○「
赤信号自転車過失割合に関する平成19年3月29日横浜地裁判断紹介1」の続きです。
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(2)ア 以上に対し、原告らは、被告乙山の供述につき、
(ア)a別紙記載A地点か別紙記載B地点に至るまでルームミラーで後方を見続けたというのは、当時の被告車両の速度が時速約65km、前記両地点間の距離が約37.0mであったことを前提とすると、約2秒間もルームミラーで後方を見続けていたことになるが、前記両地点間において本件道路は右にカーブしていること、当時の被告車両の速度に照らすと、そのような行為は危険かつ困難である、
b被告乙山自身、前記速度のまま右カーブに入るのは危険と判断して手前で減速しており、しかも、別紙記載A地点に至る前、既に後続車が東京都内のタクシーであることを確認していたのだから、あえて、前記地点から後続車を見る必要はなかった、
c後続のタクシーの運転者は、青色信号に従い走行しており、また、原告花子の自転車を認識できなかった可能性が高いことから、被告車両の急停車を想定できずに同車後部に自車を追突させても不自然とはいえないところ、被告車両後部に追突された形跡はない、
d追突しなかったとしても、後続のタクシーにとっては追突の危険が大きい状況であったといえ、さらに、本件道路わきには負傷した原告花子が意識を失って横たわっていたというのに、後続車から誰1人降車してこなかったというのは通常では考え難い、
e被告会社、捜査機関及び原告ら代理人において、被告乙山の説明に基づき後続のタクシーの所在を調査したにもかかわらず、該当するタクシーは判明しなかったことから、被告乙山の述べる後続のタクシーは実在しなかった、
(イ)被告乙山は、捜査機関の取調べ及び本人尋問においては、原告花子の自転車を約27m手前の地点で発見して急制動したが間に合わなかったと述べているが、被告会社に対しては、危険認知したときの距離は8mから10m(証拠略)、事故回避措置を取る時間的余裕がなく急ブレーキを踏む間もなかった(証拠略)などと異なる内容の説明をした、
(ウ)被告乙山は、本件事故後、被告会社の従業員と共に入院中の原告花子を見舞った際、原告太郎に対し、被告車両が本件道路の指定速度を超過して走行した事実はなかった旨虚偽の説明をした、ことから、本件事故直前に対面信号機の青色表示を確認した旨の被告乙山の供述は信用できないと主張する。
だが、被告乙山は、本件事故直後から一貫して、本件事故直前に対面信号機の青色表示を確認した旨供述しており、その内容に不自然、不合理な点はみられず、信用できるものといえる。原告らの前記主張について検討するに、
(ア)a被告乙山は、本人尋問において、2秒間ずっとルームミラーを見続けたことはない旨明言している。
b確かに、被告乙山自身、本人尋問において述べるとおり、当時後続車を見る必要性は認められないが、だからといって、ごく短時間、後方に視線を移したこと自体が不自然とまではいえない。また、
c被告車両が後続車に追突された形跡はないが、本件事故当時の状況からして、追突事故が不可避であったとまでは必ずしもいいきれない。
d本件事故直後の状況に照らすと、後続車両の運転者や同乗者が降車して状況確認や原告花子の救護等に当たることも十分考えられるところであるが、そのような事実がなかったとしても不自然とまではいい難い。
e後続のタクシーに関する被告乙山の説明内容は、同車両を一義的に特定するものではないから、捜査機関、被告会社及び原告ら代理人の調査にもかかわらず該当車両が判明しなかったことをもって、後続のタクシーの存在自体を否定することはできない。
(イ)被告乙山は、捜査機関の取調べや本人尋問においては、本件事故発生直後の平成15年4月17日午前3時45分から同日午前5時25分にかけて本件事故現場で行われた実況見分の結果(証拠略)を吟味、検討した上で、本件事故状況を説明し、他方、被告会社への報告は、専ら自身の主観に基づきなされたものとみることができるから、前記説明と前記報告の内容に相違がみられることは、直ちに被告乙山の供述の信用性を否定するものではない。
(ウ)原告太郎は本人尋問において、被告車両が制限速度内で走行していた旨述べたのは被告会社従業員であり、同席した被告乙山も特に否定しなかった旨供述するが、その説明がなされた当時の会話の具体的状況は明らかではなく、前記供述をもって被告乙山が殊更虚偽の事実を述べたとまでは認められない。
以上に照らすと、原告らの指摘する点は、対面信号機の青色表示を確認したという被告乙山の供述の信用性を揺るがせるものではない。
イ また、原告らは、被告会社における被告乙山の勤務状況は過酷なものであり、被告乙山は、本件事故当時、勤務を終えた安心感から緊張が緩み、ぼんやりしていたり、居眠り運転をしていたりしたために、対面信号機の赤色表示を見落とした可能性が高い旨主張する。
しかしながら、被告乙山の勤務状況は、職業運転手として過酷なものとまではいえず、被告乙山において、対面信号機の赤色表示を見落とした可能性が高いと認めるに足りる証拠はない。
ウ さらに、原告らは、(ア)原告花子は日ごろからきまじめな性質で、交通法規を厳格に遵守し、これまで赤信号を無視したことはない、(イ)原告花子が通行していた横断歩道又は自転車横断帯は、被告車両が走行してきた方向を良く見通すことができ、原告花子において、被告車両に気付かないはずがない、(ウ)原告花子は、横断歩道又は自転車横断帯を見せずゆっくり通行し、被告車両に気付いたと思われるときも慌てた様子を見せなかったことは、原告花子が青信号に従い通行していたことを裏付けるものである旨主張する。
確かに、本件事故当時、原告花子は横断歩道又は自転車横断帯を自転車としては遅いと思われる速度で通行しており、また、同所から被告車両が走行してきた方向の見通しは良く、さらに、証拠(略)によれば、原告花子は、日常生活において、自ら信号表示に忠実に従うのみならず同行者にも遵守を求め、その習慣は重度の後遺障害を抱えた事故後も変わらなかったことが認められるが、これらの事実をもってしても、前記認定事実は揺るがない。
(3) 前記認定事実によれば、本件事故は、交差点以外の場所において横断し た自転車と四輪車とが衝突したというものであるところ、被告乙山は、制限速度を約25kmも超える時速約65kmの速度で被告車両を走行させ、かつ、ルームミラーで後方を見て前方の注視を怠ったことにより、自転車横断帯又はこれに近接して設けられた横断歩道上を自転車に乗り通行していた原告花子の発見が遅れ、本件事故を生じさせたものであり、その過失は相当に大きいといわざるを得ない。
他方、前記認定事実によれば、原告花子においても、赤信号を無視して横断したことが認められ、重過失があったといえる。なお、被告らは、原告花子が携帯電話で通話しながら横断歩道又は自転車横断帯を通行していたと推認される旨主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。
以上に加え、本件事故当時が夜間であったことにも照らし、原告花子の過失割合は25%と認めるのが相当である。