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外貌醜状に関する男女差廃止による後遺障害等級改正について」で紹介した外貌の男女差を解消する後遺障害等級基準改正の原因となった平成22年5月27日京都地裁判決(判タ1331号107頁、判時2093号72頁)の理由全文を3回に分けて紹介します。
判決要旨は、仕事中の災害により顔面等に火傷を負い、障害補償給付の支給を申請したところ、障害等級表併合11級に該当するとの認定を受けた男性が、外ぼうに著しい醜状を残した場合に認められる等級が、女性は第7級、男性は第12級とされており、男女に差を設けるのは違憲であるとして、国に対し、本件処分の取消しを求めたことに対し、厚生労働大臣が、障害等級表において、男女に差を設け、差別的取扱いをしていることは、憲法判断の対象となり、国は本件差別的取扱いの合憲性について立証しなければならないところその立証はされておらず、障害等級の本件差別的取扱いを定める部分については憲法14条に違反しているとして、男性の請求を認容したものです。
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第3 争点に対する判断
1 争点(1)について
(1) 本件における憲法判断の対象等
前記第2の1(4)エのように、障害等級表は、外ぼうの著しい醜状障害については女性を第7級、男性を第12級と、外ぼうの醜状障害については女性を第12級、男性を第14級としており、男女に等級の差を設けている。もっとも、労働省労働基準局長通達である認定基準(乙3)によって、男性のほとんど顔面全域にわたる瘢痕で人に嫌悪の感を抱かせる程度のものについては、第7級の12を準用することとされており、これは、同じ省内での判断として、厚生労働省令における障害等級表の定めを補完し、障害等級表と一体となって、その内容に従った運用をもたらすものといえるから、上記の認定基準によって、上記の程度の外ぼうの醜状障害についての障害補償給付に関しては、男女の差はないといえる。
したがって、本件では、厚生労働大臣が、障害等級表において、ほとんど顔面全域にわたる瘢痕で人に嫌悪の感を抱かせる程度に達しない外ぼうの醜状障害について、男女に差を設け、差別的取扱いをしていること(以下、「本件差別的取扱い」という。)が、憲法判断の対象となる。
(2) 本件における合憲性の判断基準等
ア 憲法14条1項
憲法14条1項は、法の下の平等を定めた規定であり、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り、差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨と解される(最高裁判所昭和39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁、最高裁判所昭和48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁参照)。
イ 障害等級表の策定に関する裁量と憲法14条1項
法は、障害補償給付について、厚生労働省令で定める障害等級に応じて支給する旨を規定しているから(法15条1項)、障害等級表の策定については厚生労働省令の定め(規則の定め)にゆだねられており、厚生労働大臣には、障害等級表の策定についての裁量権が与えられているが、上記アの憲法14条1項の趣旨に照らせば、そのような裁量権を考慮してもなお当該差別的取扱いに合理的根拠が認められなかったり、合理的な程度を超えた差別的取扱いがされているなど、当該差別的取扱いが裁量判断の限界を超えている場合には、合理的理由のない差別として、同項に違反するものと解される。
ウ 障害補償給付についての裁量権の範囲
次に、厚生労働大臣の裁量の範囲に関し、法による障害補償給付の性質について検討する。
そもそも、労働者災害補償は、安全配慮義務違反を根拠に使用者に損害賠償を求める場合と異なり、使用者の帰責事由を要せず、被災労働者の過失にかかわらず、また、個別の損害の立証を要せず、定型的、定率的な損害のてん補がされるという性質を有する。もとより、被災労働者は、安全配慮義務違反の要件を立証して使用者に民事上の請求をすることも可能である。
このような性質から考えると、被災者にどの程度の損失をてん補するかは、その時々の労働環境や労働市場等の動向などの経済的・社会的条件、国の財政事情等の不確定要素を総合考量した上での専門的技術的考察及びそれに基づいた政策的判断を要するという面がある。とりわけ、障害等級表の策定については、解剖学的、生理学的観点から労働能力の喪失の程度を分類し、格付けを行う必要があり、複雑多様な高度の専門的技術的考察が必要であるといえる。そうすると、障害補償給付を受ける権利への制約に関する厚生労働大臣の裁量は、表現行為や経済活動などの人権への制約場面に比し、比較的広範であると解される。
エ 判断基準と立証責任
以上によれば、本件においては、障害等級表の策定に関する厚生労働大臣の比較的広範な裁量権の存在を前提に、本件差別的取扱いについて、その策定理由に合理的根拠があり、かつ、その差別が策定理由との関連で著しく不合理なものではなく、厚生労働大臣に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えていないと認められる場合には合憲であるということができる。
他方、行政処分の取消訴訟において、処分の適法性を立証する責任は、基本的に、処分をした行政庁の側にあると解され、本件では、被告が本件処分の適法性を立証しなければならないところ、本件処分が本件差別的取扱いを内容とする障害等級表の定めに基づいてされていることは明らかであるから、本件処分の適法性の前提として、本件差別的取扱いが憲法に違反しないことが必要であり、したがって、被告は、本件差別的取扱いの合憲性について立証しなければならないものと解される。
よって、以下(3)では、この立証責任の配分に従い、基本的には、本件差別的取扱いの合憲性に関する被告の主張の当否を検討していくこととする。