○「
驚愕の約款3号直接請求否定平成26年3月28日仙台高裁判決全文紹介1」を続けます。
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第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理由がなく、棄却すべきものと判断する。その理由は、原判決を次のとおり改めるほかは、原判決「事実及び理由」中、第3の1から4までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決17頁11行目「座位や立位では」から16行目「特徴があるとされている。」までを「座位や立位では、頭蓋内にある髄液が脊髄液腔に下降し、脳の浮力が減少するため髄液上の脳が沈み、結果、脳と硬膜との間で静脈や脳神経が引き延ばされることとなる。静脈が引き延ばされることにより、頭痛が生じ(起立性頭痛)、脳神経が引き延ばされることにより、めまい、耳鳴り、視力低下、複視、顔面の痛み、味覚・嗅覚障害等が生じると考えられている。起立性頭痛は、低髄液圧症候群の特徴的な症状の一つとされているが、これが生じない事例もあると考えられている。」と改める。
(2) 原判決17頁23行目「国際頭痛分類の第3版が公表された。」を「国際頭痛分類の第3版(ベータ版)が公表された。同ベータ版では、起立性頭痛について、「低髄液圧による頭痛は通常起立性であるが必ずしも起立性とは限らない。座位または立位になるとすぐに著明に悪化し、臥位になると改善する頭痛は低髄液圧によって起こるが、これは必ずしも診断基準として守られるものではない。」としている。」と改める。
(3) 原判決20頁25行目「脳神経外傷学会基準によれば、」の次に「外傷性の低髄液圧症候群と診断するための基準として、外傷後30日以内に発症し、外傷以外の原因が否定的であることが挙げられているところ(乙1・3丁)」と加える。
(4) 原判決23頁5行目から11行目までを次のとおり改める。
「エ これに対し、控訴人は、国際頭痛分類第3版(ベータ版)によれば、起立性頭痛は診断基準として重視されておらず、起立性頭痛がないことから控訴人に低髄液圧症候群がなかった事実を否定することはできないと主張するところ、国際頭痛分類第3版(ベータ版)が、起立性頭痛について、必ずしも診断基準として守られるものでないとしていることは前記認定(当審判決(2))のとおりである。
しかし、同基準においても、低髄液圧症候群により発生する頭痛が通常起立性であることは前提とされているところ(同(2))、控訴人が本件各事故後30日以内に起立性頭痛を訴えていた事実は認められず(原判決第3の1(3)ア)、また控訴人のMRI画像やRI脳槽シンチグラフィによっても、低髄液圧症候群について、発症の疑いを超える所見は得られていないことは既に説示のとおりであるから(原判決第3の1(3)ウ)、これらを総合すると、上記ベータ版の知見を前提としても、控訴人について、本件各事故により低髄液圧症候群が発生した高度の蓋然性を認めるには足りないというほかない。」
(5) 原判決24頁15行目。「そこで、」から25頁4行目末尾までを削る。
(6) 原判決25頁5行目から40頁14行目までを次のとおり改める。
「4 自賠法16条に基づく被害者請求について
前記認定のとおり、控訴人は本件各事故の競合により、後遺障害等級第14級相当の障害を負ったものである。そして、この残存障害の程度に照らすと、控訴人は自賠法16条に基づく被害者請求として、被控訴人三井住友及び同共栄各自に対し75万円を支払うよう求めることができる(不真正連帯債権)というべきところ、上記両社が控訴人に自賠法の損害賠償額としてそれぞれ75万円を支払済みであることは前記前提事実のとおりである。
したがって、控訴人の被控訴人三井住友及び同共栄に対する自賠法16条に基づく被害者請求は理由がない。
5 争点6(任意保険の直接請求権に関する他の条件充足の有無)について
(1) 控訴人は、本件約款6条2項3号に基づき、被控訴人三井住友及び同日新に対し、直接、損害賠償額の支払をするよう求めているところ、被控訴人三井住友及び同日新は上記請求権の存在を争う。そして、同請求権が認められないのであれば、控訴人の上記各請求は任意保険の直接請求権の行使期間の経過(争点5)を検討するまでもなく理由がないごとに帰するから、まず、本件事実関係のもと、控訴人が本件約款6条2項3号に基づき損害賠償額の支払を求めることができるかについて検討する。
(2) 前記前提事実、証拠(乙12、17)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア A車に付された任意保険及びB車に付された任意保険にはいずれも本件約款の適用がある。本件約款6条は損害賠償請求権者の直接請求権につき、次のとおり定める。
「@ 対人事故によって被保険者の負担する法律上の損害賠償責任が発生した場合は、損害賠償請求権者は、当会社が被保険者に対して支払責任を負う限度において、当会社に対して第3項に定める損害賠償額の支払を請求することができます。
A 当会社は、次の各号のいずれかに該当する場合に、損害賠償請求権者に対して次項に定める損害賠償額を支払います。ただし、当会社がこの賠償責任条項および一般条項に従い被保険者に対して支払うべき保険金の額(中略)を限度とします。
(1) 被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で、判決が確定した場合または裁判上の和解もしくは調停が成立した場合
(2) 被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で、書面による合意が成立した場合
(3) 損害賠償請求権者が被保険者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被保険者に対して書面で承諾した場合
(4) 次項に定める損害賠償額が保険証券記載の保険金額(中略)を超えることが明らかになった場合
(5) 法律上の損害賠償責任を負担すべきすべての被保険者について、次のいずれかに該当する事由があった場合
(イ) 被保険者またはその法定相続人の破産または生死不明
(ロ) 被保険者が死亡し、かつ、その法定相続人がいないこと。
B 前条およびこの条の損害賠償額とは、次の(1)の額から(2)および(3)の合計額を差し引いた額をいいます。
(1) 被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額
(2) 自賠責保険等によって支払われる金額
(3) 被保険者が損害賠償請求権者に対してすでに支払った損害賠償金の額
C (省略)
D 第2項の規定に基づき当会社が損害賠償請求権者に対して損害賠償額の支払を行った場合は、その金額の限度において当会社が被保険者に、その被保険者の被る損害に対して、保険金を支払ったものとみなします。」
イ 本件約款6条による被害者請求権は、保険会社による示談交渉が非弁行為(弁護士法72条)でないことについて根拠を与えるべく、被害者と保険会社との関係において当事者性を持たせるとともに、被害者保護を促進することを目的として設けられたものである。
ウ 本件約款6条2項は、保険者による損害賠償額の支払条件を定めた規定である。
本件約款6条2項3号の直接請求に関する各保険会社の実務上の運用は以下のとおりである。
各保険会社は、本件約款6条2項3号所定の承諾書面を、被保険者の損害賠償責任の額を明記してこれが支払われた場合には被保険者に対するその余の請求を放棄する旨の被保険者に対する免責証書として扱っており、これが提出された場合に、同書面は各保険会社を通じて被保険者に送付される。
各保険会社は、上記免責証書が提出された場合は、上記免責証書記載の金額(保険金の額を上限とする。)を損害賠償請求権者に直接支払う。
エ 控訴人と訴外A及び同Bとの間で損害賠償責任の額は確定しておらず、控訴人と被控訴人三井住友及び同日新との間でも、同損害額につき争いがある。控訴人は、本件訴訟の請求の趣旨において訴外A及び同Bに対する損害賠償請求権を行使しないことを書面で承諾する意向を明らかにしている。