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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

確率的心証論による昭和45年6月29日東京地裁判決全文紹介4

○「確率的心証論による昭和45年6月29日東京地裁判決全文紹介3」を続けます。
確率的心証論による昭和45年6月29日東京地裁判決全文紹介3」の「右のように、肯定の証拠と否定の証拠とが並び存するのであるが、当裁判所は、これらを総合した上で相当因果関係の存在を70パーセント肯定する。このような場合、相当因果関係があるのかないのか、そのいずれか一つで答えねばならぬものとすれば、70パーセントの肯定の心証を以て十分とし以下損害の算定に入るか70パーセントでは因果関係を肯定する心証としては不足するとして再発後以後の損害賠償請求を全然排斥するか、二途のいずれかを選ばねばならぬこととなる。

 しかし、当裁判所は、損害賠償請求の特殊性に鑑み、この場合第三の方途として再発以後の損害額に70パーセントを乗じて事故と相当因果関係ある損害の認容額とすることも許されるものと考える。けだし、不可分の一個請求権を訴訟物とする場合いと異なり、可分的な損害賠償請求を訴訟物とする本件のような事案においては、必ずしも100パーセントの背定か全然の否定かいずれかでなければ結論が許されないものではない。否、証拠上認容しうる範囲が70パーセントである場合、これを100パーセントと擬制することが不当に被害者を有利にする反面、全然棄却することも不当に加害者を利得せしめるものであり、むしろ、この場合、損害額の70パーセントを認容することこそ証拠上肯定しうる相当因果関係の判断に即応し不法行為損害賠償の理念である損害の公平な分担の精神に協い、事宜に適し、結論的に正義を実現しうる所以であると考える。
」が、この判決のハイライトであり、別コンテンツで私なりの説明をします。


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九、次に、原告主張の収入損すなわちいわゆる得べかりし利益の喪失による損害の額について考える。
(1)《証拠略》を総合すると、原告は、事故に遭った昭和40年11月27日当時既に按摩師の免許を有し、東洋鍼灸専門学校本科を卒業し、鍼と灸についての国家試験に合格していたこと、更に整復師としての技術の修得を目指して同校特設の柔道整復科に通学し、そのかたわら、夜間は富士治療院(フジクラブ)に籍を置いてホテル等へ按摩治療に出張し、また個人的にも依頼あれば施術して収入を得ていたこと、昭和42年3月には同科を卒業するので、独立開業して鍼・灸・按摩師として生計を立ててゆく計画であったが、これは、少なくとも60歳までは就労可能な職種であること、事故当時の収入は、富士治療院関係で一ヶ月平均3万3000円以上、個人的依頼客関係で一ヶ月平均5500円以上で、仕事の性質上、多少の交通費以外経費の支出を要しないこと明らかであるから、両者を合せて1ヶ月3万8000円の収益があったと考えられること、その後富士治療院では料金の値上げをし、昭和43年2月当時には、事故当時に比し、按摩料が一回につき100円ずつ高くなっているので、個人的依頼客についても同様の値上がりが推定され、これによれば、治療回数等その他の条件を事故当時と同様にみた場合、少なくとも一ヶ月4万8000円の収益があったと考えられること、前示独立開業後は、昼間(主として午後)通学していた時間も就労時間にあてうるので、収益は上廻りこそすれ下るとは考えられないこと、これらの諸事情を認定することができる。従って、事故後昭和44年8月末までは一ヶ月3万8000円、その後60歳に達するまで一ヶ月4万8000円の収益を想定して逸失利益を論じようとする原告の主張は、正当というべきである。

(2) そうすると、先に第七節(2)で示したように、後遺症等級の緩和してゆく期間と労働能力喪失の割合に関しては原告の自白があるので、右認定にかかる月収と自白にかかる緩和期間および喪失割合に即して、逸失利益を考えるべきこととなり、
(イ) 事故の日時から昭和44年8月末までの45ヶ月間は、第一級相当であり、労働能力喪失率は100%であるから、損害額は171万円
(ロ) 昭和44年9月1日から昭和46年8月31日までの2年間は、第二級相当であり、労働能力表示率はやはり100%で、年収57万6000円とし、昭和44年9月1日を基準日として、2年間の年五分の単利に基づく中間利息を控除することになるから、係数1・86147186を乗じ、107万2207円
(ハ) 昭和46年9月1日から昭和50年8月31日までの4年間は、第四級相当、喪失率は80%であり、右同様の基準日で同様に中間利息を控除することになるから、係数3・27212932を乗じ、150万7797円
(ニ) 昭和50年9月1日から昭和54年8月31日までの4年間は、第六級相当、喪失率は60%であるから、同様にして、係数2・81134830を乗じ、97万1601円
(ホ) 以上四段の数字を集計すると526万1605円となるが、先に判示したとおり、昭和42年12月24日以降の損害額についてはその70パーセントを肯認すべきものであるし、また、11月29日から12月14日の退院までのヘルニア治療期間についても全額を肯認することはできない。ヘルニア治療は直接には本件事故と相当因果関係がないこと先に判示したとおりであるが、後遺症による逸失利益を論ずる際には右期間中および退院後12月24日までの労働能力の一部喪失状態を考えれば足りる。先に認定した諸般の状況から、これを70パーセントと見るのが相当と考えられるので、結局、昭和42年11月29日以降について逸失利益損害額の7割を肯認すべきこととなる。計算の便宜上、これを12月1日以降とみると、昭和44年8月末までの45ヶ月分が24ヶ月と21ヶ月とに区分されることになるから、前記(イ)の171万円は右によって修正すると、147万0600円となり、また、(ロ)ないし(ニ)の合計額は、248万6123円となるから肯認せらるべき逸失利益額は、395万6723円となる。

10、次に慰藉料については、前認定にかかる諸般の事情、ことに、入院、通院年月、後遺症の状態と、原告本人訊問の結果認めえた原告の経歴、性格とから、原告が本件事故によって蒙った著しい精神的苦痛を慰藉すべき金額は、その主張どおり400万円を以て相当とすると考える。

11、そうすると、原告が請求しうる金額は、後記弁護士費用を除いて、1116万7920円となるが、右損害額中314万円は既に被告から原告に対し弁済のなされたことについては争いがないから、これを控除し、802万7920円となる。

12、弁護士費用としては、右認容額と本件訴訟における訴訟活動とに鑑み、請求にかかる弁護士報酬中80万円を以て体件事故と相当因果関係ある損害として被告に賠償を求めうる額と認める。

13、よって、原告の請求中、882万7920円およびこの内弁護士費用相当額を除いた802万7920円につき前記基準日である昭和44年9月1日以降支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は正当として認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民訴法第89条、第92条を、仮執行宣言については同法196条を、各適用して、主文のとおり判決する次第である。
(裁判長裁判官 倉田卓次 裁判官 小長光馨一)
 裁判官並木茂は転任のため署名捺印することができない
(裁判長裁判官 倉田卓次)