○横断歩道を自転車が赤信号無視で横断する過失があった場合の過失割合に関する赤信号横断自転車に有利な判例を探していますが、今回は、約1.4mの至近距離に迫るまで気が付かなかった加害普通貨物車と赤に変わって加害車の対向車に激しくクラクションを鳴らされながら横断を続行した被害自転車の過失割合は5割と認定した平成15年3月20日大阪地裁判決(
自動車保険ジャーナル・第1512号)の過失割合部分についての判断を紹介します。
********************************************************
1 争点(1)について
(1) 証拠(略)によれば、以下の事実が認められる。
ア 本件事故現場の概況は、別紙「交通事故現場の概況(三)現場見取図」(以下、「別紙図面」という。)記載のとおりである。本件交差点は、市街地内の信号機による交通整理が行われた十字路交差点であり、交差点出入り口には自転車横断帯及び横断歩道が併設されている。東西道路は、アスファルト舗装された平坦な直線道路で、最高速度が時速50kmに規制されており、交通量は多く(3分間に約95台)、左右交差道路の見通しは不良であるが、前方の見通しは良い。本件事故当時の天候は曇りで、路面は湿潤しており、現場は明るかった。
イ 本件交差点の信号周期は1周期が148秒であり、東西道路の車両用信号機が青96秒、黄3秒、赤・右折青矢印8秒、赤41秒と変化するのに対応して、南北道路の歩行者用信号機は赤110秒、青30秒、青点滅4秒、赤4秒と変化する。
ウ 被告Y1は、被告車両を運転し、東西道路東行き第1車線(進行方向左側から数えて1番目の車線)を東進して本件交差点に差し掛かり、西詰停止線手前の別紙図面記載@地点に先頭車両として信号待ちのため停止した。被告Y1は、本件交差点を直進しようと被告車両を発進させた直後、対向車線方面から大きなクラクション音が聞こえてきたことから何事かと思い、同A地点付近で音の聞こえてくる方向を見たところ、同A地点付近にクラクションを長く鳴らし続けながら走行する乗用車(以下「訴外車両」という。)を認め、同車両が急加速して走り去るのを自車とすれ違う辺りまで目で追った後、視線を前方に戻したところ、同B地点で同ア地点を右方から左方に走行する原告自転車を発見し、直ちに急制動の措置を講じようとしたものの間に合わず、同C地点で同自転車(同イ)の左側面に自車前部右寄り部分を衝突させた。
被告車両が同D地点に停車したところ、亡Aは同ウ地点に、原告自転車は同エ地点に転倒していた。
エ 亡Aは、原告自転車を運転し南北道路の本件交差点東側を北進してきて本件交差点にさしかかり、対面歩行者用信号機が赤色を表示し、かつ、東西道路車両用信号機が青色を表示していたにもかかわらず、同交差点東詰に設置された自転車横断帯上をゆっくりとした速度で南方から北方に横断し始めたところ、訴外車両から大きな音でクラクションを鳴らされたが、そのまま同車両の前方を横切って横断し続けて、前記のとおり被告車両に衝突された。
(2) 以上のとおり認定した事実によれば、被告Y1は、本件交差点手前で信号待ちのため停止した後、被告車両を発進させるに当たり、同交差点東詰には横断歩道及び自転車通行帯が設けられており、かつ、対面信号機が青色に変わって間がなかったのであるから、同所を横断する歩行者や自転車の有無に十分注意して進行すべきであったにもかかわらず、大きなクラクション音を鳴らし急発進して走り去る訴外車両の方を目で追いながら、前方注視を欠いたまま発進したため、何ら前方の見通しを妨げるものがなかったにもかかわらず、自転車横断帯上をゆっくりとした速度で右方から左方に横断中の原告自転車に約1.4mの至近距離に迫るまで気が付かなかったものであることが認められるから、その前方不注視の過失の程度は重大であるといわざるを得ない。
したがって、被告Y1は、民法709条に基づき、被告会社は自賠法3条に基づき、原告らに対し損害賠償義務を負う。
(3) 他方、亡Aが、前記のとおり、対面歩行者用信号機が赤色を表示し、かつ、東西道路車両用信号機が青色を表示していたにもかかわらず、本件交差点の横断を開始したことは、本件事故の状況を目撃したB(証拠略)、C(証拠略)、D(証拠略)、E(証拠略)らの捜査官に対する供述ないし説明内容に照らし明らかに認められるところであって、かかる亡Aの信号無視の過失もまた重大であるといわざるを得ない。
なお、原告らは、被告Y1が信号の変わる前に被告車両を見込み発進させた可能性について縷々主張するけれども、その計算の前提となる被告車両及び原告自転車の速度や、東西車両用信号機が青に変わるのと訴外車両がクラクションを鳴らすのとの時間的関係等については、必ずしも明らかであるとはいえず、その数値次第で計算結果に相当な誤差が生じうること、前記のとおり本件事故には多数の目撃者がいるけれども、被告車両が見込み発進したとの目撃供述は一切なく、被告Y1自身も、捜査段階から一貫して青信号に変わったのを確認してから被告車両を発進させたと供述していること、被告車両のスリップ痕や停止距離からして同車両がさほど速い速度で走行していたとは認められないから、仮に、被告車両が信号が青に変わるより僅かに早く発進していたとしても、そのことが直ちに亡Aの予見可能性や結果回避可能性に影響を及ぼすものであったとは考えにくいことなどに鑑みると、原告らの上記主張は理由がないというべきである。
(4) 以上のとおり検討したところから判断すれば、本件事故における亡Aの過失割合は5割と解するのが相当であるから、後記のとおり亡A及び原告らの損害につき5割の過失相殺をする。