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小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

遺留分

相続開始前遺留分放棄の許可要件について-許可申立却下例紹介

○相続開始前の遺留分の放棄について、どのような場合に家庭裁判所の許可を得られるのでしょうかとの質問を受けました。相続開始前の遺留分の放棄について民法・家事事件手続法では以下の通り規定されています。

第1043条(遺留分の放棄)
 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2 共同相続人の1人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。

家事事件手続法
第18節 遺留分に関する審判事件
第216
条 次の各号に掲げる審判事件は、当該各号に定める地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。
 一 遺留分を算定する場合における鑑定人の選任の審判事件(別表第一の109の項の事項についての審判事件をいう。) 相続が開始した地
 二 遺留分の放棄についての許可の審判事件(別表第一の110の項の事項についての審判事件をいう。) 被相続人の住所地
2 遺留分の放棄についての許可の申立てをした者は、申立てを却下する審判に対し、即時抗告をすることができる。


○弁護士稼業38年目に入っていますが、残念ながら、相続開始前の遺留分放棄申立を事件として依頼されたことはありません。家庭裁判所での相続開始前遺留分放棄申立の許可を出す基準・要件についてシッカリ調査したことはなく、おそらく放棄の意思が真意かどうかを確認し、且つ、放棄理由の合理性-事前の対価の有無等が審査されると思われますと、一般的回答をしておきました。

○相続開始前の遺留分放棄を自由に認めると、被相続人の圧迫により遺留分権利者が予め放棄するように強要されるおそれがあるからと一般に説明されています。家事事件手続法で相続開始前遺留分放棄許可申立を却下された場合、即時抗告が出来ると規定されています。そこで却下されて即時抗告した裁判例を探したところ、以下の判例が見つかりましたので紹介します。

先ず却下した平成15年6月6日水戸家裁下妻支部審判( 家庭裁判月報56巻2号140頁)です。

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主   文
本件申立てを却下する。

理   由
1 本件申立の趣旨と実情
 本件申立の趣旨は,申立人の被相続人の相続財産に対する遺留分を放棄することを許可するとの審判を求めるというのである。
 申立の実情は次のとおりである。
 被相続人と申立人の母永井要子(以下,単に「要子」という)は,昭和52年6月13日,申立人及び亡二男正信の各親権者を申立人の母として調停離婚した。
 申立人母は被相続人を相手方として、二男である亡永井正信名義の株券等権利確認の調停を申し立てたところ,該調停の相手方代理人浅川友助から,申立人が被相続人の遺留分を放棄するなら,株券の権利を認める旨提案された。 
 申立人としてはこれに応じたい。

2 当裁判所の判断
ア 事実

 本件記録によると,以下の各事実を認めることができる。
〔1〕被相続人と要子は,昭和41年9月27日要子を戸籍筆頭者とする婚姻をし,昭和42年8月23日,申立人が,昭和45年7月12日,二男がそれぞれ出生した。
〔2〕被相続人と要子は,昭和52年6月13日,未成年者らの親権者をいずれも要子として調停離婚した。
〔3〕二男は,平成14年4月28日,土浦市で死亡した。
〔4〕要子は,二男名義の株券等権利確認の調停を下館簡易裁判所に申立てた。
〔5〕平成15年2月18日の調停期日において,被相続人(該調停相手方)代理人浅川友助(被相続人実弟)と申立人(該調停申立人)代理人弁護士○○○○との間に,二男名義の株券等の権利が申立人に属することを確認する旨の調停が成立した。
〔6〕申立人代理人弁護士作成の上申書には,上記調停成立の際,「被相続人は病気のため出頭できないとして実弟の友助が出頭した,被相続人本人は生活保護を受けていること,茨城県下館市○○町に土地約50坪を所有するが,これを友助に遺贈することになっていること,その関係で申立人に遺留分を放棄してもらいたいと述べた」旨の記載がある。
〔7〕当裁判所は,申立人代理人に対し,被相続人の遺産の内容・価額,申立人の遺留分の価額,遺留分の価額に見合う申立人の代償的利益の有無・内容についての資料提出を求めた。申立人代理人からは,被相続人の遺産は不明である,本件遺留分放棄に関して,被相続人から受けた利益は一切ない旨の回答があった。

イ 判断
 遺留分は,相続人の生活保障等の見地から,被相続人の遺言内容等にもかかわらず,法が特に認める取得分であるから,その相続開始前の放棄に当たっては,遺留分放棄を相当とするに足りる程度の合理的代償利益の存在を必要とすると解される。
 上記各事実によると,被相続人の遺産の内容・価額は判明しないものの,少なくとも,遺留分放棄を相当とする合理的代償は一切ないことが明らかである。
 以上によると,本件遺留分放棄を許可することは相当でないから,主文記載の審判をするのが相当である。