○交通事故の加害者は、民法第709条不法行為責任の外に、自動車損害賠償保障法第3条の自動車損害賠償責任を負いますが、同法では、
第5条(責任保険又は責任共済の契約の締結強制)
自動車は、これについてこの法律で定める自動車損害賠償責任保険(以下「責任保険」という。)又は自動車損害賠償責任共済(以下「責任共済」という。)の契約が締結されているものでなければ、運行の用に供してはならない。
第6条(保険者及び共済責任を負う者)
責任保険の保険者(以下「保険会社」という。)は、保険業法(平成7年法律第105号)第2条第4項に規定する損害保険会社又は同条第9項に規定する外国損害保険会社等で、責任保険の引受けを行う者とする。
2 責任共済の共済責任を負う者は、次の各号に掲げる協同組合(以下「組合」という。)とする。
と規定して、自動車損害賠償責任について、いわゆる自賠責保険会社に責任保険を引き受けさせて
第13条(保険金額)
責任保険の保険金額は、政令で定める。
第16条(保険会社に対する損害賠償額の請求)
第3条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる。
第16条の3(支払基準)
保険会社は、保険金等を支払うときは、死亡、後遺障害及び傷害の別に国土交通大臣及び内閣総理大臣が定める支払基準(以下「支払基準」という。)に従つてこれを支払わなければならない。
との規定によっていわゆる自賠責保険金が交通事故被害者に支払われます。
○この自賠責保険金は、自賠責保険会社が決めた金額は動かせない如く誤解されている面もありますが、「
自賠責保険査定金額は絶対ではない−覆されない」記載の通り、平成18年3月30日最高裁判決は「
訴訟外での支払は公平且つ迅速な保険金支払の確保という見地から保険会社に支払基準に従って支払うことを義務づけることは合理性があるが、訴訟においては当事者の主張・立証に基づく個別的な事案毎の結果が尊重されるべきであり、金額が違うことが不合理であるとは言えない」最終的には裁判所が決めることを明言しています。
○自賠法13条規定の責任保険金額を定める政令は、自動車損害賠償保障法施行令で、
第2条(保険金額)
法第13条第1項の保険金額は、死亡した者又は傷害を受けた者一人につき、次のとおりとする。
1.死亡した者
イ 死亡による損害(ロに掲げる損害を除く。)につき 3,000万円
ロ 死亡に至るまでの傷害にそる損害につき 120万円
(中略)
3.傷害を受けた者(前号に掲げる者を除く。)
イ 傷害による損害(ロからヘまでに掲げる損害を除く。)につき 120万円
ロ 別表第2に定める第5級以上の等級に該当する後遺障害が2以上存する場合における当該後遺障害による損害につき 重い後遺障害の該当する等級の3級上位の等級に応ずる同表に定める金額
(中略)
等々と規定されています。要は障害保険金120万円、後遺障害保険金は同施行令別表1,2に定める後遺障害等級毎に75〜4000万円、死亡の場合3000万円と自賠責保険金支払限度額が規定されています。
○交通事故実務では、自賠責保険会社(実質は損害保険料率機構の設置した各地の
自賠責損害調査事務所)が認定した後遺障害等級が納得できない場合も多く、異議申立をしても是正されず、最終的に裁判所に訴えを提起する例が多々あり、当事務所でも後遺障害等級の是正を含む訴えを相当件数扱っています。
○この後遺障害等級は、上記自賠法施行令別表第1,2に該当基準が規定されており、これを基準に認定されますが、この基準は直接の法律要件ではありませんので、裁判所はこの基準に拘束されず、自由な裁量で後遺障害等級を認定できるのが建前です。しかし、現実には、別表の備考6項に「
各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であつて、各等級の後遺障害に相当するものは、当該等級の後遺障害とする。」とのいわゆる「相当等級」の規定もあり、相当程度基準に拘束される面があります。
○どのような場合に「相当等級」を認定できるかについては,具体的規定がないので、建前としては裁判所の判断で「相当等級」を認定して良く、裁判例では、自賠責後遺障害等級の備考を論拠として、「相当等級」を意識して認定する例が多いようですが、「相当等級」無関係に後遺障害を認定する例もあるようです。
この「相当等級」あるいは裁判所自由裁量認定後遺障害の具体的事例と判決については別コンテンツで解説します。