○横断歩道を自転車が赤信号無視で横断する過失があった場合の過失割合に関する赤信号横断自転車に有利な判例を探しています。深夜、横断自転車とタクシーの衝突の過失割合は、被告が40km制限を「約25kmも超える約65kmで走行させ、かつ、ルームミラーで後方を見て前方の注視を怠った」結果、右からの横断の原告自転車の発見遅れによる衝突の「過失は相当に大きい」が、一方の原告は「赤信号を無視して横断したことが認められ、重過失があった」ことから、原告の「過失割合は25%と認める」とした平成19年3月29日横浜地裁判決(
自動車保険ジャーナル・第1696号)の過失割合判断部分を紹介します。
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2 過失相殺(争点(2))について
(1) 前記「争いのない事実等」、証拠(略)によれば、本件事故態様につき、以下の事実が認められる。
ア 本件事故現場は、市街地に存する柴町方面と洲崎町方面とを結ぶ、同方面から見て右へ緩やかにカーブした道路(以下「本件道路」という。)上にある(別紙〔(証拠略)添付の「交通事故現場見取図」の写し〕参照。)。本件道路には横断歩道と自転車横断帯が近接して設けられ、手動用押しボタン式の歩行者用信号機が設置されている。本件道路は片側1車線から成り、洲崎町方面から柴町方面へ向かう車線の幅員は約7.5m、反対車線の幅員は約5.5mで、植え込みのある中央分離帯により区分されている。本件道路においては制限速度時速50kmの規制があり、本件事故現場から洲崎町方面へ47.2mの地点までは、制限速度時速40km規制の道路であった。路面はアスファルトで舗装されており平たんで、本件事故当時は乾燥して いた。
イ 被告会社に雇用されているタクシー運転手の勤務形態は、午前7時30分ころから適宜休憩を取りつつ翌日の午前4時ころまで乗務に当たり、これを3回続けた後に1回休むというものである。
被告乙山は、本件事故発生日前日の午前7時40分ころ、被告会社から被告車両の配車を受け、以後、適宜休憩を取りながら東京都内を中心に乗務に当たり、本件事故発生当日の午前2時ころ、東京都江東区内において客を乗せ、同人を横浜市金沢区金沢文庫付近まで送って降車させた後、帰社するため、東京都江東区内に所在する被告会社へ向かった。なお、前記乗務開始時から本件事故発生時までに被告乙山が取った時間の合計は3時間20分程度である。
ウ 被告乙山は、本件事故発生直前ころ、被告車両を運転し、本件道路を洲崎町方面から柴町方面へ走行していた。
被告乙山は、当時、道路標識を確認しておらず、正確な制限速度は認識していなかったが、時速50km程度に制限されているものと思っていた。しかし、当時は深夜で歩道上にも車道上にも歩行者や自転車は見当たらず、また、対向車線には何台かの車両が走行していたものの、被告車両の前方走行車両はなく、後続車も数台程度で、全体的に交通量が少なかったことから、時速約65kmで走行していた。
被告乙山は、本件事故現場から洲崎町方面へやや離れた場所にある帰帆橋交差点において赤信号待ちのために停止したとき、ルームミラーで後方を確認し、後続車(以下「後続のタクシー」という。)を見て、同車上部に設置されたいわゆるあんどんの形状から、同車はG組合加盟のタクシー会社の車両であると思い込んだ。
エ 被告乙山は更に走行を続け、本件事故現場の方へ近づいていった。当時は深夜であったが、本件道路の両側に設けられた歩道上の街灯の照明により、比較的明るく、前方約100mを見通すことができた。また、被告車両の前照灯も正常についていた。中央分離帯の植え込みの高さは60、70p程度で、本件道路を走行する車両の運転者にとって、前記横断歩道又は自転車横断帯を渡る歩行者や自転車の発見を妨げるものではなかった。
被告乙山は、別紙記載@地点に至ったとき、約104.3m前方にある別紙記載(信)の信号機の青色表示を確認した。
それから、被告乙山は、別紙記載A地点において、緩い右カーブに差し掛かったこ とから若干減速しつつルームミラーに視線を移し、後続のタクシーが追従しているのを見た。その後、約37.0m進んで別紙記載B地点に至ったとき、約27.3m前方の別紙記載ア地点付近において、原告花子が自転車に乗って横断歩道又は自転車横断帯上を右方から左方へ渡るのを目撃した。ほぼ同時に、前記(信)の信号機の青色表示をフロントガラス越しに見たが、前記歩行者用信号機の表示は見なかった。
被告乙山からみて、原告花子は、自転車としては遅いと感じられる速度で進行して おり、急ぐ様子は見られなかった。
被告乙山は危険を感じ、直ちに急制動したが間に合わず、別紙記載×地点において被告車両前部が原告花子の乗る自転車の左側面に衝突した。被告車両は別紙記載D地点に停止し、原告花子は別紙記載イ地点に、前記自転車は別紙記載ウ地点にそれぞれ転倒した。前記自転車は20インチのもので、競技用車両であった。
オ 被告乙山はすぐに携帯電話で警察に通報し、次いで、消防署にも通報して救急車出動を要請した。そして、降車して、原告花子が転倒している所へ行き、救急車の臨場まで、気道確保のために同原告を横向きにして抱えていた。この間、後続のタクシーは別紙記載D地点付近にいったん停止し、その後にも数台の車両が停止していたが、やがて後続のタクシーは発進し、他の後続車両も続いて走り去った。いずれ の車両からも降車した者はいなかった。
カ 被告乙山は、警察の取調べにおいて、後続のタクシーは本件事故当時被告車両の対面信号機の青色表示を見ていたはずである旨述べ、被告会社の運行管理者にも後続のタクシーのあんどんの形状や車体の色は白と紺色又は黒色であったことを伝えて数社のタクシー会社に照会してもらい、さらに、被告会社の担当者は該当車両が所属する可能性の高いと思われたイーエム自交無線共同組合に文書を出したり同組合加盟のタクシー会社を訪問するなどして調査を依頼したが、後続のタクシーの所属は判明しなかった。また、原告ら代理人は、被告乙山から聴取した内容に基づき、イーエム自交無線共同組合に弁護士照会をし、同組合に加盟するタクシー会社から回答を得たが、後続のタクシーに該当する車両の存在は確認できなかった。
キ 同年5月18日午後7時17分から同日午後7時34分にかけて実施された実況見分(証拠略)の際、被告乙山は、降雨のため本件事故当時よりも見通しが良くない状況下において、自転車に乗った上下制服姿の女性警察官が洲崎町方面から見て前記横断歩道右方の歩道に立つのを、洲崎町方面から柴町方面へ向かう車線上、洲崎町方面へ約85.6m離れた地点から、その後、前記女性警察官が前記横断歩道を渡り中央分離帯を越えた辺りの地点に立つのを、前記車線上、洲崎町方面へ約72.0m離れた地点から、それぞれ発見できた。前記女性警察官が前記歩道に立っていた地点と、本件事故において被告車両と原告花子の乗る自転車とが衝突した地点との距離は、約12.2mである。