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小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

遺言書

遺言”相続させる”財産処分に遺言執行者関与不要を確認した高裁判決紹介

○「遺言と異なる内容の遺産分割協議無効確認の訴えを却下した地裁判例紹介」を続けます。
遺言は、遺産について相続人間で遺産分割協議がまとまらず紛争が生じることを避けることを目的として作成するものです。従って相続人間で遺産協議がまとまり紛争が生じないのであれば遺言書は必要なくなります。遺産分割は、遺言者死去後の問題ですから、遺言者死去後は、遺言者の財産処分意思より生きている相続人の財産処分意思を優先するべきで、遺言書内容に相続人が拘束されないとするのが合理的です。但し、あくまで相続人全員一致が必要であり、1人でも反対者が居る場合は遺言の定めが最優先です。

○相続人全員一致意思優先との意味では、民法第1013条「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」との規定は、遺言執行者がある場合、生きている相続人の財産処分意思より死者である遺言者の財産処分意思を優先させる結果も導くもので立法論として問題であり、限定的に解釈すべきと考えています。

○遺言で「相続させる」とした財産は、相続開始と同時に指定された相続人に所有権が帰属し、遺言執行者が関与する余地がないとの解釈(平成3年4月19日最高裁判決)が定着し、現在作成させる遺言書は「相続させる」と表記するのが常識です。20数年前ですが、膨大な不動産所有者の公正証書遺言作成を依頼され、私自身を遺言執行者にしていする遺言書を作成し、遺言執行者になったことがあります。

○遺言執行で最も大きな仕事は膨大な不動産の相続登記と思っていたところ、不動産相続登記は「相続させる」と指定された相続人名義で司法書士に依頼するだけで足り、遺言執行者は何もすることがないと気づかされました。預金払戻も、遺言執行者としてではなく、指定された相続人の代理人として払い戻すことになり、純粋な遺言執行者としての業務は殆どありません。そこで私は、「私が原則として遺言執行者にならない訳」に記載したとおり、遺言書作成を依頼されても原則として遺言執行者にはなりません。

○「相続させる」と指定された遺産について遺言執行者は関与できませんので、その遺産について民法第1013条が適用される余地はありません。相続人がその遺産について遺言内容と異なる遺産分割協議(正確な用語としては贈与ないし交換的譲渡合意)をすることは自由にでき、遺言執行者は無関係になります。参考に、平成10年7月31日東京地裁判決(金融・商事判例1059号47頁)の控訴審平成11年2月17日東京高裁判決(金融・商事判例1068号42頁)を紹介します。

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主   文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は、控訴人の負担とする。

事   実
第一 当事者の求める裁判

一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 本件を東京地方裁判所に差し戻す。

二 被控訴人ら
(被控訴人Y1、同Y2及び同Y3)
 主文と同旨
 (被控訴人Y4)
 主文一項と同旨

第二 事案の概要等
 事案の概要、当事者の主張及び争点は、原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

第三 証拠
 証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理  由
一 当裁判所も、控訴人の本件訴えはいずれも不適法であるから却下すべきものと判断する。
 その理由は、原判決15頁三行目の「には」から同16頁七行目末尾までを次のとおり訂正するほかは、原判決の「第三 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。
 「(本件遺言)は、原判決別紙遺産目録1(2)の土地をBに「遺贈する」と記載する一方、その余の財産はいずれも被相続人らに「相続させる」と記載しており、後者は、これを遺贈と解すべき特段の事情は認められないから、被控訴人ら各自の相続分の指定とともに遺産分割方法の指定をしたものと解される。そして、同目録1(2)の土地は、Bが遺贈を放棄したことにより遺産に復帰し、遺言執行の対象から除外され、改めて被控訴人らの遺産分割協議によりその帰属者が定められるべきものとなったのであり(本件遺言ではBが遺贈を放棄した場合の措置を何ら定めていない。)、その余は、本件遺言の効力の発生(Aの死亡)と同時に、本件遺言のとおり、被控訴人ら各自に相続により確定的に帰属したものと解されるから、いずれも遺言の執行の余地はなく、控訴人が遺言執行者としてこれに関与する余地はないものといわざるを得ない。

 なお、付言すれば、原判決別紙遺産目録3以下の遺産のうち、被控訴人らの一部の者にそれぞれ当該遺産の一定数量又は一定割合を相続させるとしている遺産に係る各自の取得分については、本件遺言において、遺言執行者に具体的な分割権限を付与したものとは認められないから、被控訴人ら間の遺産分割協議、調停又は審判により、具体的な帰属を決定することになる。

 そして、本件遺産分割協議は、原判決別紙遺産目録1(2)の土地についての遺産分割の協議とともに、その余の遺産について被控訴人ら各自が本件遺言によりいったん取得した各自の取得分を相互に交換的に譲渡する旨の合意をしたものと解するのが相当であり、右の合意は、遺言執行者の権利義務を定め、相続人による遺言執行を妨げる行為を禁じた前記民法の各規定に何ら抵触するものではなく、有効な合意と認めることができる。」

二 よって、当裁判所の右判断と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法67条1項、61条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 石井健吾 裁判官 櫻井登美雄 杉原則彦)