○「
自賠責保険金等内金返済の充当方法」で紹介した平成16年12月20日最高裁判決は、判例時報や判例タイムズには掲載されていないので全文を紹介し、「
社会保険給付については元本充当すべきとの最高裁判決1」と比較する別コンテンツを作成します。
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平成16年12月20日最高裁判決全文前半
主 文
原判決のうち上告人ら敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理 由
第一 事案の概要
1 原審の確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
(1)Aは、平成11年2月24日、横断歩道上で自動車に衝突される交通事故(以下「本件事故」という。)により死亡した。Aは、本件事故の当時会社員であり、本件事故により逸失利益等の財産的損害及び精神的損害を被った。
(2)被上告人Y1は、加害車両の運転者であり、本件事故は、同被上告人の過失により生じたものである。被上告人Y2は、加害車両の保有者である。
(3)Aの相続人は、その父母である上告人X1及びBであった。Bは、本件事故の後に死亡し、夫である上告人X1及び子である上告人上告人X2がその相続人となった。この結果、上告人X1が4分の3、上告人X2が4分の1の各割合で、Aの被上告人らに対する損害賠償請求権を取得した。
(4)上告人らは、平成13年2月28日、自動車損害賠償責任保険から、本件事故の損害賠償として、3000万3800円の支払を受けた(以下、これを「本件自賠責保険金」という。)。
また、上告人X1は、平成14年4月15日から平成15年4月15日までの間に労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金として合計279万7033円、平成11年8月13日から平成15年4月15日までの間に厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金として合計265万4,342円の各支給を受けた(以下、これらの年金を「本件遺族年金」と総称し、これと本件自賠責保険金とを合わせて「本件自賠責保険金等」という。)。
2 本件は、上告人らが、被上告人らに対し、民法709条及び自動車損害賠償保障法3条に基づき、本件事故による損害の賠償を求める訴訟である。
上告人らは、
@本件事故によるAの損害(逸失利益、慰謝料及び治療費)は1億8042万2495円であり、その損害賠償請求権を上告人らが前記各割合で取得した、
A上告人X1の固有の損害(弁護士費用、葬儀費用等)は1816万8350円、上告人X2の固有の損害(弁護士費用)は400万円である、
B本件自賠責保険金は、上告人らが賠償を求め得る損害額から控除されるが(なお、本件遺族年金は控除されるべきものでない。)、まず、上記損害の合計額(弁護士費用を除く。)に対する本件事故の日からその支払日までの民法所定の年5分の割合による遅延損害金に充当され、次いで、その残額が損害金の元本の一部に充当される
と主張して、上告人X1において、1億4508万0789円及び内金1300万円(弁護士費用)に対する平成11年2月24日から、内金1億3208万0789円(上記以外)に対する平成13年3月1日から、各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金、上告人X2において、4619万2455円及び内金400万円(弁護士費用)に対する平成11年2月24日から、内金4219万2455円(上記以外)に対する平成13年3月1日から、各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の各支払を求めるものである。
3 原審は、被上告人らに損害賠償責任があることを認めた上で、本件事故による損害につき次のとおり判断して、上告人X1の請求を、6315万2043円及び内金600万円に対する平成11年2月24日から、内金5715万2043円に対する平成13年3月1日から、各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で認容し、上告人X2の請求を、1982万7,897円及び内金150万円に対する平成11年2月24日から、内金1832万7897円に対する平成13年3月1日から、各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で認容した。
(1)Aの被った損害の額は、以下の合計の1億0757万0960円である。
ア 逸失利益 7936万円(Aが本件事故当時の勤務先において定年まで勤務すれば得られたであろう給与、賞与、退職一時金及び退職年金並びに定年退職後に他で稼働して得られたであろう収入)
イ 慰謝料 2800万円
ウ 治療費 21万0960円
(2)上告人X1の固有の損害は816万8350円(うち弁護士費用は600万円である。)、上告人X2の固有の損害は150万円である。
(3)本件自賠責保険金は、本件事故によりAの被った損害の一部をてん補する。また、本件遺族年金(ただし、返納を要するとされる119万5805円を除いた部分に限る。)は、Aの被った損害のうち逸失利益の一部をてん補する。
(4)不法行為による損害賠償請求権は、上記(3)の損益相殺的な処理を行った後の真の損害額について成立するのであって、損益相殺的な処理をする前の見掛けの損害額において損害賠償請求権が成立し、その債務が不法行為の日から遅滞に陥った後、本件自賠責保険金等によって一部弁済されたとみることは当を得ない。したがって、弁済充当に関する民法の規定を適用又は類推適用する余地はない。
(5)以上によれば、Aが被上告人らに対して賠償を請求し得る損害額は、7331万1590円(上記(1)の損害額から本件自賠責保険金等を控除した額)となり、上告人らは、Aの損害賠償請求権を前記各割合で取得した。したがって、これに上記(2)の各上告人の固有の損害を加えた金員及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で、上告人らの請求は理由がある。