遺産分割方法に関する平成28年3月12日東京高裁判決紹介
○遺産分割申立事件において、現金等の分割とともに不動産の換価競売を命ずる場合には、競売による換価代金が当該不動産の評価額と異なるものとなることが避けられないから、当事者間の公平を図るためには、換価代金は、できる限り、各当事者の具体的相続分の割合に応じて分配するのが相当とした平成28年8月10日東京高裁判決(判例時報2328号51頁)全文を紹介します。
○事案は、元々は、被相続人の妻である亡Hが、いずれも被相続人の子である抗告人及び相手方に対し、被相続人の遺産(以下「本件遺産」という。)の分割を求めて審判を申し立てたものです。
被相続人_______亡H
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抗告人 相手方
○亡Hに目録記載一(1)の土地、同二の借地権、同三の建物、同四(1)ないし(5)の預貯金、同五(1)ないし(6)の株式等及び同六(1)の現金を取得させ、相手方に目録記載六(2)の現金のうち2633万3551円を取得させ、抗告人に目録記戴五(7)の株式等及び同六(2)の現金のうち178万2224円を取得させるとした上で、目録記載一(2)の土地について競売を命じ、その売却代金から競売費用を控除した残額を亡Hに10分の1、抗告人に10分の9あて分配する旨の審判をしました。
○その後、亡Hが死去し、目録記載一(2)の土地の競売による換価額が評価額より低廉なものとなるのは必至であるから、原審の分割方法によると、抗告人のみが著しく不利益を受けることとなり、相続人間の公平を害する結果となると主張して抗告したものです。
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主 文
一 原審判を次のとおり変更する。
二 被相続人の遺産を次のとおり分割する。
(1)抗告人は、原審判別紙遺産目録(以下「目録」という。ただし、目録六(1)の「申立人」を「相手方亡H」と改める。)記載四(1)ないし(5)の預貯金(※32万1871円)、同五(1)ないし(7)の株式等(※1497万7980円)、同六(1)の現金(※247万円)及び同六(2)の現金(※2811万5775円)のうち517万2972円を取得する。
(2)相手方は、目録記載六(2)の現金のうち2294万2803円を取得する。
(3)目録記載一(1)(※3115万円)及び(2)(※2726万円)の各土地、同二の借地権並びに同三の建物(※104万円)について競売を命じ、その売却代金から競売費用を控除した残額を、抗告人及び相手方に各1000分の57あて取得させ、かつ、抗告人及び相手方に各1000分の443あて交付する。
三 相手方は、抗告人に対し、前項(1)の517万2972円を支払え。
四 手続費用は第1、2審を通じてこれを2分し、その1を抗告人の負担とし、その余を相手方の負担とする。
理 由
第一 抗告の趣旨
一 原審判を次のとおり変更する。
二 被相続人の遺産を次のとおり分割する。
(1)相手方亡H(以下「亡H」という。)は、目録記載六(1)の現金のうち11万4541円を取得する。
(2)相手方は、目録記載六(2)の現金のうち2288万5533円を取得する。
(3)抗告人は、目録記載四(1)ないし(5)の預貯金、同五(1)ないし(7)の株式等、同六(1)の現金のうち235万5459円及び同(2)の現金のうち523万0242円を取得する。
(4)目録記載一(1)及び(2)の各土地,同二の借地権並びに同三の建物について競売を命じ、その売却代金から競売費用を控除した残額を亡Hに1000分の884、抗告人及び相手方に各1000分の58あて配分する。
三 亡Hは、抗告人に対し、前項(3)の235万5459円を支払え。
四 相手方は、抗告人に対し、前項(3)の523万0242円を支払え。
第二 事案の概要
本件は、被相続人の妻である亡Hが、いずれも被相続人の子である抗告人及び相手方に対し、被相続人の遺産(以下「本件遺産」という。)の分割を求めて審判を申し立てた事案である。
原審は、亡Hに目録記載一(1)の土地、同二の借地権、同三の建物、同四(1)ないし(5)の預貯金、同五(1)ないし(6)の株式等及び同六(1)の現金を取得させ、相手方に目録記載六(2)の現金のうち2633万3551円を取得させ、抗告人に目録記戴五(7)の株式等及び同六(2)の現金のうち178万2224円を取得させるとした上で、目録記載一(2)の土地について競売を命じ、その売却代金から競売費用を控除した残額を亡Hに10分の一、抗告人に10分の九あて分配する旨の審判をしたので、抗告人が、目録記載一(2)の土地の競売による換価額が評価額より低廉なものとなるのは必至であるから、原審の分割方法によると、抗告人のみが著しく不利益を受けることとなり、相続人間の公平を害する結果となると主張して抗告した。
