○交差点における横断自転車と乗用車の衝突の過失割合は、信号待ちしていたAの対向車両運転者の証言により、Aの赤信号横断と認定し、一方の乗用車には「樹木が植えられており」Aが横断してきた「右方の見通しは困難であったにもかかわらず」速度超過で「交差点を通過しようとした著しい過失がある」ので、「Aに50%、被告に50%の過失がある」と認定した平成14年11月1日名古屋地裁判決(
自動車保険ジャーナル・第1480号)を紹介します。
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第三 争点に対する判断
1 争点(1)(事故態様)について
(1) (証拠略)によれば以下の事実が認められる。
ア 本件交差点は、南北に通じる、南行車線が片側2車線、北行車線が右折車専用線が設置された片側3車線で、片側の幅員が約7mの道路(県道、以下「南北道路」という。)と、東西に通じ、東行車線が一方通行出口車線で、幅員が約5.9m、西行車線が幅員が約2.8mの道路(市道、以下「東西道路」という。)が交差する、信号機による交通整理が行われている交差点である。南北道路は、速度50kmに規制されている。本件交差点の北側の南北道路には、幅約0.25mから約0.3mのブロックの上部に本件横断歩道北側から約18.5mの位置までは高さ約0.5mから0.7mの植木が、さらに同所からは高さ2.0mから2.5mの樹木が植えられている。そのために、南北道路の南行車線から右方の見通しは困難である。
イ 被告は、被告車を運転して、南北道路の南行車線の第2車線を北から南に向けて進行してきたが、本件横断歩道の約70m手前で、本件交差点の対面信号が青であることを確認し、時速60kmから70kmで走行を続け、本件横断歩道の約30m手前に至ったとき本件横断歩道の中央より西寄りに本件自転車に乗って西から東に向けて横断してくるAを発見した。被告は、危険を感じて急制動措置をとったが間に合わず、被告車の左前部が本件自転車の右側面に衝突し、Aは、被告車のボンネットに乗り上げフロントガラスに衝突して本件交差点内に投げ出された。
ウ Bは、本件事故直前に、東西道路西行車線の第1車線を東から西に走行していたが、本件交差点の手前約40m付近で黄から赤に変わるのを確認したことから、徐々に減速し、手前約25m付近からブレーキを掛けて本件交差点手前の停止線で停止した。Bの前に停止した車両はいなかった。Bは、停止後対面信号が赤を示していることを確認し、その数秒後、本件自転車が、本件交差点の右前(北西)角付近から、本件横断歩道の南側付近を東に向けて走行していくのを見かけたことから、不思議に思い、対面信号及び本件横断歩道の信号を確認したところ赤を示していた。Bは、その直後、南北道路の本件交差点の北側から自動車の急ブレーキの音を聞いた後に、本件横断歩道の南側付近で被告車と本件自転車が衝突し、Aが被告車のボンネットにはね上げられ、本件交差点内に倒れるのを目撃した旨の供述をする(証拠略)。
エ
(ア) これに対し、原告は、本件交差点の信号サイクルからすれば、本件横断歩道の信号と南北道路の対面信号がともに赤である時間が10秒間あることから、本件横断歩道の信号が赤であったとしても、南北道路の対面信号も赤であった可能性がある旨の主張をするが、上記のとおり、Bは、本件交差点の手前約40m付近で黄から赤に変わるのを確認して徐々に減速し、手前約25m付近からブレーキを掛けて本件交差点手前の停止線で停止し、その数秒後に、本件自転車が本件交差点の右前(北西)角付近から、本件横断歩道の南側付近を東に向けて走行していくのを見かけたと供述し、Bの供述の真偽についてこれを疑わせるような事情が認めらないことからすれば、本件事故当時、南北道路の対面信号がともに赤であったと判断するのは困難である。
(イ) さらに、原告X1は、Aが生前青信号で渡ったと述べていたと供述するが、これは、X1がAに対し、「青信号で渡ったのか。」と質問したことに対し答えたものであり、その他の事故状況について明らかでないこと及びAの病状に照らせば、上記の事実をもって前記認定を覆すに足りないと言わざるを得ない。
(ウ) これによれば、Aは、何らかの事情により、本件横断歩道の信号が赤であるにもかかわらず、本件横断歩道付近を横断したと認めざるを得ない。
(2)
ア そうすると、Aには、本件横断歩道付近を赤信号で横断した過失があり、本件事故については、Aに70%の過失があると認められる。
イ しかし、一方、南北道路は、速度50kmに規制され、さらに、本件交差点の北側の南北道路には、横断歩道北側から約18.5mの位置までは高さ約0.5mから0.7mの植木が、さらに同所からは高さ2.0mから2.5mの樹木が植えられており、そのために、南北道路の南行車線から右方の見通しは困難であったにもかかわらず、被告は、時速60kmから70kmで本件交差点を通過しようとした著しい過失があることから、20%減算するのが相当であり、結局、本件事故に ついては、Aに50%の、被告に50%の過失があるとするのが相当である。