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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

社会保険給付については元本充当すべきとの最高裁判決1

○「自賠責保険金等内金返済の充当方法」で交通事故による損害賠償債務は事故日に発生し且つ何らの催告なく遅滞に陥るもので(昭和37年9月4日最高裁判決)、自賠責保険金等によって填補される損害についても、既に事故時から自賠責保険金等の支払日まで遅延損害金が発生しているのであるから、自賠責保険金等が支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは先ず発生済み遅延損害金に充当されるべきであるとした平成16年12月20日最高裁判決を紹介していました。

○この判決により私は、自賠責保険金に限らず、損益相殺の対象となる各種社会保険給付も先ず遅延損害金から充当すべきと考えていました。しかし、残念ながら社会保険給付に関しては「そのてん補の対象となる損害は本件事故の日にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をするのが相当」との平成22年9月13日最高裁判決が出されました。
以下、判決全文の前半部分を紹介します。別コンテンツで私なりの解説をします。

原審の東京高裁は、「本件各年金給付が支給される時点における逸失利益の元本及びこれに対する遅延損害金の全部を消滅させるのに足りないときは,これをまず各てん補の日(ただし,支給を受けることが確定した年金等については口頭弁論終結日)までに生じている遅延損害金に,次いで元本に充当すべき」としていたのですが。

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主 文
1 平成20年(受)第494号上告人の上告を棄却する。
2 平成20年(受)第495号上告人の上告に基づき,原判決中,主文第1項を次のとおり変更する。
平成20年(受)第495号被上告人の控訴に基づき,第1審判決を次のとおり変更する。
(1) 平成20年(受)第495号上告人は,同号被上告人に対し,4226万9811円及びこれに対する平成17年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 平成20年(受)第495号被上告人のその余の請求を棄却する。
3 訴訟の総費用は,これを3分し,その2を平成20年(受)第494号上告人・同第495号被上告人の負担とし,その余を同第494号被上告人・同第495号上告人の負担とする。

理 由
平成20年(受)第494号上告代理人二宮仁の上告受理申立て理由及び同第495号上告代理人豊田正彦の上告受理申立て理由(ただし,いずれも排除されたものを除く。)について

1 本件は,交通事故によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った平成20年(受)第494号上告人・同第495号被上告人(以下「第1審原告」という。)が,加害車両の運転者であり,保有者である平成20年(受)第494号被上告人・同第495号上告人(以下「第1審被告」という。)に対し,民法709条又は自動車損害賠償保障法3条に基づき,損害賠償を求める事案である。

第1審原告が支給を受けた労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく各種保険給付,国民年金法に基づく障害基礎年金及び厚生年金保険法に基づく障害厚生年金との間で行う損益相殺的な調整につき,第1審原告は,これらが損害金の元本及びこれに対する遅延損害金の全部を消滅させるのに足りないときは,これらをまず各てん補の日までに生じている遅延損害金に充当し,次いで元本に充当すべきであるなどと主張しており,これに対し,第1審被告は,上記の各給付は損害金の元本との間で損益相殺的な調整をすべきであり,これによって消滅した損害金の元本に対する遅延損害金は発生しないと解すべきであると主張して,第1審原告の請求を争っている。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 第1審原告は,平成14年3月6日,通勤途上,その運転する自動車が脱輪したため同車から降りて路側帯に立っていたところ,第1審被告が運転し,保有する普通乗用自動車に衝突される交通事故(以下「本件事故」という。)により,右大腿骨開放性骨折等の傷害を受け,その後に右大腿切断後及び左膝複合靱帯損傷の後遺障害が残った。本件事故により第1審原告に生じた損害は,別紙のとおりである。

(2) 第1審原告は,第1審判決別表第4記載のとおり,自動車損害賠償責任保険契約に基づく損害賠償額と第1審被告が締結していた自家用自動車保険契約に基づく保険金(以下「任意保険金」という。)の各支払を受け,また,労災保険法に基づく療養給付及び休業給付(以下「本件各保険給付」という。)の各支給を受けた。なお,第1審原告と第1審被告とは,任意保険金の各支払に当たり,支払を受けた保険金を本件事故による損害金の元本に充当し,これによって消滅する損害金の元本に対する遅延損害金の支払債務を免除する旨の黙示の合意をした。

(3) さらに,第1審原告は,原審口頭弁論終結の日である平成19年9月20日までに,原判決別紙年金支払表の「労災年金」欄記載のとおり,労災保険法に基づく障害年金の各支給を受けるとともに,同表の「厚生年金」欄記載のとおり,国民年金法に基づく障害基礎年金及び厚生年金保険法に基づく障害厚生年金の各支給を受け,又はその支給を受けることが確定していた(以下,原審口頭弁論終結の日までに支給がされ,又は支給を受けることが確定していた上記の障害年金,障害基礎年金及び障害厚生年金を,併せて「本件各年金給付」という。)。

3 原審は,上記事実関係の下において,本件各保険給付及び本件各年金給付についての損益相殺的な調整につき,次のとおり判断して,第1審原告の請求を,4601万5288円及びうち2337万3760円に対する平成17年4月1日から,うち2264万1528円に対する平成19年9月21日から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で認容した。

(1) 本件各保険給付は,支払原因が生ずる都度,治療費を病院に支払い,休業期間に対応する給付金を第1審原告に支払うなどしてされたものであり,上記各支払により治療費等の療養に要する費用又は休業損害金の元本がてん補されたことは明らかであって,遅滞による損害が実質的には生じていなかったことからすると,上記てん補に係る損害に対する本件事故の発生の日から各てん補の日までの遅延損害金が生ずると解することは,損害の公平な分担という観点からして相当でない。

(2) 本件各年金給付は,いずれも第1審原告の後遺障害による逸失利益をてん補するものであり,既に支給を受けた年金等及び口頭弁論終結日までに支給を受けることが確定した年金等の額の限度で,上記逸失利益との間で損益相殺的な調整を行うことができるところ,本件各年金給付が支給される時点における逸失利益の元本及びこれに対する遅延損害金の全部を消滅させるのに足りないときは,これをまず各てん補の日(ただし,支給を受けることが確定した年金等については口頭弁論終結日)までに生じている遅延損害金に,次いで元本に充当すべきである。