被害者一般の保険会社に対する直接請求−原則は不可
○責任保険契約とは、被保険者が第3者に対して一定の支払義務を負担した場合、これを填補することを目的とする保険契約です。加害者となる場合に備えて、保険会社との間で予め比較的少額の保険料を支払って責任保険契約を締結しておくことにより、実際、事故が発生した場合、保険会社が被害者のために損害金を支払ってくれます。従って保険契約は、加害者、被害者双方を保護する機能を有しています。
○責任保険契約が締結されても被害者は契約外の第3者ですから、事故が発生して被害者が加害者に対し、損害賠償請求権を取得しても、保険会社に対して保険金請求権を有するのはあくまで保険契約者である加害者だけです。被害者は保険会社に保険金を請求できないことが原則ですが、被害者の救済に最も効果があるのは、被害者が保険会社に直接請求できる制度です。
○そこで商法第667条で「賃借人其他他人ノ物ヲ保管スル者カ其支払フコトアルヘキ損害賠償ノ為メ其物ヲ保険ニ付シタルトキハ所有者ハ保険者ニ対シテ直接ニ其損害ノ填補ヲ請求スルコトヲ得」と、他人の物の保管者の責任保険については、契約外の第3者であるその物の所有者に保険会社に対する直接請求権を認めています。
○同様に自動車事故について自動車損害賠償保障法(自賠法)第16条(保険会社に対する損害賠償額の請求)で「第3条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる。」と被害者の保険会社に対する直接請求権を認めています。
○責任保険一般について被害者の保険会社に対する直接請求権を認めるべきとの考え方も無いわけではありませんが、通説は、保険契約はあくまで当事者間でのみ効果があるに過ぎず、商法667条や自賠法16条のように被害者の直接請求を認める特別の定めがない限り、被害者は保険会社に直接請求は出来ないとしています。
○自賠法第16条で認められる被害者の保険会社に対する直接請求権は、加害者の保険金請求権とは異なり、損害賠償請求権であり(最判昭和57年1月29日民集36-1-1)、また加害者に対する損害賠償請求権とは別個独立の権利で、被害者が保険会社に対し、査定額のみ受領し、その余の請求権を放棄しても加害者に対し、不足分を請求できます(最判昭和39年5月12日民集18-4-583)。
○自賠責への請求で注意すべきは自賠法第16条で「第16条第1項及び第17条第1項の規定による請求権は、2年を経過したときは、時効によつて消滅する。」と時効期間が2年に短縮されていることです。