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小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

遺産分割

遺産として預貯金しかない場合の特別受益控除-62年ぶり判例変更か?

○「遺産である預貯金は当然分割説により特別受益制度は適用されない」で、遺産預貯金当然分割説の立場で、預貯金の生前贈与が、特別受益と認められなかった話しをしました。数値を更に単純化すると、
被相続人A、相続人B・C2人のみ
A預貯金1億2000万円、但し内3000万円がBに生前贈与され、相続開始時預貯金9000万円、
Cは、Bの特別受益を理由に9000万円をCが6000万円、Bが3000円と分けるべきと主張
Bは、B・C共に4500万円ずつに分けるべきと主張し、調停中に4500万円を払い戻し
一審判決・二審判決共に遺産預貯金当然分割説の立場で、Bの主張を認めた

というものです。理由は、Cは4500万円も取得できるのだから、特別受益なんて認めなくてもいいじゃないかといういい加減なものでした。

○これに対し以下のニュースの事案は、
被相続人A、相続人B・C2人のみ
A預貯金9500万円、但し内5500万円をBに生前贈与され、相続開始時預貯金4000万円、
Cは、Bの特別受益を理由に4500万円全てをCが取得すると主張
Bは、B・C共に2000万円ずつに分けるべきと主張
一審判決・二審判決共に遺産預貯金当然分割説の立場で、Bの主張を認めた

というものです。この事案での特別受益を認めない理由は、ニュースでは不明です。

○上記二つの事案は、特別受益制度がある以上、誰が考えても、Cの主張が正しいはずです。しかし家裁実務では、昭和29年4月8日最高裁判決(民集8巻4号819頁)の遺産預貯金当然分割説の縛りにより、Bの主張が正しいとして運用されてきました。私の知る全ての学説はCの主張が正しいとしています。しかし、殆どの裁判官は、昭和29年最高裁判決の縛りに逆らえず矛盾を感じながらもBの主張を正しいとする判決を書き続けてきました。

○それが、62年ぶりに、ようやく昭和29年4月8日最高裁判決(民集8巻4号819頁)の遺産預貯金当然分割説の見直しがなされるようです。最高裁判決をものともしない勇気ある裁判官が増えれば、もっと早く見直されていたはずなのですが。

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遺産相続の預貯金の取り分めぐり 大法廷で弁論
NHKニュース10月19日 17時41分


遺産相続の際の預貯金の取り分をめぐって争われている審判で、最高裁判所の大法廷で弁論が開かれました。大法廷が判例を変えれば、今後、家庭裁判所の審判では、不動産などの財産に預貯金を加え、遺産全体を対象にして取り分を決められるようになります。

遺産の相続人による協議がまとまらない場合、家庭裁判所に審判を申し立て、不動産や株式などの取り分を決めることができますが、過去の判例で、預貯金は審判の対象外とされ、取り分は「子どもがいる配偶者は2分の1」など、法律の規定にしたがって相続するとされてきました。

しかし、今回争われている審判では、遺産相続の前に相続人の1人が多額の贈与を受けていたため、もう1人の相続人が「預貯金を法律の取り分で分けると全体として不公平になる」と訴えています。

これについて最高裁判所の大法廷で15人の裁判官全員が参加して弁論が開かれ、審判を申し立てた側が「預貯金も審判の対象にすべきだ」と主張しました。
一方、相手方は「今の法律では、預貯金を審判の対象にしないことが前提となっている」と反論しました。

これまでの判例では、預貯金は家庭裁判所の審判の対象外とされてきましたが、最高裁の大法廷が判例を変更すれば、今後、家庭裁判所の審判では、不動産などほかの財産に預貯金を加え、遺産全体を対象にして取り分を決められるようになります。

決定は年内にも出される見通しです。

なぜ預貯金が争いになったか

今回のケースでは、相続の前に2人の相続人のうち1人にだけ贈与が行われていたことが争いのもとになりました。
資産を持つ人が亡くなると、相続の権利を持つ人たちが「遺産分割協議」を行うことになります。

今回のケースでは、亡くなったAさんの遺産の大半は預貯金で、額はおよそ4000万円でした。遺言書は残されていませんでした。
相続人はBさんとCさんの2人で、民法で定められた「法定相続分」はそれぞれ2分の1ずつでした。しかし、BさんはAさんが亡くなる前におよそ5500万円の贈与を受けていました。このため、Cさんは、預貯金についてはすべて自分が相続することを求めました。

これに対してBさんは、「法定相続分」にしたがって2000万円ずつ分けるべきだという主張をしました。
この分け方だと、Bさんは生前の贈与も含めるとおよそ7500万円を受け取ることになるため、Cさんが審判を申し立てたのです。

過去の判例で、預貯金は遺産相続をめぐる審判の対象外として扱われてきたため、通常であれば「法定相続分」にしたがって分けることになりますが、Cさんは、不公平だと訴えました。
1審と2審はCさんの主張を退けましたが、最高裁判所は、判例の変更など重要な判断を示す場合にだけ開く大法廷で審理を始めました。

このため預貯金を審判の対象外としてきた判例が見直される見通しで、預貯金も不動産や株式などの資産と同じように扱われることになると見られます。

法制審議会の民法部会では法改正を議論

預貯金の相続について、法務大臣の諮問機関である法制審議会の民法部会は、すでに法改正の議論を始めています。

過去の判例では家庭裁判所の審判では預貯金を扱えないとされていますが、一部の相続人に生前の贈与があった場合などに公平な分け方ができないという指摘があります。
実際の審判では、相続人全員の合意が得られれば預貯金も対象に含めているほか、金融機関でも、全員の合意がなければ法律上の取り分の引き出しに応じないケースが多く、実務との間に差がある状況です。

こうしたことから、法制審議会の民法部会は、預貯金の相続について議論を始め、家庭裁判所の審判で取り分を決めることができるとする民法改正の中間試案をことし6月にまとめました。
法制審議会の部会は、今回の最高裁判所の決定の内容も踏まえてさらに検討を進める予定で、来年には民法改正の要綱案をまとめたいとしています。