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小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

相続人

遺言執行者の相続人廃除申立を却下した審判を取り消した抗告審決定紹介

○「遺言執行者の相続人廃除申立を別件和解成立を理由に却下した審判例紹介」の続きで、その抗告審である平成29年6月29仙台高裁決定(判タ1447号99頁)全文を紹介します。

○被相続人Cの相続人は、Cの前夫との間の子である抗告人、Cの後夫との間の子であるD及び被相続人の養子であるB(相手方)の3人ですが、抗告人は、相手方との間で、別件遺留分減殺請求訴訟において、抗告人が相手方に対し遺留分の価額弁償として1200万円の支払義務があることを認めてこれを支払うことなどが含まれていました。

○そのため、抗告人から、相手方に対して、推定相続人廃除の審判が申し立てられたことに対し、原審平成29年4月7日仙台家裁審判(判タ1447号100頁)は、遺留分減殺請求訴訟と本件排除請求は、独立した制度である以上、それぞれ判断されるべきであるとの申立人の主張を認めると、和解で合意した価額弁償金の返還を生じる可能性もあるので、法的安定性を欠くなどとして、本件申立てを不適法として却下していました。

○それが、抗告審仙台高裁決定(判タ1447号99頁)は、抗告人は、相手方との間で、別件遺留分減殺請求訴訟において裁判上の和解をしており、その内容には、抗告人が相手方に対し遺留分の価額弁償として1200万円の支払義務があることを認めてこれを支払うことなどが含まれているが、上記訴訟は抗告人と相手方の個人間の紛争であり、本件和解も被相続人の遺産についての抗告人と相手方の個人間の紛争を解決したものにすぎないから、これによって個人の立場や利害を離れて職責を行使しなければならない遺言執行者としての職務遂行に影響を及ぼすことはないというべきであるとして、本件を却下した原審判を取り消し、本件を仙台家庭裁判所に差し戻しました。

 前夫---被相続人C-----------後夫
    |      |         |
   抗告人    B(養子、相手方)  D

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主   文
1 原審判を取り消す。
2 本件を仙台家庭裁判所に差し戻す。

理   由
第1 抗告の趣旨

1 原審判を取り消す。
2 Bが被相続人Cの推定相続人であることを廃除する。

第2 事案の概要等

(1)被相続人は,平成24年*月*日に死亡し,相続が開始したが,その相続人は,被相続人の前夫との間の子である抗告人、被相続人の後夫との間の子であるD及び被相続人の養子であるB(以下「相手方」という。)の3人である(甲1ないし11)。
(2)被相続人は,平成22年*月*日,被相続人の一切の財産を抗告人に相続させること,相手方を推定相続人から廃除すること,抗告人を遺言執行者に指定することなどを含む公正証書遺言(仙台法務局同年第*号。以下「本件遺言」という。)をした(甲13)。 
(3)抗告人は,遺言執行者として,平成28年*月*日,仙台家庭裁判所に対し,相手方に係る本件推定相続人廃除の審判を申し立てた(記録上明らかな事実)。

2 原審は,抗告人と相手方間の遺留分減殺請求訴訟(仙台地方裁判所平成25年(ワ)第*号。以下「別件遺留分減殺請求訴訟」という。)において,抗告人が相手方の遺留分を認める内容の裁判上の和解が成立したことを理由に,本件推定相続人廃除の審判の申立ては訴訟上の信義則に反し,推定相続人廃除を求める法律的利益も失われているなどとして,本件申立てを却下したところ,抗告人がこれを不服として抗告した。

第3 当裁判所の判断
1 遺言執行者は,遺言によって指定又は家庭裁判所によって選任される(民法1006条1項,1010条)が,その地位は「相続人の代理人」とみなされ(同1015条),相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有するとともに善管注意義務を負い(同1012条,644条),その権限行使の効果は相続人に帰属するとされているのであるから,自己の私的な立場や利害を離れて職務を遂行し,遺言の内容を実現すべき責任を負っているところ,抗告人は,遺言執行者としての立場で,その職務の遂行として,本件推定相続人廃除の審判の申立てをしたものである。

2 ところで,一件記録によれば,抗告人は,相手方との間で,別件遺留分減殺請求訴訟において裁判上の和解をしており,その内容には,〔1〕抗告人が相手方に対し遺留分の価額弁償として1200万円の支払義務があることを認めてこれを支払うことや,〔2〕抗告人と相手方は,被相続人の遺産について和解条項に定める以外に何らの権利義務がないことを確認し,相互に財産上の請求をしないことを約する清算条項などが含まれており(乙2。以下「本件和解」という。),抗告人と相手方との間では,被相続人の遺産に関する紛争は本件和解によって既に解決していることが認められる。

 しかしながら,上記訴訟は抗告人と相手方の個人間の紛争であり,本件和解も被相続人の遺産についての抗告人と相手方の個人間の紛争を解決したものにすぎないから,これによって,個人の立場や利害を離れて職責を行使しなければならない遺言執行者としての職務遂行に影響を及ぼすことはないというべきである。また,本件では,相続人として抗告人と相手方の他にDがいるのであるから,抗告人と相手方だけで,Dの法的地位に影響を及ぼしうる合意をすることができないことも明らかである。

3 そうすると,上記のとおり,抗告人は遺言執行者の立場で本件推定相続人廃除の審判の申立てをしているものであり,個人の立場としてした本件和解が本件推定相続人廃除の審判の申立てに影響を及ぼし,同申立てが訴訟上の信義則に反したり,同審判の申立ての利益が失われることはないというべきである。

4 以上によると,抗告人による本件推定相続人廃除の審判の申立てを実体審理することなく不適法として却下した原審判は相当ではないから,これを取消した上で,必要な審理を尽くさせるために,本件を原審に差し戻すのが相当である(家事事件手続法91条2項ただし書,93条3項,民事訴訟法307条本文)。
 よって,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 市村弘 裁判官 小川理佳 裁判官 佐藤卓)