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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

休業損害逸失利益

外貌醜状認定基準改正前の交通事故に改正後の基準を適用した判例紹介

○「外貌醜状に関する男女差廃止による後遺障害等級改正について」の続きです。
現在、当事務所では、平成22年1月の交通事故で顔面部に長さ3p以上の線状痕を残した男性の事案を取り扱っています。この方は「局部に神経症状を残すもの」として、後遺障害等級第14級は認定されていますが、この「顔面部の長さ3p以上の線状痕」は、後遺障害等級第12級「外貌に醜状を残すもの」に該当するはずですが、自賠責は、平成23年5月2日改正前(平成22年6月10日以降に発生した事故についてのみ適用)の交通事故との形式的理由で、改正前の基準を適用し後遺障害等級第14級に過ぎず、神経症状の14級と併合しても、14級は変わらないとの結論です。

○そこで、本件事故は、自賠責後遺障害等級が改訂され外ぼう醜状につき男女差が解消される以前の事故であるが、本件事故当時においても男女差を設けることに合理的理由がないことは明らかであり、原告の右眉を貫通する縦方向の線上痕について、原告が男子であることのみを理由に14級とする理由はなく、12級相当と評価すべきであると主張して訴えを提起しています。

○自賠責は、兎に角、被害者に不利に扱うのが大原則で、平成23年5月2日改正前の交通事故での醜状痕は、改正前の基準を適用しています。そこで裁判例で、この問題を扱ったものがないかどうか探したところ、平成19年9月2日発生の交通事故について、外貌醜状は自賠責改正適用基準日に拘束されず新基準で判断するとした平成24年6月12日大阪地裁判決(自保ジャーナル・第1884号)を発見したので紹介します。

○判決では、@外貌醜状に関する自賠責基準の改正により、「外貌の醜状障害について、男女間の格差を解消する趣旨で、男女を問わず同一の等級とするものと解されるのであり、本件訴訟においては、適用基準日に拘束されることなく、新基準に沿って判断するのが相当である」と判示しながら、A1歳男子の原告には、「前額部・右頬部に挫創後の瘢痕、外傷性異物沈着症が認められ、右眉毛の上に約1p(3か所)」等を残しているが、「新基準によっても「外貌に醜状を残すもの」に当たるものとは認め難い」として、後遺障害を否認しました。

○しかし、この判決では、1歳男子原告の顔面には、「線状痕、瘢痕が残存していることは明らかであり、その部位、大きさ、個数、色彩、年齢等を考慮すれば、後遺障害等級12級に該当しないけれども、これらが残存していることは動かし難い事実であって、原告が、これらについて精神的苦痛を受けたことは明らかであるとして、これに対する慰謝料としては、認定説示にかかる諸事情を総合考慮すれば、110万円が相当である」とし、後遺障害慰謝料を認定しました。以下、判決の理由部分全文を紹介します。

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(4)まず、被告会社は、平成23年政令第116号による改正前の自賠法施行令別表第二第7級12号が「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」と定めていることから、男子である原告Aにこれを適用することは政令違反となる旨主張し、外貌の醜状障害についての自賠法施行令、認定基準の改正により、新しい基準については、平成22年6月10日以降に発生した事故についてのみ適用されるものとされているので、新基準が適用されない旨主張するものと解される。

しかし、前記改正は、外貌の醜状障害について、男女間の格差を解消する趣旨で、男女を問わず同一の等級とするものと解されるのであり、本件訴訟においては、前記の適用基準日に拘束されることなく、新基準に沿って判断するのが相当である。

ところで、新基準の12級14号の「外貌に醜状を残すもの」とは、「顔面部にあっては、10円銅貨大以上の瘢痕又は長さ3ab以上の線状痕」であって、「他人をして醜いと思わせる程度、即ち人目につく程度以上のものでなければならない」ものであり、それは、「瘢痕、線状痕及び組織陥没であって眉毛、頭髪等に隠れる部分については醜状と取り扱わない」ものとされているところ、原告Aに残存した瘢痕等は、前記(3)の認定事実のとおりであり、いずれも、前記基準を満たしておらず、新基準によっても「外貌に醜状を残すもの」に当たるものとは認め難い。
 従って、この点に関する原告らの主張は採用できない。

 もっとも、原告一郎には、前記(1)認定の線状痕、瘢痕が、残存していることは明らかであり、その部位、大きさ、個数、色彩、年齢等を考慮すれば、後記のとおり、後遺症慰謝料を認めるのが相当である。

(中略)

(6)後遺症慰謝料 110万円
 前記認定のとおり、原告Aに残存した線状痕、瘢痕が、後遺障害等級12級に該当するものとは解されないが、これらが残存していることは動かし難い事実であって、原告一郎が、これらについて精神的苦痛を受けたことは明らかである。これに対する慰謝料としては、前記認定説示にかかる諸事情を総合考慮すれば、前記金額が相当である。