○「
脳脊髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準紹介1・
2・
3」で、脳脊髄液減少症の診断・治療の確立に関する研究班作成「
脳脊髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準(PDFリーダーが必要です)」(以下、11.10.14基準と言います)をテキスト形式で紹介しております。
平成24年6月現在受任中の交通事故による傷害が原因で脳脊髄液漏出症(脳脊髄液減少症)を発症したとして損害賠償請求をしている交通事故事案で、この11.10.14基準での医師見解が出されるようになりました。
○11.10.14基準は、<
脊髄液漏出症の画像判定基準と解釈>と<
低髄液圧症の画像判定基準と解釈>に大別されていますが、最近、後者の脳MRIでのびまん性の硬膜造影所見(diffuse dural enhancement)での
【判定基準】
硬膜に両側対称性にびまん性かつ連続性に造影効果と硬膜の肥厚を認める。
@冠状断像で天幕および小脳テントが連続的に造影されること。
A少なくとも連続する3cm以上の範囲で造影効果が確認できること。
B造影程度は少なくても大脳皮質よりも高信号を示すこと。
に合致するとの医師見解を得た事案がありますが、この判定基準で、脊髄液漏出症と診断できる根拠を裁判官に説明する方法が不明で苦慮していました。
○私は、医師等専門家の専門用語による記述については、それを専門家でない裁判官に判って貰うには、担当弁護士がその専門用語記述について専門家でなくても判るような説明を加える必要があると考えており、いわば専門用語を通訳した説明書を合わせて証拠として提出するようにしています。「
桐でPDFファイルを作るのは簡単−何でもPDF化2」で紹介した「桐de!同時プリント」でシャーカステンに据えてデジカメ写真で取り込んだMRI写真等の写真撮影報告書もその一環です。
○上記【判定基準】では、「びまん性」は、「病変がはっきりと限定することができずに広範囲に広がっている状態を指す。」、「硬膜の肥厚」は読んで字の如くで、意味は判るのですが、「連続的に造影」の意味が不明で、文献やネットで調べるも納得できる説明がなく、さて、裁判官にどのように説明しようかと悩んでいました。「造影効果」とはなんぞや、「造影効果」がどのような機序で低髄液症に繋がるのかがサッパリ判らず、その説明に悩んでいました。
○「造影効果」で
Google検索をかけると最初に「
造影CTにおける基礎知識」なるページが出て来て、最後のまとめに「
TDCは,造影効果を考える場合の基本となるものである.さまざまな条件によるTDCを理解しておくと,実際の臨床においても,その造影効果を想像することが可能になる.」なんて記載されていますが、肝腎の「造影効果」の意味が判りません(^^;)。
○今般、最近、脊髄液減少症患者を担当することになり、これについて研究を始めたというある若い研修医に出会い、質問したところ、
造影剤を使った頭部MRI検査では、造影剤で造影されるのは組織自体ではなく、組織に分布する血管であり、「連続して硬膜造影」の記述は、「硬膜(大脳鎌、小脳テント等を含む)の正常より強く造影される部分が、間に造影されない部分を含むことなく広がっている」と解釈するのが妥当で、この所見の意味するところは、一般に頭蓋内では「脳実質の体積+脳脊髄液の体積+血液の体積=一定」というMonro-Kellie(モンロー・ケリー)の法則があり、脳脊髄液減少症では頭蓋内の脳脊髄液が減少するために、この法則に従いそれを代償すべく硬膜が肥厚したり、硬膜の下に水のたまり(水腫)や血のたまり(血腫)ができたり、血管が拡張したりするので、この硬膜造影の所見は、間接的に頭蓋内脳脊髄液の減少を示唆しているといえる
との回答を頂き、ようやく、造影効果の意味がおぼろげながら判ってきました。
○この説明を聞いて、篠永正道氏著作「
あなたの『むち打ち症』は治ります!」を読み直したところ、51頁脳MRIに「造影脳MRI検査」として、上記Monro-Kellie(モンロー・ケリー)の法則も取り上げて、判りやすく説明がなされています。以下の記述の意味もようやくおぼろげながら判りました。
血管の拡張は、脳内静脈、とくに脳大脳静脈の拡張、脳室内脈絡叢の拡大、上矢状静脈洞、横静脈洞の拡張としてみられます。硬膜肥厚(硬膜造影効果陽性B)は、とくに大脳鎌、小脳テントでよくみられ、これも硬膜内静脈の拡張とみなされています。