
 被告は、化粧品の売上げや広告費に関する統計から、女性が男性に比して自己の外ぼう等に高い関心を持つ傾向があることが窺われ、外ぼう等に関する関心が高い者の方が醜状の及ぼす精神的苦痛の程度が大きいと考えられるから、外ぼうの醜状障害による精神的苦痛の程度について男女の間に明らかな差異があると主張している。

 確かに、証拠(乙15〜17)を検討するまでもなく、皮膚用化粧品や仕上用化粧品の需要が男性に比して圧倒的に女性に多いこと、女性用の化粧品やファッション、アクセサリーについてのマスコミにおける広告費が大きな数を占めていることは明らかであり、近年男性の自己の外ぼうに対する関心が高まってきているとの証拠(甲17〜38)があることを考慮しても、なお、一般的に、女性の自己の外ぼうに対する関心が男性に比して高いということができる。そうすると、外ぼうの醜状障害による精神的苦痛の程度について、男女の間に差異があるとの社会通念があることに結びつくとはいえるし、当裁判所の認識もこれを否定するものではない。

 他方、外ぼうへの関心が低い人でも、男性であっても、実際に外ぼうに醜状障害を受けた場合に大きな精神的苦痛を感じることもあり得ると考えられる。実際に、原告が、外ぼうの醜状障害によって大きな精神的苦痛を感じていることも、同人の陳述書(甲40)及び本人尋問の結果等から明らかである。
 したがって、外ぼうへの関心の有無・程度や男女の性別が、外ぼうの醜状障害による精神的苦痛の程度と強い相関関係に立っているとまではいえない。

エ 裁判例に関する主張
 被告は、外ぼうの醜状障害に関する逸失利益等が問題となった交通事故に関する裁判例により、外ぼうの醜状障害により受ける影響について男女間に事実的・実質的な差異があるという社会通念の存在が根拠付けられている旨主張している。

 確かに、被告の指摘する裁判例(乙8〜12)において、外ぼうの醜状障害により受ける影響について男女間に差異があることを前提とするような記述が見受けられるが、その記述自体の合理的根拠は必ずしも明らかではなく、これらの記述が、上記のような差異に関する社会通念の存在の強い根拠となるものとはいえない。

オ まとめ
 以上のとおり、国勢調査の結果は、外ぼうの醜状障害が第三者に対して与える嫌悪感、障害を負った本人が受ける精神的苦痛、これらによる就労機会の制約、ひいてはそれに基づく損失てん補の必要性について、男性に比べ女性の方が大きいという事実的・実質的な差異につき、顕著ではないものの根拠になり得るといえるものである。また、外ぼうの醜状障害により受ける影響について男女間に事実的・実質的な差異があるという社会通念があるといえなくはない。そうすると、本件差別的取扱いについて、その策定理由に根拠がないとはいえない。


 しかし、本件差別的取扱いの程度は、男女の性別によって著しい外ぼうの醜状障害について5級の差があり、給付については、女性であれば1年につき給付基礎日額の131日分の障害補償年金が支給されるのに対し、男性では給付基礎日額の156日分の障害補償一時金しか支給されないという差がある。これに関連して、障害等級表では、年齢、職種、利き腕、知識、経験等の職業能力的条件について、障害の程度を決定する要素となっていないところ(認定基準。乙3)、性別というものが上記の職業能力的条件と質的に大きく異なるものとはいい難く、現に、外ぼうの点以外では、両側の睾丸を失ったもの(第7級の13)以外には性別による差が定められていない。

 そうすると、著しい外ぼうの醜状障害についてだけ、男女の性別によって上記のように大きな差が設けられていることの不合理さは著しいものというほかない。また、そもそも統計的数値に基づく就労実態の差異のみで男女の差別的取扱いの合理性を十分に説明しきれるか自体根拠が弱いところであるうえ、前記社会通念の根拠も必ずしも明確ではないものである。その他、本件全証拠や弁論の全趣旨を省みても、上記の大きな差をいささかでも合理的に説明できる根拠は見当たらず、結局、本件差別的取扱いの程度については、上記策定理由との関連で著しく不合理なものであるといわざるを得ない。

(4) 小括
 以上によれば、本件では、本件差別的取扱いの合憲性、すなわち、差別的取扱いの程度の合理性、厚生労働大臣の裁量権行使の合理性は、立証されていないから、前記(2)ウのように裁量権の範囲が比較的広範であることを前提としても、なお、障害等級表の本件差別的取扱いを定める部分は、合理的理由なく性別による差別的取扱いをするものとして、憲法14条1項に違反するものと判断せざるを得ない。

 そして、本件処分は、上記の憲法14条1項に違反する障害等級表の部分を前提に、これに従ってされたものである以上、原告の主張する条約違反の点(前記第2の2(1)(原告の主張)エ)を検討するまでもなく、本件処分は原則として違法であるといわざるを得ない。


2 争点(2)について
(1) 前記1のように、本件差別的取扱いは憲法14条1項に違反しているとしても、男女に差が設けられていること自体が直ちに違憲であるともいえないし、男女を同一の等級とするにせよ、異なった等級とするにせよ、外ぼうの醜状という障害の性質上、現在の障害等級表で定められている他の障害との比較から、第7級と第12級のいずれかが基準となるとも、その中間に基準を設定すべきであるとも、本件の証拠から直ちに判断することは困難である。

(2) このように、「従前、女性について手厚くされていた補償は、女性の社会進出等によって、もはや合理性を失ったのであるから、男性と同等とすべき(引き下げるべき)である」との被告が主張するような結論が単純に導けない以上、違憲である障害等級表に基づいて原告に適用された障害等級(第12級)は、違法であると判断せざるを得ず、本件処分も、前記1の原則どおり違法であるといわざるを得ない。

3 争点(3)について
 前記1、2のとおり、本件処分が違法であることは明らかであるから、争点(3)は判断する必要がない。

4 結論
 以上のとおり、本件処分は障害等級表の憲法14条1項に違反する部分に基づいてされたもので、違法である。したがって、本件処分は取り消されるべきであり、原告の請求は理由があるから、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 瀧華聡之 裁判官 梶山太郎 裁判官佐野義孝は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 瀧華聡之)