そして、原審判後の平成27年××月××日、亡Hが死亡し、平成28年××月××日、同人の相続人である抗告人及び相手方が、亡Hの相手方(原審申立人)の地位を承継したが、抗告人と相手方は、本件遺産の分割手続において、亡Hが取得すべき財産を抗告人と相手方との間で更に具体的に分割することには合意しなかった。
第三 当裁判所の判断
一 本件遺産分割における前提事実
一件記録により認められる事実は、次のとおり原審判を補正するほかは、原審判の「理由」中の一ないし三に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)引用部分中の各「申立人」をいずれも「亡H」と改める。
(2)原審判二頁13行目の「当事者間で」を「亡H、抗告人及び相手方の間において」と、同頁14行目の「当庁」を「東京家庭裁判所」と、同頁19行目の「以下目録記載」から同頁20行目の「個別には」までを「以下、本件遺産の個別の財産について」とそれぞれ改める。
(3)原審判三頁四行目、八行目及び12行目の各「全員」をいずれも削り、同頁六行目の「遺産」を「本件遺産及びその評価額」と改め、同頁七行目の冒頭に「(1)」を、同頁12行目末尾の次に行を改めて「(2)当事者は、本件遺産の評価額について、別紙「相続分等計算表」(以下「計算表」という。)の「評価額」欄記載のとおりである旨合意している。」をそれぞれ加える。
二 当裁判所が定める分割方法
(1)各当事者の具体的相続分相当額
本件において法定相続分を修正すべき事情は認められないから、亡H、抗告人及び相手方の具体的相続分は法定相続分と同じであり、その具体的相続分相当額は、計算表のB欄記載のとおりとなる。
(2)当事者の意向
抗告人は、本件土地(2)及び本件株式等(7)の取得を希望していたものの、本件土地(2)を取得した場合に負担すべき代償金を支払う資力がないため、抗告の趣旨記載のとおりの分割を求めている。
相手方は、本件現金(2)の取得を希望している。
(3)分割方法
ア 本件土地(1)及び(2)、本件借地権並びに本件建物(以下「本件不動産」という。)については、相手方は取得を希望しておらず、抗告人も換価分割を希望しているから、本件不動産はいずれも競売により換価分割するのが相当である。そして、競売による換価分割の場合は、売却代金から競売費用を控除した残額(以下「競売取得額」という。)が評価額とは異なるものとなることが避けられないから、当事者間の公平を図るためには、できる限り、競売取得額を各当事者の具体的相続分の割合に応じて分配するのが相当である。なお、本件においては、亡Hが死亡しているため、亡Hは本件遺産分割手続において名宛人となり得ず、競売取得額のうち亡Hに分配する部分は、亡Hの遺産としてその相続人である抗告人と相手方との間において遺産共有の状態にあるものであり、当該相続人の相続分は各2分の1であるから、競売取得額のうち亡Hに分割する部分については、抗告人と相手方との間において均等な割合で保管させることとするのが相当である。
そして、本件遺産のうち当事者が現物で取得する本件預貯金、本件株式等及び本件現金(以下「本件金融資産」という。)の合計額が抗告人及び相手方の具体的相続分相当額の合計額に満たない本件においては、まず、本件金融資産を抗告人と相手方とに均等に取得させ、その取得額を前提として、本件不動産に係る競売取得額について、亡Hに分配する部分を含めた分配割合を定めることとするのが当事者間の公平に適うものというべきである。
イ 前記アの分割方法によると、本件金融資産については、相手方が保管する本件現金(2)のうち、本件金融資産の合計額の2分の1相当額である2294万2803円を相手方に取得させ、その余の本件金融資産を抗告人に取得させるのが相当である。この結果、相手方は、抗告人に対し、相手方が保管する本件現金(2)のうち517万2972円を支払う方法で引き渡す必要がある。
以上の本件金融資産の分割の結果に従うと、亡H、抗告人及び相手方において、本件遺産の現物による取得の後に具体的相続分相当額に不足する額は、計算表のD欄記載のとおりとなり、これが本件不動産の評価額に占める割合は、同E欄記載のとおりとなるから、本件不動産の競売取得額を分配する割合は、亡Hに1000分の886、抗告人及び相手方に各1000分の57とするのが相当である。そして、本件において亡Hに取得させることとなる本件不動産の競売取得額の1000分の886の割合による金員については、前記アのとおり、抗告人と相手方が各2分の1ずつ交付を受けるものと定めておき、これをそれぞれが遺産共有状態にあるものとして保管するのが相当であるから、その趣旨を主文において明らかにしておくこととする。
三 以上のとおりであるから、これと異なる原審判を変更することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 青野洋士 裁判官 貝原信之 小田正二)
別紙 相続分等計算表