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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

任意保険会社への直接請求

驚愕の約款3号直接請求否定平成26年3月28日仙台高裁判決全文紹介3

○「驚愕の約款3号直接請求否定平成26年3月28日仙台高裁判決全文紹介2」を続けます。
本件約款6条2項3号は、保険会社が被害者からの請求に任意に応じる場合は別として、被害者が加害者に対する損害賠償額の確定等のための手続を取らないまま、加害者に対する損害賠償請求権を行使しないことを一方的かつ抽象的に宣言することによって、直ちに、保険者に損害賠償額の支払を求める法的手続を取ることを許容するものとはいいがたい。」と私にとって、衝撃・驚愕の結論が出されました。


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(3) 控訴人は、本件約款6条2項3号に基づき、被控訴人三井住友及び同日新に対する直接請求権を行使するのに対し、被控訴人三井住友及び同日新は、同号は、被保険者が負う損害賠償責任の額について被害者が同意し、同額につき争いがない状態となった上で、同号所定の書面を提出することを支払条件とするところ、控訴人は一方的かつ抽象的に訴外人らに対する請求権を行使しないことを宣言するというのみであるから、同項に定める支払条件は成就していないと主張する。

 そこで検討すると、本件約款6条2項3号は、「損害賠償請求権者が被保険者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被保険者に対して書面で承諾した場合」を損害賠償額の支払条件としているところ(前記(2)ア)、同号は、同項1号及び2号とは異なり、被保険者と損害賠償請求権者との間で、被保険者が負担する法律上の損害賠償責任の額について、「判決が確定した場合または裁判上の和解もしくは調停」や、「書面による合意」が成立したことを文言上条件として明示していないのであるから、当該条項の文言のみをみると、同号が、前記(2)ウのような保険会社による運用とは異なり、被保険者が負う損害賠償責任の額について争いのない状態となっていることを支払条件とするものではないと解する余地もある。

 しかし、そもそも、自動車対人賠償責任保険は、契約によって定められた事故の発生により、被保険者が第三者に対する損害賠償責任を負担したことにより被る損失をてん補する責任保険の一種であるから、その性質上、保険会社による保険金の給付は、これに先だって、加害者(被保険者)が負担する損害賠償の額が確定していることが論理上前提となるものであるところ(本件約款第5章の20条も同様の前提に基づくものであると理解できる。)、本件約款6条の直接請求を受けて保険会社がなす給付も、被害者の損害の速やかな回復と同時に加害者(被保険者)の被る損失のてん補を目的とするものであり(本件約款6条5項参照)、その給付内容が被害者の加害者(被保険者)に対する損害賠償額を基準とする点においては保険金の給付と変わるところはないのであるから、上記給付に先立ち、損害賠償額が確定しているか、又は、少なくとも保険会社において損害賠償額が事実上確定したと認めてこれを争わない状態にあることを前提としているものと解するのが相当であり、この点は本件約款6条2項3号に基づく直接請求の場合も異なるものではない(本件約款6条2項が同項各号に該当する場合に損害賠償請求権者に対して支払われるべき金額を同条3項に定める損害賠償額とし、同条3項が上記損害賠償額を被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額を基準として計算すると定めていることも上記の理解を前提としているものと解される。)。

 以上の点と上記(2)ウの運用からみて、本件約款6条2項3号は、保険会社において損害賠償額が事実上確定したと認めてこれを争わない状態があることを前提として被害者救済のために損害賠償請求権者からの直接請求に応じることを定めたものと解すべきである。

 また、本件約款6条1項は、被害者に保険者に対する直接請求権を認めているが、任意保険における直接請求権は、保険会社が行う示談代行につき非弁行為との疑念を払拭するために、保険会社に当事者性を与え、ひいては被害者保護の充実を図ることをも目的として創設されたという経緯を持つもので(前記(2)イ)、任意保険会社に自賠法16条と同様の法的地位を与えることを直接の目的とするものではないのであるし、実際に、被害者に直接請求権を認めた約款の規定上も、自賠法16条の規定ぶりとは異なり、同法にはない支払条件に関する規定等をおき、その支払条件を厳格に定めているのであるから、その制度の沿革や規定ぶりからみても、これが自賠法16条による被害者請求権と異なる枠組みでの運用を予定していることは明らかといえる。

 以上によれば、本件約款6条2項3号は、保険会社が被害者からの請求に任意に応じる場合は別として、被害者が加害者に対する損害賠償額の確定等のための手続を取らないまま、加害者に対する損害賠償請求権を行使しないことを一方的かつ抽象的に宣言することによって、直ちに、保険者に損害賠償額の支払を求める法的手続を取ることを許容するものとはいいがたい。