本文へスキップ

小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

人身傷害補償担保特約

人傷保険に関する平成24年5月29日最高裁判決紹介

○「人身傷害補償担保特約最高裁判決紹介-事実関係」で紹介した平成24年2月20日最高裁判決(判時2145号103頁)に次いで、被害者に過失ある場合に人身傷害補償条項に基づき保険金を支払った保険会社の損害賠償請求権の代位取得の範囲についての重要最高裁判例が出ましたので紹介します。平成24年5月29日最高裁判決(判時2155号109頁)です。

○先ず第1審平成22年2月19日岡山地裁倉敷支部判決から紹介します。金額は切りの良い数字にしています。
事案
・被害者Aが平成18年5月発生加害者Bによる交通事故で死去
・Aがかけていた保険会社Cは、人身傷害補償条項に基づきAの遺族に平成19年9月3000万円、同年11月2000万円の合計5000万円(人傷基準損害額)を支払い
・Cは、Aの過失割合を20%として、加害者Bに対し、5000万円の80%相当額から自賠責保険金3000万円を差し引いた1000万円の支払を請求して提訴
・Bは、Aの訴訟基準損害額は6000万円のところ、Bの過失割合は30%なのでその損害賠償責任額は1800万円であり、これはCが回収した3000万円の自賠責保険金で充当されているのでCには代位する損害賠償請求権は残っていないと主張して支払拒否
・1審判決は、人傷基準差額説の立場に立つも、Aの過失割合は50%であり、人傷基準損害額5000万円の50%相当額2500万円について代位出来るも既に自賠責保険金3000万円を回収しており代位による求償できる金額はないと判示


○これに対し、2審の平成22年7月16日広島高裁岡山支部判決は、1審同様人傷基準差額説を採用するも、被害者Aの過失を35%、加害者Bの過失65%と認定し、人傷基準損害額5000万円の65%相当額3250万円について保険代位による求償が出来るので自賠責保険金回収額3000万円を控除した250万円をBに請求出来るとしました(人傷基準損害額比例配分説か)。

○これに対しCは、あくまで訴訟基準差額説が正当であり、人傷基準差額説を採用した2審判決は誤りであるとして上告しました。
 これに対する平成24年5月29日最高裁判決は、次のような理由で、2審高裁判決を破棄して、広島高裁に差し戻しました。
 本件約款中の人身傷害補償条項の被保険者である被害者に交通事故の発生等につき過失がある場合において,上記条項に基づき被保険者が被った損害に対して保険金を支払った被上告人は,本件代位条項にいう「保険金請求権者の権利を害さない範囲」の額として,被害者について民法上認められるべき過失相殺前の損害額(以下「裁判基準損害額」という。)に相当する額が保険金請求権者に確保されるように,上記支払った保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回るときに限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である(最高裁平成21年(受)第1461号・第1462号同24年2月20日第一小法廷判決・民集66巻2号登載予定参照)。
 そして,裁判基準損害額は,人傷基準損害額よりも多額であるのが通例であり,その場合は,被上告人が代位取得する上記損害賠償請求権の範囲は,原審の上記の認容額よりも少額となるから,原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そこで,以上の見地に立って更に審理を尽くさせるため,上記部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。


○訴訟基準差額説の立場では、本件は被害者A相続人は、加害者Bに裁判基準損害額6000万円の65%相当額金3900万円しか請求出来ませんので、裁判基準損害額6000万円との差額金2100万円をC保険に請求出来ます。と言うことはC保険はこの2100万円を超える支払部分しか代位による求償権を取得出来ません。Cは実質2000万円しか支払っていませんので、代位による求償部分はありません。本件最高裁判決は、裁判基準損害額の審理が不十分と判断し、更に審理を尽くすように2審に差し戻したものと思われます。